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竜の里 5

「ここからはさらに念入りに対策しておこう」


  優斗たちはもともとそれぞれの魔法やスキル、マジックアイテムなどを使い、北にいるモンスターたちに見つからないようにしている。暗殺者の職業を中心にとっているシルヴィアはともかく、クレアと優斗、特にクレアの方は能力的に隠密行動には向いていないので、マジックアイテムや優斗に魔法をかけてもらったりして隠密性を向上させていたのだ。


  しかしここから先はさらに慎重な行動が要求されると考えたので、三人はより見つかりづらくなるよう手を打った。


『全然見つかりませんね。もともとこういった行動に向いているわたくしはともかく、まったく向いていないクレアでも全然見つかる気配がないとは……』

『そうだな。北には比較的レベルの高いモンスターが集まっているから念のため用心したが、この様子を見ると少し警戒しすぎたようだ』

『こういうのもなかなか楽しいな。しかしお互いに声を出さず頭の中で会話をする〈念話〉はやっぱり変な感じだ。何度も訓練しているが私はいまだに慣れそうにない』


  優斗たちは現在〈念話〉によって会話をしている。これも隠密のためであり、話し声によって相手に自分たちの存在を悟られる可能性を消すために行っている。また足音や足跡を自動で消せるブーツを履いたり、不可視化して敵に姿を見られないようになどもしていた。


  そして三人がこれまで行ったこともないような場所まで足を踏み入れた時、優斗はガドの大森林ではこれまで一度も見たことがなかった生物を目撃する。


「あれは……」


  思わず声を出してしまっていた優斗の目の前にいたのは、おそらくリザードマンだと思われる個体が五人と、それらを統括していると思われる竜人の男が一人だ。

  ダンジョンにも優斗が作ったリザードマンが何体も生息しているので、それらを見て少しは見る目を養うことができた優斗は、五人を見て何となく全員雄なんじゃないかと思う。とは言えそれに自信は持てなかったので、とりあえずリザードマンと竜人の集団を発見したということにしておく。


  ちなみに竜人がリーダーだと判断したのは種族的にリザードマンよりも竜人の方が強いケースが多く、また優斗が直感的に一番強いのが竜人だと判断したことと、竜人が一人とリザードマンが五体と言うことで、おそらく自分よりも弱いリザードマンたちを竜人が統率していると考えたからであった。


『二人はあいつら、もしくはあいつらと同じ種族の者たちをこの森で見たことがあるか?」

『ないな』

『同じくございません』

『二人も見たことがないか……他の奴らに聞いてみてもいいが、おそらくは知らないだろう。もし知っていたのなら警告ぐらいはしているはずだ』


  あくまで優斗の予想だが、リザードマンたちはともかくそれらを束ねているであろう竜人の男は、この世界に来てからこれまで優斗が見てきた中で一、二を争う強者であった(優斗とNPCたちよりは劣るので、あくまでそれ以外のダンジョンモンスターやガドの大森林に生息している者たち、そしてその大森林の外にいる者たちが対象)。


『捕えますか?』


  目の前にいる六人、とりわけその中で最も強いであろう竜人は、今回の異変の事を知っている可能性がある。これまで一度も出会わなかった種族の上さらにその強さまで今のところ北の森で一番だとすれば、仮に今回のことに関しては無関係だとしても、それ以外の優斗が知らないような北に関する情報を知っている可能性は高い。

  また実力的にも優斗たちなら一人で無傷のまま六人を捕えられる可能性が高いと判断できるので、彼らをとらえるという提案は悪くない案であると言えた。


『ちょっと待ってくれ。それも悪くないが、もう少し考える時間をくれ』


  優斗は相手を捕えようとは簡単に考えられない。先ほど問答無用でいきなりモンスターを捕えたようにこれは道徳的な判断では一切なく、むしろ自分たちのメリットとデメリットを考えての行動だ。


  捕えること自体は可能である。それはおそらく間違いないのだが、問題となるのはその後彼らの所属しているコミュニティーとの交渉が難しくなってくる点である。と言うのも、さすがにあの六人だけでコミュニティーを形成しているとは判断できない。数や戦力はわからないが、ほぼ百パーセントあの六人は何らかのコミュニティーに属しており、彼らを捕えたことがばれた場合ほぼ間違いなくそのコミュニティーとは敵対関係になってしまうのだ。


  向こうのコミュニティーにいるのが目の前の竜人程度ならそう苦労はしない。しかし問題なのはその竜人よりも強い個体がたくさんいる可能性を否定しきれないことであり、下手したら優斗よりも強い個体がいる可能性があることだ。

  エルフやダークエルフを支配下に置くときはちゃんと事前に調査をし、自分を上回る相手がいないどころか、優斗一人で全員を容易に倒せることがわかった段階で支配下に置くことを決定した。今回のように敵の戦力が全くの未知である場合には支配下に置くどころか、そこと敵対するという判断も容易には下せない。


  敵が攻めてきているのなら敵対するほかないだろうが、向こうの戦力がわからず敵対しているかどうかもわからない今の状況では、例え可能ではあってもその後敵対してしまう可能性の高い選択肢は簡単には選べなかった。


『だったら捕えて情報を十分に引き出した後、殺してからDPにして知らないふりすればどうだ?私たちは奴らには出会わなかったということにし、向こうに問い詰められてもしらを切りとおせばいいのではないか?』


  確かにクレアの方法は一番確実だ。今なら敵にこちらの存在はばれていないだろうから、不意打ちして気絶させた後速やかに回収し、敵が何らかの手段で仲間に連絡する前に事を済ませることもできる。


  しかし問題は敵が何らかの手段でGPSのようなものを身に着けている、もしくは味方の居場所がわかるような魔法やスキルを使える者がコミュニティーの中にいる場合だ。

  こういう世界である以上優斗の知らない技術を相手が持っていてもおかしくはない。そう考えるとダンジョンに連れ帰ったりなんかしたらダンジョンの存在が向こうにばれてしまい、その戦力によっては全力での防衛線を行わなくてはならなくなってしまう。

  またそれ以外にもこの様子を優斗たちにも気づけないよう密かに監視している者の存在なども考えれば、なおさらそういうことはできない。


  だがかと言って友好的に交渉しようと思っても、向こうにそれを断られた上問答無用で攻撃されたりしようものなら、結局お互い引けない戦争になってしまう。


  正直この情報を持ち帰って他の者たちとも相談し、一晩考えたのち結論を出したいところだ。だが優斗自身それができるとは思っていない。そうやって後手に回ったうえ次の日には彼らに会えなかったとなれば、それだけ調査は遅れることとなる。


  六人は優斗たちにとってリスクはあるがリターンも小さくはないという困った存在であるがゆえに、優斗もどうしようかと悩みながら六人を観察し続ける。


「やるぞ!」


  優斗たちが後をつけていると、六人は一体のモンスターとエンカウントした。そしてそのモンスターを見た竜人がリザードマンたちに命令し、六人で一気にそのモンスターを仕留めにかかった。


「(いい連携だ。それにパーティー構成も申し分ない。ここまでバランスのいいパーティーを作っているのならば、やはり彼らはどこかのコミュニティーに所属しているのは間違いないな)」


  彼らは前衛で戦う戦士を中心とし、さらに後衛で魔法攻撃や回復、支援などを行う者を入れたバランスの良いパーティー構成をしている。

  仮に彼らがどこのコミュニティーにも属していないのだとしたら、偶然このバランスのいいメンバーが集まっていることになる。しかし普通に考えてそこまで都合のいいことはなかなか起こらないだろうし、それに人数が少ないなら北に住むのではなく他の地域に住めば支配者として君臨することができるはずだ。


  彼らが狩っているのはこの森でおそらく平均的な強さを持っていると思われる存在であり、六対一なこともあってさほど苦労することもなく戦闘を続けている。


『リザードマンたちは北の森ではかなり弱いほうのように見えますが、あの竜人は別格ですね。彼一人でもあのモンスターを倒せるでしょう』

『そうだな。あの竜人ほど強い者は我々以外ではまだ見たことがない。私もダンジョンモンスターたちと戦闘訓練は行っているが、あの竜人の域まで達している者はまだいないはずだ』


  シルヴィアもクレアも、目の前の竜人がある程度の力を持っていることは認めた。だがそれでも自分たちの方がかなり強いという意見は変えず、捕えればいいという意見は持ったままであった。


「(あれがフェイクでないとしても……やはり問答無用で捕えるのは危険が残る。むやみやたらに敵対するのは避けたほうが賢明か?)」


  優斗の見る限り竜人はリザードマンたちとの連携を考慮しながら、自分の出せる力をフルに使って(もちろんペース配分や帰りのことも考えてだが)モンスターと戦っている。竜人が自分たちに虚偽情報を流すため手を抜いているのでなければ、これが竜人の底ということだろう。


『優斗様、彼らにどう対処するか決められましたか?』


  そうシルヴィアが聞くが、優斗は苦い顔をして首を横に振る。


『もう少し待ってくれ。もしあの竜人が虚偽情報を流しているのだとすれば、単純に捕えに行くのは危険だ。もう少し様子を見たい』

『あの竜人は、と言うより竜人だけでなくリザードマンの方も全力を出しているようにみえるが?』


  優斗は首を縦に振り肯定する。


『俺にもそう見える。だがもし俺があの竜人の立場で、ここに隠れている俺たちの存在を感知できていたとすれば、間違いなくこの戦闘において本気は出さない。もちろん敵に自分が手を抜いていると思われないようにはするが、なるべく敵に虚偽の情報を与えることを中心に考えて戦闘を行う』

『それならなぜ私たちに声をかけないのだ?そうしなくてもいきなり先制攻撃を仕掛けたりするほうがいくらか簡単ではないか?』

『それは危険だ。お前なら得体のしれないものに自分から声をかけたいと思うか?それにいきなり先制攻撃を仕掛ければその時点で戦闘開始になってしまう。向こうがこちらの実力を見切っているなら話は別だが、今の段階でこちらの実力を見切って攻撃を仕掛けてくるなんてのはあり得ない。

  竜人がそこまで考えているかわからないが、諸々のリスクを考えれば簡単にこっちから捕えに行くようなことは危険がかなり付きまとう』


  優斗がなかなか行動を起こさないので、クレアが焦れた様子で決断を促す。


『ではどうするのだ?言っていることはもっともだが、それでも何か行動を起こさねばならんだろう』

『そうだなあ……だったら向こうが自分たちの本拠地に戻るのを尾行すればいいんじゃないか?俺たちは今敵に見つかりずらい状態だし、それに俺だって情報系の魔法をある程度なら使える。ここは気づかれないよう尾行して、あいつらの本拠地まで案内してもらおうぜ』


  優斗の意見に二人は賛成する。もともと彼らの仕事は戦闘を行うことではなく、この北で起きた異変の調査だったのだ。だとすれば未知の相手を捕えて無理やり情報を吐かせるような危険をとるよりは、彼らを尾行して情報をつかむことの方が確実で安全ではある。


  幸いにもモンスターを討伐した彼らは、そのモンスターを運びどこかに行こうとしている。モンスターを討伐しそのモンスターを運び出すとなれば、その運ぶ先は彼らの本拠地、もしくはそうでなくとも何らかの施設や拠点である可能性は高い。


  優斗たちは魔法なども駆使しながら、向こうにはばれないと思われる距離まで離れて尾行を始めた。


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