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竜の里 1

  現在ガドの大森林は、その四分の三を優斗の支配下に置かれている。大陸中央部に位置するその広大な森林、四分の三とは言えそのすべてを掌握するのは並大抵の苦労ではなく、優斗自身まだ完全に掌握しているとは言い切れない状態であった。


  ガドの大森林を支配するにあたっての優斗の戦略はどこにでもある普通のものだ。どこの国でも行っている戦略で、領地の中で適していると思われる場所に街や村などの共同体を作り、その地域の支配を強化していくのだ。


  普通の国と違うところと言えば首都がないことだが、少なくとも今のところはその点が問題になってはいない。と言うより彼ら(ダンジョンモンスターやダンジョンの存在を知っている極一部の外部の存在)にとってはダンジョンこそが首都であり、どこもその支配下にあると認識することで各共同体同士の交流や協力も行われる。


  そんな各共同体はどこも悲惨な暮らしはしておらず、ブルムンド王国で言えば土地をたくさん持っている裕福な農民くらいの生活はできていた。


「あーあ、今日もまた学校に行かなくちゃならないのかよ。今日はだるいから学校休んでもいいよね!」

「何言ってるんだ!外の村の子供たちと比べてみろ。勉強できるだけですごいありがたいことなんだぞ。本来なら勉強するどころか生きることさえも怪しかったんだ。わかったらちゃんとそれに感謝しないか!!」


  この二人は村に住んでいる獣人の兄弟だ。獣人と言うことからも想像できる通り、二人の出身はレムルス獅子王国である。

  現在獅子王国は帝国の援助を受けた第九王子と、正統な後継者である第十八王子の戦の真っただ中である。長く続いている戦乱によって国が荒れ果て、それによって様々な人間が死に、また村や商人などを襲う野盗が増えてきた。


  彼ら兄弟は野盗の襲撃によって両親を亡くした二人である。兄は幼い弟を連れて(男だったからあまりしつこく追撃されなかったこともあって)何とか逃げのびることに成功したのだが、結局まだまだ少年の域を出ない兄とそれよりも幼い弟の組み合わせでは当然限界が来るのも早く、逃げたと思ったら早々に野垂れ死にの寸前まで追い込まれた。


  しかし彼らが生まれ過ごした村は幸か不幸かガドの大森林の近くであり、二人が力尽きた場所はガドの大森林のすぐ手前であった。


  二人の兄弟が野垂れ死にかけているのを発見したのは、彼らのように獅子王国出身で現在はガドの大森林内の村に住んでいる獣人の女性で、自分も彼らと似たような目にあったことから二人に同情した彼女は、彼らを自分の住んでいる村に連れて行こうと考えた。


  しかし当然彼女に勝手に村に人を連れてくる権限などないので、その後兄弟たちは村に入る前にいろいろな検査を受ける。これは外から来た者なら誰しもが受ける検査であり、病気を持っていないかなどの検査でもあるが、それ以上に敵が仕掛けた罠の可能性を警戒するためであり、その検査はかなり念入りに行われる。


  結果的に敵の送り込んだスパイや囮などではないと判明した二人は無事村に迎えられ、今は彼らを拾った女性も暮らしているガドの大森林の南にある村に二人で暮らしている。


  この村、と言うよりガドの大森林内で優斗が支配下に置いているほとんどの共同体には学校があり、そこで子供たち(場合によって大人も)簡単な教育を受ける。

  学校では周辺で知られている最低限の知識と戦闘力、そして優斗への忠誠心を持つよう教育され、彼らはいざと言うときは自分の身を守れ、なおかつ優斗には逆らわないし逆らえない(知識量や戦闘力などが足りず、また忠誠心も植え付けられているため)従順な被支配者として暮らしていくことになる。


  この家では学校を嫌がる(教育内容が嫌と言うわけではなく、単純に勉強が嫌だったりわざわざ学校に行くのがめんどくさいと考えているだけで、日本の学生、年齢的に言うと小学生と同じような感覚)弟を兄が何とかして連れて行こうとする、今の獅子王国の現状と比べればずいぶん平和な光景が繰り返されていた。


「俺だって勉強しないで済むならそのほうがいいよ」

「何言ってるんだ!俺もあまり知らないしお前はもっと知らないかもしれないが、今俺たちの故郷のレムルス獅子王国は大変なんだぞ!!ここで暮らしていけるだけでどれほど幸せだと思っているんだ!?」


  レムルス獅子王国の荒廃はひどい。激戦地ではなく国の端っこにある田舎の村に暮らしていたにもかかわらず、兄の方は自分たちが襲われたことや大人たちの雰囲気などから感覚的にそのことが理解できていた。


「とにかく行くぞ」

『カンカンカンカンカンカン!』


  兄が強引に弟を外に連れ出したところで、聞き覚えのある鐘の音が忙しくなく鳴り響く。


「この音はまさか!!」

「この音は何の音だったっけ?兄さん」


  音の正体が思い出せずぼんやりとしている弟に反して、音の意味を悟った兄の方は素早く行動に移る。これまでしていた学校に行く準備をやめて、兄が自分と弟のために鐘の音が示す内容に合わせた準備を整えてから家を出ると、同じような準備を整えて外に出てきた村人たちと会う。


  その人たちと一緒に行動を開始した兄弟は、なんとかことが起こる前に避難することに成功した。


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