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閑話ー 獅子王国の戦争 1

  現在進行形で獅子王国で起きている内乱、なかなか決着のつかないその戦いにより、国内はひどく荒れていっている。

  客観的に見れば獅子王国のために一刻も早く戦争を終わらせるべきだ。しかし例え国が乱れ民が苦しんでいたとしても、第九王子と第十八王子ともにもはや引けぬところまで来ており、どちらかが勝利し片方が死ななければ矛を収めることができない状況に陥っていた。


「……そうか。つまりまだ戦争は終わりそうにないということだな?」

「おそらくは。情報によれば敵もまだまだ兵力を持っているようです」

「それは妾たちの陣営も同じだな。結局どちらかが圧倒的に有利ということにはならんか」


  第十八王子の側の陣営は、現在本拠地としている城で作戦会議を行っていた。一番最近に行われた戦の結果から現在の戦力差を推定で割り出したのだが、結局狙っていたほど損害は与えられていなかったようであった。


「しかし殿下、今こそ攻め時ではないでしょうか?戦力差で言えば六対四でこちらのほうが有利なはずです。ならば今のうちに決着をつけられてはどうでしょうか?」

「今のうちに決着か……」


  王子はその言葉を聞きひどく悩む。確かに現在彼女たちの陣営の方が敵に比べて有利な状況にある。しかしこれまでも似たような状況、もしくはこれと真逆、つまり敵の方が六対四で有利だった状況があったにもかかわらず、いまだこの戦の決着はついていない。

  なぜならどちらかの陣営が自分たちの方が有利だと思って攻勢に出たとしても、結局相手が頑張って押し返してしまうからだ。


  この戦争、普通に考えれば第九王子の側が有利だった。彼らには帝国という、先代国王の下で一つにまとまっていた時代の獅子王国すらも凌ぐ程の国力を持つ大国が後ろ盾として存在しているからだ。また彼らはクーデターを仕掛けた側であり、帝国の力だけに頼るのではなく前段階として複数の国内貴族とも交渉をしていたのだ。そのためクーデターが起きた直後から彼らの味方をする貴族も少なくなく、実際最初はかなり有利だった。

  その優位が狂ったのは飛来した隕石により第一軍を失い、兵力が大きく低下してしまった帝国からの支援が最小限に抑えられてしまったこと、そして第十八王子側の軍が予想以上に強かったことだ。


  前者については第九王子がいくら支援の追加を願っても、向こうに自国の国力回復を優先されて満足な支援を得られなかった。とは言え彼らは王都を抑えているので、それでも王都にある金や武器などを使い優位には立てるはずであった。

  そして彼らが優位に立っているのが明白になれば、中立派として様子見をしていた貴族たちも彼らの軍門に下り始める。また敵の中でも圧倒的に不利なことを悟った貴族が、それを覆すために暴走や裏切りを行う可能性も高まる。


  こうやって自分が玉座につこうと思っていた彼だったが、残念ながら第十八王子の戦力、その中でも特に王位継承戦で活躍して一気に名が知られたユズと、第十八王子に優斗が紹介した者たち、そして王子の姉であり現時点での実力も数段上だが、第十八王子が王位継承戦で勝ち上がり正当な王位継承者の権利を得たことから彼女に従っている第一王子、この彼女たちの活躍により、第九王子側は想定外の苦戦を強いられた。


  優斗が紹介した者たちは皆仮面や全身鎧などを身に纏い、他者にその素顔がばれないようにしていて一見すると完全な不審者なのだが、それでもその実力は桁外れである。彼らは全員金級や銀級冒険者並の力を持つ者たちであり、一部の者に至っては白金級冒険者とも対等に渡り合えるのではないかというほどの力を持っている。


  最初は不利であったはずの第十八王子は、彼女たちの活躍によりクーデター軍とも戦えるようにまで盛り返した。

  もともと正当性は第十八王子側にあり、第九王子は獅子王国から見ると完全に簒奪者である。簒奪者でも強ければ勝ち馬に乗るため中立だった貴族はついていくのだが、正当性のある方も負けてないとなると人間は当然正当性のある方に流れやすくなる。


  結果的に互角の戦いを繰り広げている両者は金で傭兵や冒険者を雇い、また民を徴兵して戦いあうことで被害が大きく拡大している。第九王子も最初は自分の部下や帝国の力だけで勝てると思っていたのだが、敵の奮闘や帝国の支援が少ないことによって傭兵や冒険者を雇わざるを得なくなる。その結果第十八王子もさらに兵力を増強せねばならないので、どちらも資金面や殺し合いによる人材不足や人口減少の被害が拡大してしまい、獅子王国の衰退は加速していっている。


  正直言って両者ともに今すぐ戦争をやめたいのだ。だがここまで来てしまっては今更どちらも矛を収めることができない。そしてさらに被害が拡大していくのだった。


「殿下、いい加減第九王子をどうにかしなくては、仮に殿下が国を取り返せたとしても国力が大きく衰退し、国内外で大きくご苦労なされることになります。戦が終わった後のことを考えれば、多少強引になったとしても一刻も早く第九王子を討ち取らなければなりません」

「それは妾も、いや向こうだってわかっているのだ。だがどうにも決め手に欠けてしまう。妾たちが今から強引に攻めたところで、また押し返されて終わりなのではないか?」

「殿下、確かにお気持ちはわかりますが、そんなことを言っていたら一切戦うことができなくなってしまいます」

「確かにそうだが……。しかし今では財資金面でもかなり苦しいのだ。戦争をするにはかなり金がかかる。長く続いている戦争で疲弊している我々に、すぐに戦争をできるだけの金が集まるのか?」


  現在彼女たちの財布はほとんど空だ。戦争をするために寄付金や借金、もしくは無理な徴税なども行っているが、結局毎度毎度多額の金が飛んでいくため一杯一杯なのだ。敵の領地からの略奪も行っているがそれも元を正せばみんなレムルス獅子王国の領地であるため、大きく見れば自分たちの首を絞めているだけの行為なのだ。


「殿下、商人から思いっきり大量の資金を引っ張てくればどうでしょうか?彼らも我々と同じく、もはや引き返せないところまで来ています。我々が勝つためならばいくらでも支援してもらえると思いますよ」


  両者ともに自分たちが勝てたらかなり優遇するという条件で商人にスポンサーになってもらっているが、これだけ戦争が長く続けば当然商人の側にだって限界は訪れる。彼らも手を引きたいのはやまやまだが、そうなるとこれまでしてきた支援がすべて無駄になってしまう。また自分の支援していた側が負ければ一切の見返りがないどころか、敵を支援していたということで勝った側にも目をつけられてしまう可能性だってあるのだ。


  もはや自分の支援している方に何としてでも勝ってもらうしか道がない商人たちには、そのためならどんな負担でも引き受けるという者も多い。

  商人たちもすでに一蓮托生であり、少しでも勝てる可能性を上げるため様々な支援を行ってきたのだった。


「……それしかないか」

「はい。後は一応中立でいる商人たちに我々の支援をしてもらえないかと打診してみるつもりですが、おそらくまた断られてしまうのが落ちでしょう」

「殿下、いっそのこと、中立でいる商人たちから強制的に支援をさせてはいかがでしょうか?この国の正統な後継者である殿下がお願いしているのです。それを断るのはこの国の民として許されざる行いではないでしょうか?」


  鍛え上げられた肉体を持つ、明らかに軍人といった雰囲気の若い男が話し出す。彼は獅子王国内のとある伯爵家の跡取りであり、戦争が始まった直後から正当性のある第十八王子側について戦を行ってきた人物であった。


「それは危険です殿下。もしそんなことをしてしまえば、自分たちの財も強制的に取られると恐れた商人たちが敵側についてしまう可能性があります。恐れてこの国を出ていくだけなら悪くないのですが、それによって敵の資金力が強大になることは避けなければなりません」

「もっともだな。今は少しでも資金が欲しいが、かと言ってそれによって敵が強くなってしまっては本末転倒だ。結局自主的な支援や寄付を募るしかないだ」


  ここにいるのは全員が貴族、もしくはユズのようにこの戦が終わったら確実に貴族に任じられるような人物だけである。しかしそんな彼らでもこれ以上良い案を思いつくことはできなかったため、自分たちが有利なうちに攻勢に出て第九王子を討ち取ろうという、この会議で何度も提案され可決されてきた(自分たちが有利になればほぼ毎回この作戦がとられている)作戦で行くことになった。


  皆心の中では王子の言ったようにまた押し返されるのが落ちじゃないかと思いながらも、だからと言って代案は持っていないからとりあえず従おうというある種諦めのような感情を抱き、浮かない顔をしながら会議場から出て行った。



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