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ルクセンブルクの独立28

「ヒャハハ、相も変わらずかわいい顔して凶悪な能力の持ち主なことだ。さすがはデッドリーポイズンスライム、普通の人間では即死の強力な毒を使うことだけはある」


  デッドリーポイズンスライム、それは強力な毒を使うスライムであり、ポイズンスライムのさらに上位種にあたる存在だ。

  基礎能力もそうだが、それ以外にポイズンスライムとの明確な差は三つ存在している。


  まず一つ目はその毒の強力さだ。ポイズンスライムの毒を一般人、つまり今回で言う民兵がくらっても、その民兵は十分程度は生きることができる。そしてある程度の耐性を持つ相手になると、場合によっては無効化されることも珍しくない。

  もしこのスライムがポイズンスライムであったなら、先ほどの騎士は下手したらほとんど抵抗に成功していた可能性が高い。


  しかしデッドリーポイズンスライムの毒は、ただのポイズンスライムとは大きく異なる。実際先ほどまでの毒でもまだ本気は出しておらず、それこそ体が溶けてなくなったりするほど強力な毒を出すことだってできるのだ。


  そして二つ目はその物理耐性、先ほど槍が効かなかったのはこの物理耐性のおかげであり、魔法のかかってない武器での攻撃は完全に無効化される。そのため魔法使いがいない、もしくは魔法のかかった武器を持っていないパーティーだと、デッドリーポイズンスライムおよびその同格以上のスライムと出会ったら迷わず逃げることを選択するのだ。


  そして最後に挙げられるのはその狡猾さだ。スライムは進化するごとに知能が上がっていくが、その進化先によってその性格は大きく変わってくる。

  例を挙げると回復魔法などを使えるようになるホーリースライムなどは、基本的に優しい性格になる個体が多い。

  しかしデッドリーポイズンスライムはその真逆で、むしろ狡猾に敵を追い詰め、苦しめることを好むスライムだ。


  デッドリーポイズンスライムは緑級以上、できれば青級以上の冒険者パーティーが対処するようにと冒険者ギルドで推奨されているところから見ても、決して侮っていいスライムではなかった。


「なあ、一緒に行って無双してみねえか?魔法の武器すら持ってない雑魚相手なら、俺たちに勝つことは絶対に無理なんだからよ」


  そう言って誘う彼は火精霊だ。火精霊もこのスライムと同じく、魔法のかかってない武器での単純な物理攻撃が一切効くことはない。


  上位の騎士になればさすがに魔法のかかった武器くらい持っているだろうし、それに魔法使いや魔法を使える騎士がいれば彼らにダメージを与えることはできる。だがそういった術を持たない民兵や貴族相手なら、先ほどのように文字通り彼らは無敵となる。


  二人を顔を見合わせて精霊は楽しそうに、スライムは残忍な笑みを浮かべた後、二体で勢いよく民兵たちが集まっているところに突撃していった。







 


  戦場はどんどん激化していく。と言っても被害は受けているのはもっぱら王国軍のほうで、ビャッコたちの側は一切被害を受けていない。

  スライムや精霊、ヴァンパイアだけでなく、戦場では全長三メートルを超える巨大なカマキリや、成人男性一人分ほどの重量のある棍棒を思いっきり振り回す鬼、そして妖精やエルフ、ダークエルフなどのガドの大森林から取り入れた勢力たちが、所狭しとばかりに暴れていた。


  そんな怪物たちの暴れている中に一つ、明らかに場違いであろう集団が一つあった。それは人間と獣人の若者ばかりが組み込まれている部隊であり、その部隊の隊長と副隊長以外の力はこの場では明らかに場違いであった。


「たっ、隊長ー!無理です!こんなところで戦えるわけがありません!!」

「いいからここにいるんだ!積極的に戦う必要はないから、とにかくこの場にいたという事実だけあればそれでいいんだ!!」


  隊長(他のメンバーが全員若者と言える年齢なのに対し、この隊長だけは中年のおじさんである)が泣き言を言う隊員を叱りつける。


  彼らの役目はこの戦争にはモンスターやエルフたちばかりではなく、人間や獣人も参加していたというアリバイを作ることだ。


  ブルムンド王国では人間が一番多く、次に獣人が多い。それはこれから支配するルクセンブルクでも変わらないため、そこを支配するにはそれらの種族のことを考慮してやる必要がある。

  つまりビャッコの配下として人間や獣人がいることを知らしめ、なおかつ彼らがビャッコに従い戦争に参加したという事実を見せることで、ルクセンブルクの民たちに安心感を与えようとしたのだ。


  そのため彼らの役目はもう半ば果たしており、後は死なないよう注意するだけであった。


「でもこわいですよー!皆さん強すぎます!!」

「……確かに俺でも苦戦するようなモンスターばかりだな。しかしこんな機会はめったにないぞ!今のうちにじっくり見て勉強するのだ!!それがお前たちの将来のためになるかもしれんぞ?」

「だからってー!!」


  隊長にも隊員たちの気持ちはわかる。いくら自軍が優勢とはいえ、戦争、それも同族同士の戦争となると尻すぼみしてしまうこともあるのだろう。

  現に彼らは戦場の怖さもそうだが、それと同時に同族たちが殺されていく光景にも心を侵されているようであった。


「お前たちもこの光景を見て思うところはあるだろうが、それでもこれが国家と言うものだ。むしろお前たちは幸せ者なんだぞ。なんたって一歩間違えたら、お前たちが王国軍のほうにいても何らおかしくはなかったのだからな」


  隊員たちを下を向き沈んだ表情をする。


「お前たちは今こちら側に立てていることに感謝しつつ、あちら側にならないようこれからもあの方々に忠誠をつくしていく。それが最終的に幸せの選択となるのだ。それはわかるな?」


  隊員たちはその言葉にはすぐ頷く。彼らもそれくらいわかる頭は持ち合わせており、また全員あの方々とやらには大きな恩があった。


「だったら目をそらさずに見るんだ。時間はあまりないぞ。なんたってこちらが強すぎて、もうすでに決着がつきそうだからな」


  隊員たちが顔を上げると、あれだけいたはずの敵軍の数がもうすでに一割以下になっていった。あと残っているのは辺境伯とバルド王子を中心とする一部だけであり、それ以外は全員死ぬか気絶するかしていた。


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