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ルクセンブルクの独立25

「連れてきてあげたわよ。この方がルクセンブルクの新しい支配者、ビャッコ様よ」


  住民たちの前に姿を現したのは、豪華の衣装に身を包んだ美しい獣人の女性であった。その姿に住民たちは圧倒され、ルナの時と同じ、いやそれ以上に見とれてしまっていた。


「今からルクセンブルクを我が治める。文句のある者はいるか?」


  住民たちから声は上がらない。

  それもそのはず、住民たちはビャッコの持つ美しさだけでなく、その力にも恐れているのだ。


  ビャッコは大きな力をその身に秘めている。一見するとただの美形な女性(その顔やスタイルは普通とはかけ離れて優れている)のように見えるが、その奥底に大きな力があることは住民たちにも何となく感じ取れている。彼らは本能的に目の前の女性には勝てないと悟り、自分たちのうちから湧き出てくる恐怖や不安によって口を閉ざすしかなかった。


「……これはやばいな」

「どうするリーダー、あんな化け物に勝てるわけねえと思うが」


  冒険者たちも目の前の女性の力を感じ取り、自分たちとの実力差を悟り動揺している。


  ちなみに最底辺の者たちを除く冒険者たちは、一般人とは違い魔力や殺気、敵の持っているであろう実力などを感じ取る感覚に優れている。モンスターや高位冒険者など自分を上回る敵の存在が珍しくない以上、そういった能力がなければ冒険者などやっていくことはできない。もしそれが満足にできない者がいたとするならば、その者は早く死んでいくだけだ。


  ここにいる冒険者たちの中には曲がりなりにもそういった能力にある程度優れている者もいるので、その者たちを中心に冒険者たちは敵の実力を住民たち以上に敏感に感じ取り、とりあえず怖がっている住民たちとは違い、明確に自分との実力差があることを悟っていた。


「リーダー!早く逃げましょう!!あんな化け物と戦っても勝ち目がありませんよ!それこそここにいる全員でかかっても勝てるかどうか……」


  特にビャッコを怖がったのは魔法使いたちだ。餅は餅屋と言うべきか、ビャッコを見た魔法使いたちは彼女の内包する魔力量に恐れおののき、自分のパーティーのリーダーに即時撤退を進言する者、そして自分がリーダーの場合は即時撤退するよう仲間たちを説得していた。


「どうした?誰も文句がないのなら、このまま我がここを支配することになるぞ。それでもいいのだな?」


  文句を言いたいのはやまやまなのだが、住民たちは恐ろしくて声を上げることはできない。武力的に頼りになるはずの冒険者たちも力の差を感じ逃げることを考え出すし、このままならこれで決着がつくように思えた。


「それは待ってもらおうか。これでも彼らに雇われた立場なんだ。依頼人が心から納得して合意したならともかく、怯えていて言葉を発せない状況だとそうはいかない」

「おおっ!『インフィニティーズ』だ!ルクセンブルク最強の冒険者パーティー、『インフィニティーズ』が来てくれたぞ!!」


  この街で一番の冒険者である『インフィニティーズ』の登場により、すっかりおとなしくなっていた住民たちの側から歓声が上がる。


「そうはいかない……か。だったらどうすると言うんだ?」

「それは彼らの答え次第だな。彼らがあなたの支配を望むと言うならここで引き下がるし、もし望まないと言うならば……」

「言うならば?」

「もし望まないと言うならばその時は彼らとあなたによる交渉、それが無理なら武力行使……と言うことになるな」

「だそうだ。お前たちはどうするんだ?」


  ビャッコが住民たちに声をかける。彼らはその重圧に何とか耐えながら、必死で首を横に振った。


「質問の内容からして首を振るだけでは不十分なのだが……。まあいい、つまりは我の支配に反対すると言うことでいいのだな?」


  住民たちが無言で首を縦に振る。


「それがお前たちの選択か。ならば新しい支配者として、それ相応の力を見せつけることで認めさせてやろう。

  手始めにまずはお前たちから行こうか。確か『インフィニティーズ』だったか?どうやらお前たちがルクセンブルクで一番の武力を持つようだからな。まずはお前たちを倒してやろう」

「ちょっと待ちやがれ!いきなり大将と戦うなんてできるわけねえだろうが。まずは俺たち他の冒険者を倒してからほざきやがれ!!」


  冒険者の一人が威勢よく吠える。その声に同調している者もいれば反対に余計なこと言いやがってと迷惑そうな顔をしている者もいるが、流れ的にどちらの冒険者も参加せざるを得なかった。


「かかってきたいのならばそうすればいい。ただし曲がりなりにも戦闘、つまり殺し合いを望んだんだ。死んでも文句は聞かんぞ」


  冒険者のほとんどがその言葉でたじろぐ。彼らもビャッコと自分たちの実力差には勘づいている。仮に勝つことができたとしても、自分たちにも少なくない犠牲が出ることはわかっていた。


  分かってないのは吠えた冒険者を筆頭とする弱かったり鈍かったり、はたまた自分に絶対の自信を持っている冒険者たちであり、その者たちはむしろやる気満々であった。


「当然だ!それはお前も一緒だぞ。後で後悔しても遅いからな!!」


  冒険者たちは勢いよく突撃する。だがそのことごとくは、ビャッコの後ろに控えていた部下たちによって蹴散らされた。


「卑怯だぞ!なんでお前が戦いに来ねえんだ!部下に任せててめえは高みの見物かよ!!」

「我一人に対し何十人もで攻撃を仕掛けてきたお前たちが、負けたからと言っていまさらそんなことを言うのか。それに考えてみろ、我はお前たちと直接戦うとは、一言も言っていないのだぞ」

「うるせえ!こんなズルは無効だ!正々堂々勝負しやがれ!!」


  蹴散らされたなかでも、まだ意識のある冒険者たちが口々に難癖をつけてくる。


「黙れ!お前たちのような下等で下賤な者たちが、ビャッコ様と直接戦おうとすること自体がすでにおこがましいわ!!そのうえ醜くも自分たちが負けたことを認めず、あまつさえビャッコ様に対し暴言を吐くとは。

  ビャッコ様、彼らの処分は私めにお任せを。必ずや大いなる苦しみを味合わせてやりたいと思います!」


  いまだ吠え続ける冒険者たちを見て、彼女の部下たちが非常に敵意と嫌悪感を持った目で睨みつける。彼らにとってその冒険者たちの行動は決して看過できるものではなく、ビャッコの許可さえもらえれば迷いなく処分するつもりであった。


「そうだな。そいつらは全員気絶させた後、とりあえず屋敷の一室にでも放り込んでおいてくれ。そいつらの処分はこれが終わった後にでも決めるとしよう」

「はっ!今すぐに!!」


  部下たちは抵抗する冒険者たちから簡単にその意識を刈り取り、その後命令通り彼らを運んで屋敷の中に入っていった。


「これでうるさい奴らはいなくなったな。さて、それでは勝負する、と言うことでいいのか?」

「ああもちろんだ。あれだけの冒険者を簡単に無力化できる部下がいて、なおかつ俺たちまで倒せる力があるとするなら、真意はどうあれここにいる住民たちじゃ逆立ちしてもお前たちの支配から逃れることは不可能だろう。

  あんたらもそれでいいか!?俺たちが負けたら、あんたたち住民たちはこの女性とその部下たちに従う、そしてもし俺たちが勝てば、その時はビャッコだったか?あんたとその部下はこの街から出ていく、ということでいいな!?」

「それでいいとも」


  バイフーと同じく、住民たちもその条件に合意するように首を縦に振る。


「ならこれで決まりだ。それじゃあ行くぜ!!」


  こうして両者の戦いが始まった。そして戦いの結果『インフィニティーズ』は惨敗し、それを見せつけられた住民たちは悲観に暮れることになった。彼らもこの結果に不満はあれど、さすがにビャッコとその部下たちに逆らえるほどの胆力を持った住民たちはいない。


  その後ルクセンブルク家に代わる新しい支配者が誕生したこと、そしてその者とその部下たちに『インフィニティーズ』を含めた冒険者たちが手も足も出なかったことなどが、抗議活動に参加していた住民たちやビャッコが手配した者の手によって広げられた。


  その後ルナが独立を表明したときは静観していた有力な商人や大地主などが、ごますりなのかなんなのか新しい支配者であるビャッコを支持すると表明した。

  またビャッコにあったのは冒険者たちを軽くあしらえる力だけでなく、街にいる富裕層からの支援もあった。この街の有力者のほとんどがビャッコになびいてしまったことで、住民たちの中には反抗する気が失せてしまう。


  その後ビャッコは元から九割方準備はできていたんじゃないかというほどあまりに手際よく支配体制を確立していき、王国軍がルクセンブルク軍を破り街まで向かっているころには、すでにビャッコによる支配体制が確立していた。

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