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ルクセンブルクの独立24

「あら?どうやら門番たちを倒してきたみたいね。なるほど……集団の中に何人か冒険者が混じっているようね。だったらあの門番たちでは相手にならないはずだわ。彼らに武装した冒険者たちを、それも自分たちよりも数が多い冒険者たちを通すなと言うのは、さすがに無理が過ぎると言うものでしょうしね」


  ルナは冷静に住民の集団を見る。着ている衣装もそうだが、何より皆の目を引くのは成長した彼女自身の美しさだろう。


  貴族令嬢としての教育と冒険者として鍛えられたからこそ出るその気品や自信に加え、もとよりきれいだったにもかかわらず成長することでより大人っぽくなった顔やスタイルは、敵意を持っていたはずの住民たちまでも魅了した。


「はっ!見とれちゃだめだわ。みんな!見とれてる場合じゃないわよ!!私たちは大事なお願いをしに来たんだから、この程度で忘れちゃいけないわ。ちゃんと自分たちの目的を思い出すのよ!!」


  女性たちが男性たちに先んじて我を取り戻す。美しい者は男女ともに魅了するとはいえ、やはり同性のほうが耐性があったので早く立ち直れた。


「その大事なお願いとは何のことかしら?不正な方法で侵入してきたとはいえ、曲がりなきにもルクセンブルクの領民からの嘆願です。内容にもよりますが、聞くだけ聞いてあげますよ」


  ルナの笑顔にまた魅了されそうになった心を抑え込み、一人の男が彼女に嘆願した。


「お願いとは、此度に起こった戦争のことでございます。ご賢明なルナ様ならわかっておられると思いますが、どう考えてもこの戦争に勝ち目はありません。仮に奇跡的なことが起きてこれから行われるであろう戦に勝ったとして、結局その後にまた行われるであろう王国から仕掛けられる戦争に勝てる見込みは全くないのではないでしょうか?

  我々のお願いとは今戦地にいるであろう軍を速やかに街まで撤退させるのと同時に、王国軍に対して全面降伏をしてもらうことです」


  住民たちが全員真剣な目でルナのことを見つめる。彼女がこのお願いを了承して王国軍に降伏するならよし、もしこれを断って降伏しないのであれば……その先のことを考え、住民たちの握る拳には力が入った。


「あなたたちの言いたいことはよくわかったわ。そして……もし私がここで断ったらどういう行動に出るつもりなのかもね」


  住民たちはざわつく。引退したとはいえ、ルナは元青級冒険者だ。それに彼女は以前起こったクーデターを止めており、彼女及びその部下の力は強力であることも知っている。


  彼らの側にも冒険者はいるが、果たしてそれで勝てるかと言う不安が心の中で生まれていた。


「返事は後日にさせてもらう……なんて言ったら、あなたたちはすぐに行動に移るんでしょうね。冒険者たちの力とあなたたちの数にあかせて、私を無理やり捕らえるつもりなんでしょ?」

「それは……」

「ああいいの!さすがにそれぐらい悟れるわよ。安心して、すでにもう答えは決めてあるから」

「ではその答えを……お聞かせいただけますか?」

「ええいいわよ。私の答えは……」


  ルナがどういう答えを出すかに、集まった人たち全員が全神経を向ける。この答え次第で自分たちの行動が決まるのだから、その真剣さは伊達ではなかった。


「私の答えはノーよ。王国軍に降伏なんてしないわ。いやもっと言うなら、私は降伏する権利なんてもうすでに持っていないの」

「それはどういうことですか?王国軍に降伏しないと言う答えはわかるのですが、降伏する権利がないとはどういうことなのでしょうか?」


  皆がざわめく。彼女の言い方だとまるで、すでに自分はルクセンブルクの領主ではなくなったと言っている風に聞こえるからだ。


「言葉通りの意味よ。私はもうルクセンブルクのトップではない。その権利を譲った、いや譲らされたのかもしれないわね」

「訳が分かりません!いったい誰にトップを譲ったと言うのですか!?それともこれは、お願いに来た我々を煙に巻くための方便ですか!?」

「そりゃいきなりこんなことを聞いても、あなたたちには信じられないでしょうね。でもこれは事実なのよ。私はルクセンブルクの領主の座をある人に譲ったから、もう私には兵を退かせるとか王国軍に降伏するとか、そう言ったことを決める権限はないわ」

「だったらその方とは誰なのです!証拠として、その方を今すぐ連れてきてください!!」


  彼らは信じられないようなことを口にされ、湧き上がったその怒りを隠しきれなかった。


  自分たちが返り討ちにあう覚悟を決め、自分やその家族のために勇気を出して立ち上がったのだ。それにもかかわらず変な嘘をついて煙に巻こうという行為は許せなかったし、仮にもしそれが嘘じゃなく本当のことだとしたら、こんな大事な時に誰に領主の座を譲ったのかと、それはそれで怒りを覚えるには十分な出来事であった。


  結果彼らは二倍の怒りを覚えることになり、ほとんどの人間の顔が憤怒に染まっていた。


「いいわよ。連れてきてあげるから、その人にもう一度お願いしてみなさい」

「へ?え……ええ、分かりました」


  ルナがその人は今はいないなどと言ってごまかしたり時間を稼いだりするのかと思っていた彼らは、その人が今からでも来られると聞いて拍子抜けした。


「じゃあ呼んできてあげるから、あなたたちはここで待ってなさい。たぶん五分もあれば戻ってこられると思うわ」

「五分ですが……それだと……」

「逃げたりしないから大丈夫よ。それにどうせ街中あなたたちのお仲間さんだらけなんでしょ?だったら下手に逃げるよりは屋敷に立て籠るほうが賢いけど、すでに門をくぐられている以上屋敷に火を放たれたりなんかしたらそれで終わるわ。

  そんなに心配なら屋敷の前で待っていてもらっても構わないわ。それならあなたたちも安心でしょう?」


  どうするか迷った住人たちだったが、結局ルナの言う通り屋敷までついていくことにした。ルクセンブルク家をしっかり見たのはこれが初めてという住人がたくさんおり、皆その立派な屋敷や庭に目を奪われながら、ルナが問題の人物を呼んでくるのを待った。


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