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捕縛

「この森のこんな奥まで来られるなんて、昔の自分たちでは考えられなかったな。

  この森はモンスターの強さもそうだが、なによりその数が多いのが嫌なところだよな。昔パーティーを組んですぐの若いころにいきってみんなで挑戦して、ここよりもっと浅いところでボロボロにされて命からがら逃げ帰ったのが懐かしいぜ」


  男たちのパーティーは、奴隷以外全員が彼らに調査を依頼した冒険者ギルドがある街やその周辺の村の出身者たちで構成されている。彼らはお互いその街の冒険者ギルドで出会い、それから十年以上一緒に冒険者を続けている。

 

  この四人はほぼ同世代であり、一番年上の男と一番年下の男の年齢が五つしか違わない。また、冒険者にとって戦闘力と言うのは非常に重要な要素である。現に、パーティーメンバーとの実力差が離れすぎてパーティーからメンバーが抜けるという例はよくある。

  彼らが十年以上こうして同じメンバーでパーティーを続けていられるのは、幸運にも四人全員に同じくらいの才能があったおかげである。一人だけがずば抜けて強い、反対に一人だけずば抜けて弱いと言うことがなかったのだ。そのため、彼らは街で一番チームワークがいいパーティーと評されているのであった。


  彼らがこの依頼を受けたのは、若いころにボロボロにされた森にリベンジしようと思ったという気持ちが大きい。

  この森は北側、つまり山脈に近づけば近づくほど出現するモンスターたちは強くなると言われている。彼らもさすがにまだあの山々に入れるほどの実力はないが、それでも森の中心付近までは来られたのだ。


  彼らに与えられた調査依頼はあくまで森の中心付近までであり、これ以上は調査範囲に入っていなかった。そのため、彼らもこの付近を数日調査したら街に帰ろうと思っていた。

  ほかにも同様の調査依頼を受けていたパーティーがいたが、その者たちもここまで奥には来れてはいないはずだ。


  彼らは若いころ痛い目にあった森に少しでもリベンジができたこと、そしてほかのどのパーティーよりも森の奥にこれたことで満足していた。この森でここまで進んでこれたのは少なくともあの街の冒険者ではでは自分たちだけだという自負がある。男は街に帰った時の報酬と名声を想像してにやけながらも、決して油断はしないように見張りを続けていた。


「交代まではまだ時間があるな。ったく、こんなことは奴隷にでもさせときゃいいのによ。

  まあでも、さすがにあれに見張りをさせるのはいろいろとまずいか。あいつは容姿がいいだけじゃなく戦闘もできる奴隷だからな。代わりを見つけるのも難しいだろう。それに、万が一あの奴隷に裏切られたときはめんどくさいことになるしな」


  こんな森の奥にわざわざ連れてきていることからもわかるように、彼らの連れている奴隷は戦闘をすることもできる。

  奴隷は調教の過程で徹底的に反抗心を折られているが、それでもマジックアイテムや魔法的手段での支配をしているわけではない。彼らもここまで来て奴隷が裏切ることはないと思うが、それでも万が一の可能性で裏切られるかもしれない。


  彼らは苦楽を共にしてきたパーティーメンバーのことはお互いに強く信頼しているが、さすがにこの奴隷を信用してはいない。

  夜営で裏切られた場合寝ているときに襲撃を受けることになる。当然敵が来たと感じたら素早く起きられるように訓練はしているが、それでも信頼できない者に夜番を任せるようなことはしない。夜番をするのはめんどくさいが、体力的にも信頼度的にも奴隷に夜番をさせることはないのだ。


「しかしやっぱり見張りというのは何もないと暇だな。一人でやっているから話し相手もいないし、何かあると困るけど、それでも多少は眠気が襲ってくるな。こうやって独り言でも呟いてなけりゃすぐに眠っちまいそうだ。

  ずっと森の中で活動しているから、さすがにそろそろ疲れもたまってくるよな。これから夜営するときは二人組でしたほうがいいか?でも、それはそれで一人一人の睡眠時間が減って日中の活動に支障が出そうだな。しっかし、ふぁ~あぁぁ、退屈なのは変わらないな」


  男は眠そうな目をこすりながら夜営を続ける。


  男たちは街から森に入ってここに来るまでに相当長い時間をかけてきている。

  男たちはもうすでにベテラン冒険者と言われる域まで来ている。そのため当然それなりに経験豊富ではあるが、それでも人間である以上モンスターなども出現する森の中に長いこといれば当然疲労はたまっていく。体の疲労はもちろんだが、精神的疲労だって馬鹿にならない。

  しかし、だからと言って少しでも警戒を怠ることをしてはならない。モンスターの中には夜行性の者もいて、そういったモンスターたちは暗闇を見通せる目などを持っているからだ。人間の体は基本的に夜中ではなく日中に活動するためにできている。そのため、夜は今のように隠れて睡眠をとり昼に調査をするのだ。

 

  ましてやここは男たちにとっては初めての領域だ。未知の存在がいるであろうこの場所で夜番中に欠伸をするとは、気持ちはわかるが軽率であった。なぜなら、彼らを狙っている者たちがそのあくびを合図に動き出したからだ。

  欠伸さえしていなければ、あと十分くらいは幸せな気持ちでいられただろう。世の中にはどうやっても防げない理不尽というものがある。かわいそうなことに、今まさに男たちのもとにその理不尽が降りかかろうとしていた。






「結界は張った。まずユズとシルヴィアが先行して見張りの戦士を捕縛しろ。その後俺とエリアス、アシュリーで寝ている奴らに拘束系の魔法を三重にかける。ないと思うが、もしそれから逃れて逃走や反撃を行ってきたときはクレアたちもサポートに来てくれ。

  それまでは敵に気づかれないように少し離れたところでこっちの様子を見守っていてくれ」


  ユズとシルヴィアは隠密が得意だ。二人なら敵の感知力が優れているせいで見つかってしまったという場合以外、つまり自分たちのへまなどで見つかることはないだろう。逆に隠密が苦手なヒルダやクレアだとへまをして見つかってしまう可能性もある。

  そして敵の見張りを捕縛する時は、敵が自分な仲間に危険を知らせないようにわずかな声も出させずに仕留めなければならない。魔法でもできないことはないが、万一のことも考えたら二人に任せておいたほうが確実だ。

 

  エリアスの作った無味無臭の眠り薬やしびれ薬などを使うことも考えられたが、それが彼らに必ず効くとは誰にも言えないし、効かなかったときは味方をすぐに呼ばれ反撃されるだろう。

  見張りさえ捕まえればあとは残りを魔法で拘束するだけだ。最初の見張りが優斗たちの襲撃を仲間に伝えることすらさせずに捕縛することがもっとも肝心な仕事であり、最も難しい仕事なのだ。


「ほなな」

「ではわたくしも。ユズさん、手筈通りにお願いしますね」


  二人が闇に溶けていく。彼女たちの隠密は見事なものであり、本気でやられたら優斗たちですら見破るのは難しいように思われた。


「あっ、終わったな」

「やはり二人とも仕事が早いな」

「残念……うまくいけば五人全員と戦えた」

「残念だったわね。私も五人とまではいわないけど、せめて一人くらいとは遊びたかったわ」


  ユズとメアリーは本当に仕事が早い。優斗たちのもとから離れて一分足らずで、見張りをしていた男を音もなく捕えていた。

  一人でも厄介なのが二人同時に襲い掛かってきたのだ。見張りをしていた男が捕らえられたとしても他の仲間は文句を言えないだろう。本人も知らない間に捕らえられ、声を出す暇も与えられずに気を失ったのだ。これに対抗できる手段は男たちの中にはなかった。


「そんじゃ次は俺たちの番だな。俺たちの魔法も見せてやろうぜ」


  優斗たちはテントに近づき、三人がほぼ同時にそれぞれ違う種類の拘束魔法を使いテントで寝る四人を拘束する。


「なっ、なんだ!何が起こっているんだ!?」


  男たちが騒ぎ出すがもう遅い。彼らにはこの魔法から抜け出す手段がなく、騒いでも何も解決しない。捕まった見張りの男と同じように四人もすぐに気を失わされ、五人はすぐに捕らえられてダンジョンまで運ばれた。

  優斗はこの結果に喜んだが、クレアやヒルダなど準備をしていたのにまったく出番がなかった面々の中には、少々不満をのぞかせている者が数名いた。


「しょうがない。戦い足りないやつがいるならダンジョンの中に作ってある訓練所で模擬戦でもしていてくれ。人が足りなかったら俺が相手してもいいから」

「「「「「いいの(か)!」」」」」


  ヒルダは特に大喜びだ。優斗は魔法職であり、近接戦闘系のクレアとは戦闘スタイルが全然違う。だが、優斗は一対一でもまぎれもなくこのダンジョン最強である。その優斗と戦えるとなっては、強者との戦闘が大好きなヒルダにとっては大歓迎である。

  そのほかにも千代やアシュリーなど、優斗と戦いたいという者は何人もいる。この世界での生活がある程安定したと言っても、当然みんなにはやるべき仕事が振り分けられている。今は好きな相手といつでも戦える状況ではないのだ。優斗と戦いたいと思っている者たちが喜んだのも無理はないのであった。


「まあいいさ。でもあの男たちが目を覚ましたら尋問する必要があるから、模擬戦はなるべく早めに切り上げるぞ」

「「「「「了解!」」」」」


  模擬戦をする者は訓練所に、それ以外の者は捕らえた男たちをダンジョン内の牢屋に閉じ込めて、その前にダンジョンモンスターによる見張りを何体か置いてから、自分の寝室で就寝した。




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