ルクセンブルクの独立18
「やっと着いたな。これでこの田舎からも、ようやくおさらばするできるな」
バルドはようやく自分の目に移ってきたルクセンブルクの街壁を見て、今回の戦の終わりを感じる。
もちろんこれから街の攻略や反逆者であるルナの処遇などやるべきことは多々あるが、それでもあと一息のところまで来ていることは確かであった。
「後は義父がどのように門を開けさせるのかお手並み拝見だな。力ずくなのか交渉によるものなのか、そして連れてきた捕虜をどう使うのかなど、いろいろ勉強させてもらおうじゃないか」
バルドは余裕を持って高みの見物を決め込む気だ。暗殺さえされる心配がないなら、もう自分は寝ててもいいんじゃないかと思うほど余裕だったのだが、行軍中バルドに知らせず軍がいきなり立ち止まったことに不快感を覚えた。
「どうした?なぜ止まっている。ルクセンブルクの門はまだ先のはずだろう?」
今バルドたちがいる位置はルクセンブルクの街壁が見えこそすれ、まだ街についたとは言えないほどの距離があった。
もちろん交渉なり力ずくなりで門を開けさせるためにも、ある程度離れた位置で一度止まる必要があることはわかっている。
しかしこの位置ではまだ自分たちの弓さえ届かないので、止まるにはまだ遠すぎる位置であった。
「殿下、どうやら敵はまだほかにも戦力を持っていたようで、今はその兵力と睨み合っている最中のため一度止まったのです」
辺境伯からバルドへ、今の状況を説明するための使者が遣わされた。
「なんだそういうことか。しかしここからではよく見えんが?敵は少数なのか?」
「今のところはそのようです」
「ではなぜ止まる?敵が少数なら、数の差で押しつぶせるではないか?こちらは万を超えているのだぞ。敵がどの程度なのかは知らないが、ここから敵が見えないということは多くとも百人程度であろう?」
「確かに数の差はございます。しかし敵はこの数の差にもかかわらず、奇襲するのではなく堂々と正面から出てきているのです。
その理由としては自分たちの実力にそれほど自信があるか、もしくは伏兵を潜ませて奇襲を狙っている、はたまた我々と彼らの間に何らかの罠を設置しているのどれかであると思われます。
また最悪のケースとして三つすべてが当てはまっている可能性があるので、閣下が一度止まって様子見をするよう命じられたのです」
バルドはその説明に半分納得した様子を見せた。
「言いたいことはわかった。だが結局、我々との数の差は圧倒的なのだ。慎重なのもわかるが、そこまで警戒する必要はないのではないか?」
「もちろん閣下も、基本的には殿下と同じ考えでしょう。しかし敵が何やらこちらに用があるようなのです。そこで閣下には、一度その話を聞くという意図もあるようです」
「それは私も行ったほうがよいか?」
「それには及びませぬ。今回も敵にはルクセンブルク元伯爵がいないようなので、総大将である殿下ではなく閣下が対応するようです」
「むう……」
バルドは不満そうな顔を見せる。辺境伯がバルドに対応させないのは敵がルナを出してこないのもあるが、それと同時にバルドが万が一不意打ちなどで倒された時のことを考えているのだ。
敵が交渉するふりをしてバルドの首をとる。もちろん辺境伯もその備えをしているが、今何より首を取られたらまずいのはバルドだ。
バルドもそれを重々承知しているので、不満そうな顔をしても自分に対応させろと無理に主張することはなかった。