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ルクセンブルクの独立17

「以外に油断ならん奴だ。もっと扱いやすい小物かと思っていたのだがな……」


  辺境伯は捕虜になっていくルクセンブルク軍の面々を見ながら、スタンドプレーを行ったウルージについて思いをはせる。

  彼はウルージが部下を使い民兵をかどわかしたことをつかんでいた。ウルージ本人はばれていないと思っているようだが、三大貴族の情報網はウルージの想像をはるかに超えていたのだ。


「危うく奴らにすべての功績をとられるところだった。ウルージ子爵、あれは派閥に加えておくべきか?」


  当初彼の作戦ではまず前線に東の貴族連中、つまり自分の派閥以外の貴族の兵力を使い敵の戦力を減らし、両方が疲弊したところで自分たちが出ていくという作戦であった。

  そうすれば自分たちへの被害のほとんどが東の貴族たちに肩代わりされ、なおかつ最後のおいしいところを自分たちがいただくことで、最小限の犠牲から大きな戦果を得られるはずだったのだ。


  しかしその作戦は、ルクセンブルク軍が乱れたことで効力を失う。軍が乱れたためまともな作戦も統制もとれなくなった軍は集団としての機能を失い、ほとんど自滅に近い崩壊の仕方をたどっていく。

  そうなれば前線の兵だけで事足りるようになってしまい、後ろに控えている辺境伯及びその派閥の軍の出番がなくなってしまう。


  ウルージが敵の降伏を受け入れずに攻撃しようとしたが、もし逆の立場、つまり辺境伯軍が前線にいたのなら、間違いなく彼も降伏を受け入れず攻撃し続けたであろう。


  辺境伯が降伏を受け入れたのはこれ以上東の貴族たちに戦果を与えないためであり、また敵の降伏を受け入れることで、自分たちの器の大きさを示そうという方向にシフトしたからだ。


  そういう意味では、隊長の首をとった民兵の行動は英断であったと言えるのかもしれない。民兵では想像のしようがない政治的な理由によるものとはいえ、結果的には自分たちの命拾いが成功したのだから。


「閣下!ルクセンブルク軍の大半を捕虜とすることに成功しました」

「そうか。よくやった」

「はっ!しかしルクセンブルク軍には、重傷者も死者も存在しております。無傷な者や軽傷な者はそのまま捕虜にしておりますが、そうでない者たちの処遇はどういたしますか?

  正直重傷者の中には、このまま放っておいたら確実に死ぬだろうという者がたくさんおります。また死者の供養などの問題もありますが、そのあたりはどうすればよろしいでしょうか?」


  重傷者を治すとなると、当然あらかじめ持ってきた医療用の物資を使わねばならない。だが貴重な物資を使うと言うことは、次味方が必要になった時に満足な量がないかもしれないというリスクもはらんでいるのだ。

  ただでさえ大事な物資を使うときは慎重にならねばならないのに、ましてやそれを先ほどまで戦っていた相手に使うのだ。


  当然それを使うのにためらいが出てくる。また死者をそのまま放置するかちゃんと供養するかは意外と重要な問題で、適当に放置しておくとそれがモンスターの餌やアンデッドになってしまう可能性が出てくるのだ。

  戦場では死人問題の対処も重要で、大抵は放置するか、もしくは焼いたり神官に祈らせることで死体がアンデッドにならないよう処理していた。


「死体は焼いて供養しておけ。重傷者には手厚くあたれ、と言いたいところだが、残念ながらこちらの物資にも限りがある。

  最低限の手当てはしてやれ。だがそれでも死んでしまったのなら、それはもうしょうがないということで割り切るしかないな」

「はっ!了解しました」

「任せる。わかっているとは思うが、重傷者に物資を使いすぎたせいで、我々王国軍が使える物資がなくなるといった事態は避けろよ。捕虜は大事じゃないとは言わんが、優先順位というものがあることを忘れるな」


  今日はここで野宿するしかないだろう。戦争が早く終わった分には構わないが、その分捕虜をたくさん取ったことで身動きがとりずらくなった。


  本来は捕虜をとるとしても数人までに抑え、できるだけ早くルクセンブルクに到着できるよう死体は放置しそのまま前進する予定であった。だが今は身動きがとりずらいので、ついでとばかりに火葬などを行っている。


「ここからルクセンブルクの街までは普通に歩いて三日、今日しっかり休めて体力を回復できたとしても、こちらが大軍であることとおまけに捕虜までたくさんいることを考えれば四日、下手したら五日かかるかもしれんな。

  そうなると重傷者は切り捨てるべきか?王国軍の重傷者はともかく、ルクセンブルク軍の重傷者は切り捨てたほうが賢いかもしれん」


  勝ったとはいえ当然王国軍にも少ないながら重軽傷者、そして死者がいたのだが、もちろんその者たちはルクセンブルク軍の者たちよりも手厚く扱われていた。


「まあこの戦ももうすぐ終わりだ。結局この戦では姿を見せんかった奇襲部隊の弓使い共に気を付けつつ、街まで行って門を開けさせてやろう。

  あの小娘が小癪にも冒険者や傭兵を雇い抵抗してくるかもしれんが、だとしても俺たちには勝てないはずだ。

  それに傭兵や冒険者しかまともなのがいないなら、怖くてそいつらと籠城というのも現実的ではないだろうからな!」


  辺境伯の目には、すでにこの戦争の終わりが見えていた。後は自身とバルドの首が狙われることに細心の注意を払いつつ、大軍や捕虜の存在をもってルクセンブルクを攻略するだけであった。


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