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ルクセンブルクの独立9

「兵は集まったか?」

「はっ!閣下の要請に応じた貴族たちが、続々と我らの軍に合流してきております。そのせいでわずかながらトラブルも起きてはいますが、今のところは問題ないと思われます」

「よろしい。この軍は貴族たちが各々自分の兵を連れてきている、いわば寄せ集めのような状況だ。そういう多少のトラブルはつきものだろう」


  辺境伯の要請を受けた貴族たちは、そのほとんどが要請に従って辺境伯軍に合流してきていた。


「ところで、まだ来ていない貴族はどれくらいいる?」

「およそ四分の一と言ったところです」

「それはどういう四分の一だ?単純に遅れているのか、それとも俺の要請を断ったのか?」

「どちらもいるそうです。単純に予定よりも遅れているところもあれば、距離的な問題や兵を招集するのに手間取っているためいまだ合流してこない者、そして閣下の要請に従わず、軍を出すつもりのない者たちがいるようです」


  辺境伯はその報告を聞き渋い顔をする。

  確かに自分の要請に従わなかった者はそれを理由として戦争後に領地を没収するつもりであり、それ自体は彼にとって悪いことではない。自分か自分の派閥の領地が増えるのだから、そのことに対しては不満があるどころかむしろ喜ばしいことだ。


  不満なのは辺境伯であり、なおかつこの国の三大貴族でもある自分の要請に従わなかった貴族たちがいることだ。これが王や他の三大貴族の派閥の者であったならそこまで不満はない。その三家は自分と同等に近い権力と力を持っており、実質ほぼ対等な家同士であるからだ。

  しかし今回要請したのはそれらのどの派閥にも入っていない、ましてや爵位も子爵か男爵と言う者たち、つまり辺境伯家とは比べ物にならないくらい劣っている貴族たちなのだ。


  彼は自分が軽んじられているのではないかと考え、部下からもう少し詳しく事情を聴くことにした。


「遅れている者についてはわかった。だが俺の要請に従わなかった貴族はどういうつもりなのだ?まさか使者がちゃんと伝えなかったということはないであろうな?」

「それはないかと。ちゃんと閣下の軍に合流するよう伝えているはずです」

「ではなぜ断るのだ!?」


  辺境伯は思わず大声で怒鳴る。

  辺境伯の怒鳴り声に驚いた部下は、おそるおそる使者からの報告を伝える。



「え、あの……すいません。部下からの報告では、当主が病気だという理由と自分たちに兵を派遣できるほど財政的な余裕はないという返答だったそうです」

「それは真実なのか?何らかの思惑があり、兵を出したくないからそう言っているだけではないのか!」


  報告された理由は貴族が出兵を断るときによく使われる、いわば常套句であり、それだけ聞いても本当に出兵できないのかどうか判断がつかない。それどころか、むしろその理由を聞いて嘘ではないのかと言う気持ちが強くなった。


「すいません。使者たちもそこまで調べる時間はなかったそうです」

「つまり嘘かホントかわからないのだな」

「はっ!よろしければ今からでも調べさせますか?」

「いや……、それはやめておこう。理由はどうあれ、その者たちが俺の要請を断ったことは変わらんからな」


  要請を断った者たちの理由だが、それが嘘かどうかにかかわらず、そもそも要請に応じた貴族の中には同じような状況に陥っている貴族も複数存在している。

  例えば当主が病気だという家は、その息子である次期当主やその兄弟、または分家の男子や武勇に優れた部下に大将を任せ派遣しているし、当主が病気でないところも、経験を積ませたり次期当主になる箔付けなどの理由で当主以外が参戦しているところもある。

 

  そして財政的に厳しいというところも何とかやりくりして最低限の兵を出しているし、場合によっては他家や商人に借金を作ってまで兵を出しているのだ。


  こういった家がある以上、兵を出せない言い訳をされてもそれを受け入れることはできないし、そもそも辺境伯自身がそれを受け入れる気はなかった。


「彼らを攻めますか?」

「今はやめておけ。俺の要請を断った者たちには、この戦争が終わった後じっくりとそのツケを払わせてやる。

  それより今は殿下が来られたらすぐ出陣できるよう、兵を持ってきた貴族たちを含めていろいろ打ち合わせをしておくべきだ。殿下が来られたにもかかわらずもたもたとしていつまでも出陣しないようでは、俺も殿下も諸侯に顔が立たんからな」


  第三王子はまだ来ておらず、実質的な業務はすべて辺境伯とその配下たちが行っている。今回の戦はあくまで王子に箔をつけることや、自分たちの領土と影響力の拡大などが目的であり、今回の戦で自分たちが負けるとは微塵も思っていない。


  王子が到着すればその次の日にでも軍を動かし、その後ルクセンブルクの兵を数の差で圧倒し簡単になぎ倒すという簡単な仕事であった。


「これに勝てばもうあの小僧に大きな顔はさせんでもよくなる。王国最強の戦力を持つのは代々武勇に優れている我らロンバルキア辺境伯家であり、あんな小僧がそうやすやすと奪える地位ではないのだ!」


  彼にとって第五王子が公国を打倒したことはやはり悔しかったのだ。もちろん第五王子自身は弱く、一対一なら彼の前に瞬殺されるだろう。

  だがそんなことは問題ではない。彼らは王侯貴族なのだ。問題は自分自身の力がどうとかではなく、配下も含めてどれくらいの戦力を保有しているかだからだ。


  もちろん王国の一部でありなおかつ規模も小さいルクセンブルクの討伐と、王国に劣るとは言え小国としてふさわしいだけの領土を持っている公国の撃破では、当然公国の撃破のほうが大きな成果だと言える。

  だがそれでも王国への反逆者を討伐するというのは大事な仕事であり、またその評価は決して低くはない。


  それに今回は彼の副なる目的でもあった、ルクセンブルク元伯爵の派閥にいた貴族たちに要請という名の命令を下し、それに従わせるというのも八割方成功している。

  ここで彼らを従えたという形を取っておけば、後々東で影響力を持つときに有利になるのだ。


  彼は地図を見ながら、ルクセンブルクの兵をどうやって潰すか、それもできる限り今回の招集に応じた貴族たちに力を示す形で潰せるかを考えていた。


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