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包囲網

「どうやらようやく夜営を始めたようだな。見張りは一人いるが、これは当然想定の範囲内だ。でも、念のためあいつらがちゃんと寝静まると予想される一時間後から作戦開始だ」


  男たちは見張りを一人立ててほかの全員がテントに入っていった。

  ここは日本のキャンプ地のようなある程度切り開かれていて安全な場所ではないし、モンスターという地球では考えられないほどの強さを持った生物がうようよしているところだ。こんな場所で夜営するのに見張りを立てないなんて完全に自殺行為だし、曲がりなりにもここまで来ている彼らがそこまで馬鹿なはずがない。

  彼らが見張りを一人立てるのは当然優斗たちにも想定内であった。


  優斗からすると、彼らの立てている見張りが二人じゃなくて一人なのが気にかかる。

  確かに見張りを一人にすればその分一人一人が休める時間は多くなる。しかし、ここはたくさんのモンスターたちがはびこる森の中である。当然夜行性のモンスターが襲ってくることはあるだろう。


  そんな森で夜営をするのに見張りが一人ということは、この男たちはよっぽど自分の腕に自信があるのだろう。優斗たちからするとあまり強そうには思えないが、それでも優斗たちがこれまで森で狩ってきたモンスターたちに比べれば少しはできるという感じはする。

  念のため一時間後に襲撃するのは、強さもそうだが敵の未知の能力を警戒しているという理由もあるのである。


「まずは包囲網を作って奴らをここから逃げられないようにするぞ。ばれないように気持ち大きめに作ることも忘れるなよ」

「わかった。一時間以内にこいつら使って包囲網を作っておくよ」


  アシュリーやユズが中心となり、男たちの夜営しているテントを中心とした包囲網が形成されていく。包囲網を構成するのはダンジョンモンスターたちであり、彼らをあらかじめ決められた場所に配置していく。

  見たところ今見張りをしている男は盗賊系じゃなく戦士系だと思われる。盗賊系じゃないので感知力は高くなく、魔法使いのように魔法で感知範囲を広げたりできるわけではないだろう。

  だがそれでもここまで来た者たちの一人であり、そして曲がりなりにも一人で見張りを任されている男だ。用心のため敵の察知できる範囲を広めに想定して、さらにその外にダンジョンモンスターたちを配置するようにしたのである。

 

  このダンジョンモンスターたちでは一対一になればあの男たちには決してかなわないだろう。今召喚しているダンジョンモンスターたちは強さよりも数を重視しているため、一体一体はそんなに強くない。森にいるモンスターを倒すことで鍛えてもいるが、それもまだまだ十分とは言えないのだ。


  一対一では勝てなかったとしても、数がたくさんいれば話は変わってくる。今包囲網を形成しているダンジョンモンスターたちは百体前後いるのだ。これらが一斉にかかればあの五人でもかなり苦戦するはずである。

  それにこの包囲網が使われるのは優斗たちが彼らの捕縛に失敗して逃げられた時だ。この包囲網は使われない可能性のほうが高いし、当然優斗たちも逃がしてしまった敵を追いかける。そして襲撃と同時に優斗が念のため結界を二重三重に張って逃がさないようにする手筈である。

 

  ただでさえ戦闘力で優斗たちに劣ると思われ、また数では圧倒的に劣っている存在が、さすがにここまでされて逃げられるとは思えない。優斗の慎重な性格が生んだ完璧すぎる包囲網である。


「本当に優斗は慎重な性格ね。私もびっくりするくらい完璧な布陣だわ!」

「フレイヤ、当然だが今回も……」

「わかってるわ。どうせ今日の獲物はいたぶっちゃいけないんでしょ」


  フレイヤが少し浮かない顔をしながら返事をする。


  フレイヤは狩りの時に獲物をいたぶるのが大好きである。最初のころは未知の世界でそんなことをして危険に陥ったらどうするんだと言う優斗の指示により我慢していたのだが、最近では森について少しずつ知っていることが増えていき、未知のモンスターと出会った時以外はよく獲物をいたぶる狩りをしているのだ。


  優斗はよく「どうして昔の俺はフレイヤをこんな性格設定にしてしまったのか」と後悔しているが、当のフレイヤはそれを知らず気ままに狩りをしていた。

  フレイヤの森で行う狩りの腕は優斗たちの中で一番である。そのため毎回モンスター、動物を問わずたくさんの獲物をとってきてくれるので、ほかの面々も別に文句は言わないのだ。フレイヤの残酷な狩り方が個人的に好きでない者も中には入るが、やはりフレイヤが結果を出している以上あまり文句も言えない。

 

  それにそもそもNPCたちはお互いのことをある程度リスペクトしているので、そのことで大喧嘩に発展することは少ない。

  優斗も自分が設定したとはいえNPCたちの性格で困ると思うところもいくつかあるが、このお互いのことをリスペクトしているという点に関しては大歓迎であった。お互いのことをリスペクトしているという性格は優斗が設定したものではない。なぜそんな設定が全員に?という疑問はあるが、NPCたちはあくまで優斗がゲームで作ったキャラであり、当然すべての性格を細かく設定できるわけではない。

 

  こういったところは現実になったから作られた部分であり、優斗には未知の部分であった。ただ、NPCたちが一個の人間として存在しているようで優斗としては少しうれしいと感じていたのだった。


「あとはこれとこれを準備して……よし!これで準備はできたな」


  優斗たちが準備を終わらせたころ、ちょうどアシュリー達からもダンジョンモンスターによる包囲網を完成させたという連絡がきた。


「俺たちのほうも準備万端だ。それにもう時間も差し迫ってきている。後五分したら動くぞ!」

『了解!』


  優斗たちが男たちの捕縛に動き出す。優斗の作った完璧すぎる執拗な包囲網。果たして男たちはこの包囲網から逃れることができるのか?優斗たちの鋭すぎる牙が男たちに迫ろうとしていた。






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