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ルクセンブルクの独立 7

「兵が集まってきたようだな」


  ロンバルキア辺境伯は、自分のもとに続々と集まってくる兵士たちを見てそう呟く。彼はルクセンブルク討伐のため兵を興し、そして現在は声をかけた貴族家が兵を引き連れて合流している最中だ。今彼がいるのはルクセンブルクの三つくらい隣にある貴族家の領地であり、そこが今回の軍の集合場所であった。

  この領地はロンバルキア辺境伯の派閥にいる貴族の中で最もルクセンブルクに近い貴族の領地であり、今回の戦の本拠地的な扱いである。


「やはり遠いな」

「閣下、それは仕方ないかと。他派閥、特にルクセンブルク元伯爵の派閥の者がいる領地にこういった場所を作るのは危険です。そんなことをしていたら、どのタイミングで寝首をかかれるかわかりませんよ」

「それはわかっている。戦力差は圧倒的とはいえ、この戦は確実に成功させねばならん」

「わかっております。ここで勝つことができれば、バルド王子の即位にまた一歩近づけます」

「……それだけではないがな」

「何かおっしゃられましたか?」

「いや、なんでもない。単なる独り言だ」


  辺境伯が狙っているのはもはやバルド王子の即位だけでなく、どうにかして第五王子の権限をそぎ、最低でも彼以外の王子が次の玉座につくことだ。

  もちろん自分が推しているバルドが次期国王になれば一番うれしいのだが、それよりも第五王子が即位することの方が彼、いや彼ら三大貴族にとって大問題であった。


「それより元ルクセンブルク伯爵の派閥の貴族たちはどうしている?奴らが裏切者に加担しているかどうかの調べはついているか?」

「密偵たちが言うには、彼らがルクセンブルク元伯爵についたという事実はないそうです」

「あの小娘が見捨てられたのか?」

「その判断は難しいです。密偵たちによれば、そもそも派閥にいた貴族家にそういった使者が全く送られてきていないようです。それどころか、彼女に当主が代替わりしてから交流自体が極端に少なくなっているようです」


  辺境伯は部下の返答に首をかしげる。


「それは派閥にいた貴族たちが拒否しているのではないか?彼らが認めていないから交流がなくなっているのであれば、それはすなわち見捨てられたということになるのではないか?」

「確かにその面もあるかもしれませんが、それ以前に彼女の方から他家に連絡することもなかったそうです」

「つまりどちらも自分の方から連絡していない。つまり貴族たちの中には新当主を見定めるため様子見をしているだけ者もいる可能性があり、また一切連絡が来ないことの不信感はあっても見捨てたとまでは言えない家もあるわけだ」

「はい。もちろん密偵たちが知らないところで秘密裏に連絡を取り合っている可能性も否定できませんが、少なくとも彼らの調べた範囲では連絡を取った痕跡がまるで見つからなかったようです」

「それはそれで判断に困るな。そうなると完全に信用することはできなくなる。表ではルクセンブルク元伯爵を討てと言うかもしれんが、裏では繋がっておるかもしれんと言うことだ」


  辺境伯からすれば元ルクセンブルク伯爵の派閥の者たちが兵を上げようが上げまいが、正面から戦えば必ず勝てる自信があった。

  彼の保有する騎士団なら、平民を徴兵して挙げた兵の何万何千ぐらい簡単に倒すことができる。しかも軍事面だけでなく、経済力や派閥にいる貴族の数や力でも上回っている。

 

  辺境伯にとって彼らがルクセンブルク元伯爵につこうが勝てる自信があり、数が増えて面倒になりこそすれ勝敗が覆る気はしていなかった。

  しかしいくら勝敗が覆らないとは言え、敵の数が増えればそれだけ敵の兵力が増し、その分自軍の受ける損害も大きくなる。


  これは戦争に限ったことではないが、何事も理想は最小限の犠牲で最高の結果を得ることだ。辺境伯としてはもちろんその貴族たちが王国側につくほうが簡単に戦争を終わらせられるし、そうでなくともいちいち裏切りを警戒しながら進むよりはいっそのこと敵側についてくれたほうがやりやすかった。


「面倒だな。ルクセンブルクを攻める前に、まずは煩わしい貴族どもを踏み潰すか」

「それもありですね。そのほうがシンプルで分かりやすいです」


  部下が肯定するが辺境伯はそれを笑い飛ばす。


「フハハハ、何を言っている。俺がそんなもったいないことをするはずがないだろう。俺は代々続く名門ロンバルキア家の当主であり、この国ではトップクラスの騎士団を抱えている司令官でもあるのだ。どこぞの素人とは違い、不安要素の戦力もうまく使って見せるさ」

「さすが閣下!して、どのようにお使いになるのですか?閣下と違い平凡な私にもわかるよう説明してくだされ」


  辺境伯はその部下に対し、気分よく自分の考えを話す。


「いつ裏切るかわからん戦力の使い方など、ほとんど一つしかないであろう」

「一つでございますか?」

「ああそうだ。つまりは死んでも惜しくない兵として使うと言うことだ」


  辺境伯は悪い笑みを浮かべる。


「と言うとまさか……」

「そうだ。ルクセンブルク元伯爵の派閥にいた貴族たちとその兵は、最も被害を受けるであろう敵との最前線に配置してやればいい」

「なるほど!そうすればもし裏切られても挟み撃ちにされるわけではないので、こちらが受ける被害も軽減できるというわけですね!?」

「そうだ。それにこれは奴らが裏切ったり逃げたりしないように最前線に置き、もし敵対行動をとれば即座に後ろから殺してやると言う脅しも含まれている」

「傭兵を雇った時によく使われる手ですね」

「その通り。これで奴らが裏切らぬよう脅しをかけることができ、また元とはいえ敵対派閥の人間の戦力を削ることもできる」

「そして我々ロンバルキア辺境伯軍及びその派閥の被害は、彼らの犠牲によって抑えられるわけですね?」


  部下の表情に理解の色を見た辺境伯は、すぐさまそれを行うべく指示を出す。


「そうだ。早速ルクセンブルク元伯爵の派閥であった貴族たちに声をかけろ!奴らにはルクセンブルク元伯爵と同じように、国家反逆罪の疑いがかけられていると言っておけ」

「よろしいのですか?」

「よろしいもなにも、奴らがルクセンブルクとの密約があるのではないかと言う疑いをかけられるのは、客観的に見て何らおかしいことではあるまい。それに会議でも彼らへの対応は俺に委ねられることが決まったのだ。

  身の潔白を証明したくば、我がもとに来てブルムンド王国を裏切ったルクセンブルク元伯爵の討伐を手伝えと言えばいい。そうすればすべてとはいかずとも、最低でも半分以上の貴族は召集に応じるだろう」

「応じなかった貴族はどうなさいますか?」


  辺境伯はニヤリと笑って答える。


「もし応じぬ者がいるのならば、それを理由に問答無用で攻め滅ぼす。招集に応じない貴族はどうせ何らかの理由をつけてくるだろうが、そんな言い訳などどうでもいい。本当に敵対していようがあくまで様子見であろうが、来なかった時点でそれすなわち国家反逆である。

  ルクセンブルクを攻める前に後顧の憂いを取る意味でも、招集に応じなかった貴族家、特に大きいところは優先的に潰していく」

「小さいところは見逃すのでしょうか?」

「今はな。できるだけ早く、そして確実に終わらせることを考えれば、もし敵対しても影響がものすごく小さいところをわざわざ攻める気にはなれんし、そもそも時間の無駄であろう。

  招集に応じなかった貴族家は、この戦が終わった後にでも処罰すればいい。むしろそうしてくれたほうが、結果楽に新しい領地が手に入る」


  辺境伯が悪い顔をして新たに手に入るかもしれない領地を計算しているが、もしそうなった場合悪いなのは招集を断った貴族家の方であり、三大貴族と呼ばれる辺境伯に口実を与えたことが致命的な失敗になるのだ。


  そもそも力の強い者は力の弱い者から好きに搾取できる力があるのだが、それを制限しているのはひとえにほかの力の強い者の存在があるからだ。辺境伯だって本当は無制限に他の貴族家の領地を取り上げたいが、当然それには本人の抵抗だけでなく他の三大貴族や王家などの目がある。

  だから辺境伯は好き勝手に他者の領地を奪うようなことはしないし、それは彼だけでなく他の貴族たちにも当てはある。


  そのため力の弱い者がひとたび力の強い者に口実を与えてしまうと、今回のように力の強い者はその口実を使い強引に力の弱いものから奪っていくのだ。


「東を抑えればそれだけ力が増す……。その力を使い、一刻も早くあの小僧をつぶさなければな。

  俺が先にあの小僧をつぶせば、あいつらも俺のことを今より尊重せざるを得まい。そうなれば、俺の義息子であるバルド王子が即位する日も近づくな」

「バルド王子が国王になられれば、閣下はその義父として今以上の権力を持てるわけでございますね」

「当然そうなる。そしてその未来が現実に来るためにも、わかったのならさっさと行動しろ!」

「はっ!かしこまりました!!」


  そうして部下が出ていく後ろ姿を見ながら、彼はバルドが国王になった時の王国を夢想して上機嫌になる。

  例え国王の義父になったと言ってもほかの三大貴族を軽んじることができるわけではないが、それでも立場的には彼らより上に立てる。実際彼は現国王の義父にあたるパロム侯爵を年齢的に上と言うだけでなく、国王の義父と言う点でもある程度尊重していた。


  彼は自分がそんな立場になれる日が近づいてきていると感じながら、庶民が一生口にできないような高級な菓子をつまんで食べた。


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