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ルクセンブルクの独立 6

「遅いぞ!相手は非戦闘員なうえ、その数だって三十人もいないのだ。お前たちは兵士であり、しかもその数は対象の十倍以上だ!!もっと早く仕事を終えることくらいできなかったのか!?」


  彼らは援軍に来た兵士たちを叱責する。


「すみません。奴らが予想以上の抵抗を見せてきましたので」


  兵士たちの申し訳なさそうな態度を見て、彼らも少し溜飲が下がる。


「まあ今は勘弁してやる。それより目の前にいる二人をとっとと殺してしまえ!」

「ルナ様はまだ生きておられるのですか?ここには元青級冒険者ルナ様といえど、けっして対応できぬほどの数を用意していたはずでは?」

「途中まではうまくいっていたのだ!だがあそこの執事が邪魔したせいで、この会議場に用意した戦力たちがああなってしまったのだ」


  兵士たちは床に転がっている死体を見て納得する。


「なるほど、今床に倒れている者たちですね。

  しかし困りました。あれだけの数の兵士たちがやられるとなると、援軍に来た我々の人数では同じような結果になってしまうかもしれません」

「あいつらは先ほどあれだけの数を相手に戦ったのだ!ならばそれ相応に疲れているはずだし、この人数でもやれないことはないはずだ!!」


  今回のクーデターはもうすでに勝ち目がないと思われて兵士たちに見捨てられてしまえば、その段階で重臣たちには完全に勝算がなくなる。


  そしてそうなればその後自分たちがどうなるかよくわかっている。少なくとも絶対にいいことは起こらないとわかっている彼らは、兵士たちが敵側に寝返らない様自分たちにはまだ勝算があることを必死に兵士たちに伝えねばならなかった。


「他には兵士たちがいないのか?すでに制圧しているのなら、最小限の見張りを残して全員ここに連れてくればいいのではないか?そうすればもっと戦力が厚くなるだろうしな」

「はい。念のためそう考え、この部屋に入る前にすでに部下を使い他の部隊の兵士たちを呼びに行かせております」

「それを早く言え!!つまりこれからさらにたくさんの援軍が来るということだな!?」

「おそらくは。もしほかの兵士たちが返り討ちにあっていたらそうはなりませんが、そうでなくちゃんと任務通りに働いてくれているのならば大丈夫でしょう」

「フハハハハ!これで俺たちの勝ちだ!どうだお前たち、もう少ししたらこちらの援軍が大量に来て、そいつらがお前たちを殺すのだ!おとなしく投降してみてはどうだ!?」


  先ほどとは打って変わって、非常に上機嫌で話す彼ら。

  その様子を見ていたルナと執事は、何とも言えない表情でひたすら黙って彼らの話を聞いていた。


「!?どうやら部下が援軍を連れてきたみたいです」

「よくやった!これで俺たちの勝ちだ!」

「彼らを入れますよ?」

「当然だ!さっさとここに入れろ!!」


  そうすると扉から……、彼らがこれまで出会ったこともないようなモンスターが何体も入ってくる。

  てっきり自分の配下の兵士たちが入ってくると思っていた彼らだが、いきなり自分が知らないモンスターがたくさん入ってきたことを見て非常に驚く。しかもほとんどの者たちが、あまりに予想外の展開に腰を抜かしていた。


「い……、一体これはどういうことだ……。なぜ……、なぜこんなところにモンスターが……」

「まだ状況が呑み込めていないようだな。まあ、お前たち脆弱な人間には無理もないか」


  先ほどまでは重臣たちに従っていたはずの援軍に来た兵士が、急に口調を変えて話し始める。

 

  彼らも普通ならそれを咎めるはずである。

  しかしモンスターの登場に驚いた重臣たちは腰を抜かしていて、驚いた反動かそれとも事実を認識したくないという自己防衛本能か、彼らは頭が真っ白になっていた。そのため、彼らがその口調を咎めることはしなかった。


「そろそろ現実を直視してみろ。これだけ時間を与えたんだから、いい加減冷静になって周りをよく見てみたらどうなんだ?」


  現在重臣たちと僅かに残った兵士を含むクーデター軍は、モンスターが出てきた驚きのあまりその動きを止めている。

  普通に考えればこれは彼らを殺すなり捕縛するなりの大チャンスなのだが、ルナも執事もモンスターも、誰もそれらを行おうとして動かなかった。


「まったく状況が理解できていないのだな。ならば手っ取り早っく理解させてやるとしよう。おいお前!あの魔法をこいつらにかけてやれ」

「本当に意地が悪い方だ。わかりましたよ、彼らを冷静にしてやればいいんですね」


  そう言ってかけられた魔法は、精神を安定させ恐怖や混乱などのバッドステータスを治すための魔法だ。それ受けた重臣たちは冷静になったことでより正確に事態を把握し、ちゃんと事態を把握できたがゆえにより大きな絶望を味わうことになった。


「うんうん、すごくいい絶望の味だ。やはり上げてから落としたほうが、その落差の分絶望が素晴らしいな。

  しかも一度絶望を味わってから冷静にさせたことで二度おいしくなった。さすがに思考が停止している状態では絶望を感じられないからな」

「お、お前たち!なぜそんな悠長にしているのだ!?仮にも兵士なのだから、我々を守り敵を打ち倒すのが役目ではないのか!!」

「何を勘違いしている。俺たちは兵士でも何でもないぞ」

「なっ……、んで?」


  彼らの目には、もはや先ほどまで写っていたはずの兵士の姿がない。その代わりとして現れたのは醜悪な姿をした化け物であり、その姿は彼らにさらなる恐怖と絶望を与えた。


「やはり恐怖や絶望の感情は心地いい。今回の作戦に参加できてよかった。こ奴らには及ばぬが、先ほど我らを襲ってきた兵士たちの絶望も良かったしな」

「やっぱり物好きですねぇ。まあ私も、人間どものそういった悪感情は嫌いではありませんが」


  そう言って醜悪な化け物と話しているのは、これまた人とはかけ離れた容姿を持つ化け物だ。さすがにこちらの方が醜悪さでは劣っているとはいえ、普通の人間から見たら十分に恐怖の対象となるであろう姿をしていた。


「兵士たちはどうした!?」

「それは私の魔法によるものですね。先ほどあなた方に冷静になる魔法をかけましたが、その前から別の魔法をかけさせていただいていたのですよ」

「この化け物が!!なぜおまえらのような化け物が人の世界にいるのだ!?」


  なんでこんな化け物たちがこんなところに……、彼ら重臣たちが思っていたことはまさしくそれだろう。こんな化け物たちが近くにいると知っていれば、自分たちだってこんな大それたことは絶対に計画しなかった。いやそれ以前に、これほどまで危険な場所にのうのうと留まってはいなかった。


「あなたたちももうよろしでしょう。あまりだらだらしすぎると、クーデターの発生だけでなくあなたたちの存在まで住民たちにも気づかれる恐れが出てきます。

  用が済んだなら早めに撤収してください。この者たちは……このように始末しましたので、もうあなた方の仕事はありません。残りの後片づけは私どもだけで十分ですから」

「わかっている。主からも用事が済んだなら、特に重要でない死体だけを持って戻ってこいと言われている。

  死体も我々の楽しみのために生かしておいた者たちもすでに持ち運ぶ準備はできている。我々が命じられているのはそこまでだ。後は人間どもに溶け込めるお前たちに任せるぞ」


  執事から促されたモンスターたちが、床に転がっている重臣たちの死体を置いて会議場から出ていこうとする。

 

  重臣たちの死体は、クーデターの証拠や見せしめなどいろいろな使い道がある。本当は生かして捕らえてもよかったのだが、彼らがモンスターたちの姿を見た、というよりモンスターたちが彼らの前に姿を見せたので、安全のため殺すしかなかった。


  ルナや執事からすればできるだけ生かして捕らえたかった。死んでいれば死体としてしか効力を発揮しないが、生かしておけばまた違う使い道もあるのだ。


  だがモンスターたち、特に彼らの中でも最も醜悪な化け物が恐怖と絶望をたくさん味わいたいと言うので、しょうがなく殺すことを了承したのだ。


「……それにしては無駄なに長い時間を過ごしていたわね」


  ルナがボソッと言った一言。彼らの優れた聴力は、そんな小さな一言すらも聞き逃さなかった。


「女、図に乗るなよ。我々がお前を手伝っているのは、あくまで主がそうせよとおっしゃっておられるからだ。主が殺せと言われれば、いつでもお前ごとき殺せるのだぞ」


  醜悪な化け物がその顔を近づけ、常人ならば見ただけで気を失うほどの恐怖とプレッシャーをルナに与える。

  しかしルナはその顔をそこまで恐れることなく、チラチラと目を背けながらもなんとかその醜悪な表情を見ることができていた。


「確かにあなたたちには、私ごとき簡単に殺せるのでしょうね。でも逆に言うと、私に利用価値があるうちは絶対に殺せない。

  確かにあそこでは怖い思いもしたけれど、それでも絶対の忠誠を誓いあの方を裏切らなければ、あなたたちに私を処断する権利はない。それくらいは理解しているわよ」

「生意気な女だ。だが確かに、その言葉を的を射ている。怯えながらも我の顔を近くで見ることができる胆力に免じて、今回はこのまま引こうではないか」


  そうして彼らは今度こそ会議場から出ていく。その後ろ姿を見送ったルナは安堵から腰を抜かし、しばらくの間動けないでいた。


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