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ルクセンブルクの独立 5

「死ね!愚かな小娘よ」


  合図を出された兵士たちの槍が、ルナに向かって一斉に突き出される。


「いくらなんでも私を舐めすぎじゃないかしら?あなたたちも言っていたようにこれでも元青級冒険者なのよ。その程度で私が死ぬと思ってるの?」


  ルナは己の前に防御壁を出して対応する。


「マジックアイテムか!?」

「ええそうよ。領主たる者、急な暗殺などには気を付けなければいけませんもの」

「それはいいことを聞いた。なら俺の息子が伯爵になった暁には、その言葉に従い今お前が身に着けているマジックアイテムで身を守らせるとしよう」

「そうできたらいいわね」


  そう言ってルナは己の武器を握り戦闘態勢にはいる。そこはさすがに元青級冒険者、それに加えルクセンブルクに帰ってきてからも暇を見つけては鍛錬を行っていた彼女の力は、以前と比べ全くそん色ないどころか、兵士たちの目にはむしろ強くなっているように見えた。


「これは簡単にはいきそうにありませんぞ」

「ちっ!女のくせに武力を持っているところも気に食わん。いいから数の差で潰してしまえ!」

「私はそう簡単な女じゃないわよ!!」


  兵士たちの攻撃に対し、ルナはマジックアイテムなどを駆使しながら何とか戦いを続ける。兵士たちは皆一対一ではルナに遠く及ばない者ばかりだが、それでも束になってかかってこられては当然数の差で実力差が覆されてくる。

 

  しかも戦場は狭い(普通の部屋と比べるとかなり広いが、外で戦うことと比べるとすごく狭い)ため、兵士たちの攻撃をかわせる余地も小さい。ルナの戦闘スタイルは敵と正面からぶつかるというよりも、どちらかと言うとスピードや技術でをうまく絡めて戦うタイプのため、どうしてもこういった場所では不利になってしまう。


  ルナは何とか粘りながらも、兵士たちとの数の差の前に早々と敗北しそうになっていた。


「やっぱりこの数の差は厳しいわね」

「小娘のくせにやるではないか!だがこんな不快な小娘を見る機会もこれで終わり。俺も武芸を嗜む者としてよくわかるぞ!すでにお前が限界であるということはな!!」


  男は愉悦の表情を浮かべながら、ルナの疲弊した姿を見る。


「ええそうね。私はもう限界だわ。さすがにこの場所でこれほどの数の差を覆すのは、私自身の力では絶対に無理ね」

「潔いではないか。最初に言った通り、苦しまないようなるべく楽に殺してやる。覚悟はいいな?」


  ルナはその言葉を聞き、諦めた顔をするのではなく哀れんだ表情を見せる。その場にいる者たちは彼女が見せたその表情に疑問を持ったが、それでも今追い詰めているのは自分たちの方だ。おそらくそれは彼女の最後の抵抗だと思い、兵士たちに命令し彼女を殺させようとする。


「やってしまえ!!」


  命令に従い兵士たちが再度ルナを殺そうと槍を動かすが、今度もその槍が彼女に届くことはなかった。


  兵士たちの突き出した槍は、ある一人の男がすべて受け止めていた。


「貴様!こんなところでいったい何をしている!?」

「それは私のセリフでしょう。仮にもお嬢様の重臣であるあなた方が、いったいなぜ兵士たちに命令して主を殺させようとしているのです?その行動のほうがよっぽどおかしいでしょう。

  それにそこの兵士たちもです。いくら自分よりも地位の上の人間の言うこととはいえ、その命令でさらに上の地位に立つ人間を殺すなんておかしいことだとわからないのですか?」

「ごちゃごちゃうるさい!それにお前のところにも兵士たちを向かわせていたはずだ!!それなのに、なぜおまえは五体満足でこの場に現れるのだ!?いったいどんな手を使った!?」


  男の怒りの表情に反し、ルナを守った執事は穏やかな笑みを浮かべていた。


「ああ!やはりあの兵士たちは、あなた方の手配した者たちでしたか。最初はいきなり拘束しようとして来て意味不明だったのですよ。

  お嬢様が私を拘束するはずありませんし、いったいどこの誰がトチ狂ったのかと思いましたよ」

「俺の言っていることがわからんのか!?いったいどうやってその兵士たちから逃れたのだと聞いておるだろうが!?」

「ふふ、ちゃんと聞こえてますよ。そうですねぇ、強いて言うのであれば、私にもそれ相応の仲間はいらっしゃるのですよ。

  それに親切な兵士さんが、私たちに今回の計画の全貌を教えてくれましてね。これはお嬢様が危ない!と思い、ここに駆け付けた次第でございます」


  執事のその発言を聞き、彼らは大いに驚いた顔をする


「兵士たちの中に裏切者がいるのか!!くそっ!こうなることを恐れて下っ端には当日まで何も教えなかったのに。まさか上官連中に裏切り者がいたのか!?

  そうなると何も教えていなかった下っ端連中の中にも、情勢を見てこちらを裏切って小娘の側につく者が出てくる可能性もある」

「どうなさいますか?」

「決まっている。一刻も早く目の前にいる小娘を殺すのだ!裏切者がいようがいまいが関係ない。裏切り者共の旗印になりかねんあの小娘さえいなくなれば、そいつらも行動を起こすことはできんのだ!!」

「なるほど!!」

「ああ。だから早く殺せ。もし本当に裏切者がいるとすれば、そいつらがこの会議場に入り込んで我々と敵対する可能性がある。そうなる前に殺しておくのだ!!」


  兵士たちが一刻も早くルナを殺そうと向かってくる。しかしその兵士たちは、彼女を守る執事によって次々と倒されていく。


「なんだと!?」

「私が先ほどあなた方の目の前で彼らの槍を防いで見たのを、ちゃんとご覧になっていなかったのですか?あれを見ておいてそんなに驚かれるとは、露ほども思ってもいませんでした」

「フフ、人間は皆そういうものよ。私たち人間は、自分に都合のいいことばかり信じたくなるものなの」


  ルナはすでに余裕の表情だ。その顔はもう自分の勝ちを確信しているようであった。


「それは知識として得てはいますがねぇ……」

「ふざけるな!俺はまだ負けておらん!!俺の手駒はここにいる兵士たちだけでなく、今別の場所で仕事をしている者たちだっているのだ!そいつらを呼べばまだ逆転できる!!」

「ならば呼んでみてはいかがですが?一応言っておきますが、この会議場の入り口を見張っていた兵士たちはすでに、私がこの部屋にはいってくる際に倒させていただきましたよ」

「ふんっ!見張りやお前に送った兵士以外にも手駒はたくさんいる。そいつらさえ呼べれば俺の勝ちだ!!」

「なるほど!!ではその者たちを呼ばれる前にけりをつけねばなりませんね」


  執事は兵士に守られている重臣たちの前に歩を進める。


「「「「「ひぃっ!」」」」」


  先ほど兵士たちを簡単に倒していた執事。その彼が近づいてくることへの恐怖から、戦闘慣れしていない者たちからかすかな悲鳴が上がる。


  彼らは元々戦は兵士に任せ、自分たちは文官として統治をしてきた側だ。彼らは実戦をしたことがないのはもちろん、それを間近で見たこともない者たちばかりだ。


  初めて見る本物の実戦、しかも剣や槍で攻撃しあうことで血が流れ、そしてダメージの大きい者は倒れていき、それよりひどい者は死んでいく。

  そんな戦場のリアルを初めて見た彼らは、それを初めて見たことによる恐怖と嫌悪感、そして今度は自分の番かもしれないという不安と恐怖から、彼らのこれまでの人生で一番と言っていいほど恐怖にまみれた顔をしていた。


「ひっ、卑怯者!」

「卑怯……ですか?」


  執事は急に上げられたその声に、困惑のあまり首をかしげながら問い返す。


「これが卑怯でなくて何だというのだ!お前は……、お前はこちらの戦力が整う前に俺たちを殺すという算段だろう?戦士として、そんなことをして恥ずかしくないのか!?我々は野蛮なモンスターとは違うのだ!やるなら正々堂々とやるべきだろう!!」

「何をばかなことを。そもそも先にその野蛮な手を、それももっと汚い不意打ちという手段を使ったのはあなた方の方でしょうに」

「それを言うならお前だって力を隠していただろうが!!もしあらかじめお前の力がわかっていれば、俺だって最初からもっとうまい対応の手を思いついていたんだ!」


  その後他の重臣たちからもルナや執事を非難する声が次々と上がり始める。そして挙句の果てには、今ならこの件は不問で許してやるなどという見当違いなことまで言い出す始末だった。


「そもそもそこの小娘が!……」

「もういいでしょうか?その手の類の馬鹿な発言は、聞いていてあまり気持ちのいいものではありません。

  もしそれを本気で言っているようなバカなら救いようがないですし、もし本気ではなく勢いで私たちを丸め込むつもりなら無駄ですよ。あなたたちはお嬢様に対する反逆者だ。どう転んだところで死刑か投獄の二択、まあよっぽど使い道のある者だけは助命されるかもしれませんが、それ以外は基本的にその二択しかありえませんよ」

「なんだと!?」

「それと最後にもう一つ、もしそれが増援を待つための下手な芝居だとすれば、あなた方のことは滑稽にしか映りません。

  もう詰んでいるにもかかわらず、いまだに見苦しい無駄な努力をし続ける道化師。その姿は結構好感を持てますよ」


  執事のその言葉で、先ほどまで元気に二人を非難していた声は収まる。彼の言ったことは図星だったのか、重臣たちは青い顔をしながら彼を睨んでいた。


「ふむ。ようやく来たようですね」

「なにがだ?」

「増援ですよ増援。屋敷内での仕事を終え、ようやくこちらにも手を回せるようになったみたいですよ?」

「なぜおまえにそんなことがわかる」

「私はあなたたちとは感覚が違いますから。それより来ましたよ。ほら見てください。入口の扉が開こうとしているでしょう?」


  扉の方を見ると、確かに何者かが会議場に入ろうとして扉が開かれていくのが見えた。


「やった!ついに増援が来たぞ!!これで形勢逆転、クーデターも成功だ!」

「全く遅いではないか。危うく我々の方がやられそうだったのだぞ!!」

「早く入ってこい!そして、あの生意気な執事と小娘をとっとと殺してしまえ!!」


  先ほどまで不利だったクーデター側は扉から入ってこようとしている者たちに希望を抱き、先ほどとは打って変わって明るい表情をする。

  彼らにとってその扉から入ってくる者は暗闇に差した一筋の光であり、皆が勝利を期待しだした。


『ギィー』


  扉が開く音がして、外から数人の兵士の格好をした者たちが入ってきた。


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