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ルクセンブルクの独立 2

「当初の予定通り、俺とその派閥の貴族たちがルクセンブルクに向かうことになった。当初の取り決め通り俺がルクセンブルク家に加担した貴族たちの領地、もしくはルクセンブルク領を直接もらうがそれでいいな?」


  ここは三大貴族が秘密裏に会議を行ってきた地下室。玉座の間での会議を終えた彼らは、今回の成果とこれからの方針を決定するため一度三人で集まった。


「僕は構わないよ。これを機に東への影響力を大いに強めたい君の魂胆は見え見えだけど、今回は君に譲ることにするよ。まあ君がルクセンブルクを取った後に行われるであろう国王との交渉時に、僕が少し口添えするくらいなら引き受けても構わないよ」

「ふんっ!どうせそれも今回と同じく有料であろう」

「それは当然さ。何事にもそれ相応の対価は必要だろう?」

「この守銭奴め」


  ロンバルキア辺境伯が吐き捨てるように言う。


「お金がないよりはましさ。それに我がペンドラゴン家では、守銭奴という言葉は貶されているとはみなされない。守銭奴とはその名の通り銭、つまり財産を守る者のことさ。むしろいいことだろう?

  まあそれに厳密に言えば我が家は守銭奴とはいいがたいかもしれないね。なんたって僕の格好を見ればわかるように、我が家は金もちゃんと使っているからさ」


  ペンドラゴン侯爵の衣装は、相変わらずこの中でも豪華なものであった。


「減らず口を」

「戦ばかりしている脳筋には言われたくないなぁ~」

「なんだと!俺に喧嘩売ってんのか!?」

「最初に仕掛けてきたのはどちらだろうねぇ~」

「このっ!」

「落ち着けぃ!!こんなところで喧嘩するな!儂らの目標はあくまで同じじゃったはずじゃ。現在台頭してきておる第五王子を徹底的に妨害し、何とかそれぞれ抱えておる王子のうち誰か一人を王位につける。

  王子の暗殺に失敗し続けた以上こういった正攻法で攻めるしかないと、以前三人で確認しあったはずじゃなかったのか!?これでは儂らが王子に負けてしまうことになるのじゃぞ!」


  最年長のパロム侯爵の言葉に、ヒートアップしていた二人は口をつぐむ。確かに地位や権力的には同等の三人であるが、彼らより上の世代、それこそ彼ら二人の父親よりもさらに上の世代であるパロム侯爵には、まだそこまで達していない二人にはない年や経験を重ねた者にのみ宿る威厳というものがあり、同世代であるからか時折こんな風に言い争いをしてしまう二人を彼がよく抑えていた。


「すみませんパロム殿。俺もついカッとなってしまいました」

「僕もです。最近のストレスからか、どうにも沸点が低くなってしまっているようです」


  二人は素直に頭を下げる。普段なら王に頭を下げることも嫌がる二人なのだが、ここが三人しかいない密室だからか、それとも相手が尊敬できる年長者であるパロム侯爵が相手だからかはわからないが、今の二人は他の貴族や部下が見たら驚くほど素直であった。


「まあ二人が最近ストレスがたまっていると言うのもよくわかる。かく言う儂も最近は同じじゃからな。うまくいかないことや不運なことが多すぎる」

「うまくいかないのは合っているが、不運という点は大きく違うだろうな。それはおそらく十中八九第五王子の力だろう」

「そうだねぇ~。もちろん僕もすべてがすべて彼のせいと断言することは難しいと思うけど、それでも八割九割は彼の仕業によるものだろうね」

「ああ。奴やそれに力を貸している者たちが裏で糸を引いているのだろう」

「だろうね。まあこんなことを言っていても、ならその証拠を出せと言われれば困るんだけどね。あるのは状況証拠だけだけど、三大貴族という地位にある以上僕らを恨みに思っている人間は国内外にたくさんいるからね。

  さすがに王子を政敵というだけで黒幕に断定はできないよ。実際これがすべて王子の仕業じゃなかったとしてもあり得る話だからね」

「やはり暗殺の失敗がデカかったの。あれが成功していれば言うことなしじゃったのだが……」


  彼ら三大貴族が送り込んだ選りすぐりの暗殺者たち。各々自分の持つ強大な財力に任せてたくさんの刺客を雇い襲わせたのだが、それらはすべて阻止されてしまった。


「そういえば、僕たちへの攻勢がさらに強くなったのもあの失敗の後からだよね。表でも裏でも暗殺者のことを咎められはしなかったけど、たぶん向こうも僕たちの仕業だと気づいたんだろうね」

「だろうな。問題はそれが我々のように状況証拠によるものなのか、それともしっかりとした証拠をつかんでのことなのかだ。

  暗殺者たちの中に生きて帰ってきた者はおらんかったようだが、仮に拷問などで情報を吐かせたとしても、たかが一暗殺者の証言を鵜呑みにもできまい」

「そうじゃのう。それにその証言だけでは証拠がないうえに、そもそもその組織本体にすら儂らの名前は出しておらんはずじゃ。その者がいくら拷問されようが、絶対に儂らにはたどり着かん」


  彼らは様々な方法を駆使して自分たちの存在がばれぬよう暗殺者を手配した。それが自分たちの仕業だという確信が向こうにあるかどうかは彼らにとって大事なことだ。


  形に残るような証拠は一切残してはいない彼らであるが、もしそれが確信できるような情報を向こうが握っていたのだとすれば、それはすなわち第五王子側の情報網が非常に優れていることの証明、もしくは自分たちのところ、それも今回のような重要機密を知っている極わずかな側近に彼らのスパイが潜り込んでいることになってしまう。


  敵の力を図るためにも、自分たちのことが知られているかどうか位は知っておきたい内容であった。


「だが奴が知っているかどうかにかかわらず、事実として我々への攻勢は強まってきておる。このことへの対応は無視できまい」

「スパイはどうしているんだい?成功しているかどうかはともかく、どうせ君のところも送り込もうとはしているんだろう?」


  質問された二人は苦い顔をする。


「中枢までは食い込めておらん、とだけ言っておこう」

「ちなみに儂のところもそうじゃ。向こうの重要な情報は全然回ってこん」

「なんだやっぱりそうか。だとすると諜報活動は負けか引き分けだね」

「つまりお主も儂らと同じということじゃな」

「そうなるね。やっぱり中枢はガードがものすごく硬いみたいだよ」

「もう少しほかの王族にも気を配るべきであったか……」


  彼ら三大貴族は、様々な手段でたくさんの貴族や王族にスパイを送っている。当然三大貴族同士でも相手に見つからないようお互いにスパイを送りあっており、誰がスパイかを完全に特定できているかはその家にもよるが、それでも自分かその派閥の家に他の三大貴族や王族、そしてその派閥からスパイが送られてきていることは確信している。


  しかしそんな彼らであるが三大貴族に担がれていない王族は王位継承に絡めず、また独自に貴族家を立ち上げようと思っても色々障害があるため、基本的にはほとんど無視していた。

  まれに今回のように眼中になかった王族が仕掛けてくることもあるのだが、所詮は次期国王候補でもない王族のすること。力も強力な後ろ盾も持たない相手だ、彼ら三大貴族なら動き出してすぐ潰すことも可能であった。


  しかし今回はそれまでとは次元が違う。これまで王位継承にまるで絡めなかったはずの王子が急激に力をつけ、今では多くの貴族を味方につけて戦いを仕掛けてきている。しかも彼が使っている力は非常に強力で、それに加え保有する力の全貌はまだ知られていないほど隠されてもいる。


  これまで全然接触も調査もしてこなかった王族がいきなり、しかもものすごい速度で突出してきたため、その後から彼らがスパイを送り込もうとしてもなかなか難しいものがある。

  もちろん彼の仲間になった貴族家には何人かスパイを送り込めてはいるのだが、スパイを警戒しているのか王子は派閥の貴族たちにもあまり重要な情報は流さない。


  よって第五王子の陣営の重要機密を得るには第五王子本人か彼の超側近、もしくはいまだ姿を見せない彼の後ろ盾になっているであろう人物及び組織に近づかなければならず、彼らがそれをさせようとした者たちはことごとく失敗していた。


「過ぎたことを後悔していても仕方ない。今はこれからどうするか考えるべきじゃろう」

「それもそうだ。とりあえずは君が第三王子とともに独立したルクセンブルクを叩きのめし、その武威と功績を持って自分と王子の名を広める。

  またルクセンブルク家とそれに付いた貴族家から領地を奪い東にどこか拠点を持つことで、今までよりも東への影響力を格段に強める。そして僕とパロム侯爵には金銭による見返りや、貸し一つとして他の議題では助けてくれるということでいいんだよね?」

「それでいい。さすがに俺ばかりが利を得ると、お前とその取り巻きがうるさそうだからな。ちゃんと利益は渡すさ」

「それじゃあ頼むよ。第五王子に対してはもう暗殺などの汚い手段は使えないんだ。そうなると、貴族として着実に彼の権力や名誉を削る必要が出てくるからね」


  暗殺が全く通用しなかった以上、これ以上は金の無駄遣いだということで新しく雇わないという方針になっていた。


「わかっている。お前たちもせいぜい寝首をかかれない様に気をつけろよ。それと、当たり前だが他国の間者などにも気を付けておけよ」

「当然さ。僕らだって馬鹿じゃない。三大貴族なんだから敵はたくさんいるものだろう?」

「じゃな。儂を恨んどる者なんて、それこそ星の数ほどいそうじゃ」

「「俺(僕)も同じだ」」


  三人は毎度恒例になりつつある当主としての苦労話(もちろん自分たちの機密につながるような話はしないように気を付けている)をしながら、最後にもう一度ロンバルキア辺境伯に応援の言葉をかけて去っていった。


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