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ルクセンブルクの独立 1

  ここはブルムンド王国王城にある玉座の間、そこには現在国中からたくさんの貴族たちが集まってきており、それがそのまま今回の事態の大きさを表していた。


「すでに知っておる者もおるだろうが、我が国の東端に位置するルクセンブルク伯爵家が正式にブルムンド王国から抜けることを宣言した。

  つまりあそこは我々王国の支配から離れ、自分たちの力で独立すると言っておることになる」


  国王がそう言うと、その場にいた貴族たちから小さくないどよめきが聞こえる。この場でその事実を知った者たちはもちろん、あらかじめその情報を得ていた者たちも驚きを口にする。

  あらかじめ知っていたとはいえ心の底では完全に信じきれていなかった者たちも多く、彼らは動揺を隠しきれていなかった。


「静まれぃ!!」


  国王が貴族たちを叱責する。


「確かにこのような事態は歴史的にみると非常に珍しいことではあるが、それでも歴史的に見て似たような事態がゼロと言うこともあるまい。

  問題はルクセンブルクが独立するという事態を受けて、それを聞いた我々がどう対処するかだ!今一番大事なのはそこであろう!!」

「陛下のおっしゃる通りだ。驚くのもわからんではないが、もうそれは十分であろう。これからはルクセンブルクをどうするかに集中してもらいたい」


  国王と宰相の言葉を聞いた者たちは一様に黙り、これからのことを考えて思考を巡らせる。そして誰が最初に発言するか各貴族たちがお互いの様子を見合っている中、一人の若い貴族が思いっきり挙手をして意見を述べる。


「当然ルクセンブルクは攻め滅ぼすべきであります!陛下に仕えるべき王国貴族でありながら独立を宣言するなどという不届きな行為を見過ごすわけにはございません!何としても攻め滅ぼし、その後ルクセンブルク家当主及びその親類を投獄、そして死刑にすべきでしょう!!」


  若い貴族を中心にその意見は受け入れられていく。血気盛んな若者たちは強硬論に傾く者が多かったからだ。


「その意見はよくわかるな。ではそなたはどう考えておる?」


  王は先ほど発言した貴族とは反対に、この中で最年長であり自分の義父にもなるパロム侯爵に話を振る。


「儂も大まかなところはそこの若造と同じでございます」

「ほう。ではどこが違うところなのだ?」

「違うのは攻め滅ぼすところです。ルクセンブルク家が独立を表明したとはいえ、儂はあそこをまだブルムンド王国領だと自負しております。

  また民もルクセンブルクが王国から離れるとなるとどういう行動をとるか……。それらを考えれば何としてもルクセンブルクを滅ぼしてやると考えるより、あそこの伯爵家、いや元伯爵家を潰すだけでいいのではと考えます」

「その意見もよくわかるな。ルクセンブルク家を潰せば、結局あそこはまた我らの領土になるのだ。攻め滅ぼしてしまってはその後の復興を考えると厳しいものがあるな」

「はっ!とは言えルクセンブルク家は絶対に許してはなりません」

「それは当然だ。その一点に関しては皆同じ考えであろう」


  王が周りを見渡すと、当然皆首を縦に振っている。


「どちらの意見も正しいと言わざるを得んな。つまり争点は今すぐ兵をあげるて攻めるか、スパイを送り込んだりして情報を集めながら少し様子見をするかのどちらかと言うことだ。

  しかしどちらを選択したとしても独立を宣言された以上、我が国の威光を示すためにも最終的にはルクセンブルクの地を取り返さねばならない。そこだけは皆頭に入れておいてもらいたい」


  貴族たちが頷くのを確認した後、王はさらに言葉を続ける。


「まず聞きたいのだが、もし今すぐ兵をあげてルクセンブルクを攻めるとなった時に、その兵を用立てることができるものは挙手をせよ。

  兵を用意するにはそれなりの準備がいる。もし仮に今すぐ攻めると決まったところで、肝心の兵力がなくては元も子もないからな」


  するといくつかの貴族たちがちらほらと手を上げ始める。全員でないのはこのところ公国との戦争が続いたりした影響で自分の領土に余裕がない、もしくは国の東端に位置するルクセンブルクまでは遠すぎるため手を上げなかった者たちだ。


  王も全員が手を挙げるとは思っていなかったためそのことについては何ら驚かなかったのだが、手を挙げた者たちの中には王が無視できない人物が混ざっていた。


「お主らが兵を出せるのはある種当然だが、仮に戦争になったとして、本当に今すぐ兵を出す気はあるのか?」


  王が問うたのは居並ぶ貴族たちの中でも、周りから一目置かれている三大貴族たちだ。彼らの力から考えると当然全員が手を挙げるべきなのだが、逆に三大貴族程となると余裕はあるが政治的な理由から行きたくないと手を上げなかったりする。

  実際二度目の公国との戦の時に彼らは兵を出せるにもかからわず派兵を断っており、そうやって第五王子を不利にしようとしていた。


  その彼らが手を挙げているということはもし戦になったら絶対に兵を挙げると言う気持ちの表れであり、つまりは言外にもし戦になるなら自分たちに任せてほしいという意思の表れでもあった。


「当然でございます。ルクセンブルク家は愚かにも我ら王国から独立しようとしているのです。我らも元々は同じ国の貴族として、そのような勝手なことは決して許すことができません!!」


  王はロンバルキア辺境伯のその言葉を聞いて自分をないがしろにしていろいろやっているくせにいまさら何をとも思ったが、当然わざわざそんなことは言わないしそれを表情に出すこともない。


「ちなみにそなたはどちら派だ?」

「当然今すぐルクセンブルク家を滅ぼす派です!!パロム侯爵の唱える慎重論も当然理解はできますが、それでも国を裏切った不届き者をいつまでも野放しにしておくことはできません。

  今後同じようなことをする者が出ないように、そして我が国の貴族を誑かす者がいるとすればその者たちへの警告も込めて、ルクセンブルクに向け速やかに進軍すべきだと考えます」

「見せしめか……。それも当然大事だな。たまたまだが、パロム侯爵とロンバルキア辺境伯に意見を聞いたのだ。ペンドラゴン侯爵はどのように思う?」

「僕もロンバルキア辺境伯と同意見ですね。反乱分子はできるだけ早いとこ潰しておくべきです」


  三大貴族間で二対一の状況になった。こうなると大体の場合、三大貴族の賛成が多いほうの意見に決まってしまうことが多かった。


「陛下、一つよろしいですか?」

「なんだ?言ってみろ」


  王が宰相に発言を促す。


「はっ!ルクセンブルク家はともかく、ある意味問題はほかの東にいる貴族家です。彼らは元伯爵の派閥に属している貴族たちでしたが、彼らが今回の独立騒動にどこまで噛んでいるかでその厄介さも変わってきます。

  今回の会議には元伯爵の派閥だったということで呼ばれていませんが、我々が進軍した際に彼らがどういう行動に移るかがいまだ定かではありません」

「確かにそれは問題だ。いくら派閥の長が独立したと言っても、その派閥の者たちが全員それに賛同しているとは思えん。裏切ったものならともかく、王として裏切っていない無実の貴族を断罪するのはあまり好ましいことではない。

  だが、かと言ってルクセンブルク家に追従する貴族が現れる可能性が少なくないこともまた事実であろう。それらについてはもっとよく知っておくべきかもしれんな」


  東にいるルクセンブルク家の派閥にいた貴族たちは全員沈黙を保っている。と言うより、仮に彼らが自分は無関係だと主張したところで、肝心の王国側がそれを完全に信じ切れるかどうかという問題があった。


「いっそのこと、ルクセンブルク家以外の貴族を王都に呼んだほうがいいな。彼らには我々がルクセンブルク家を討伐するまでの間、王宮でおとなしくしてもらえばいいだろう。そうすればいかにルクセンブルク家と通じていたところで、王都にいる以上我々の邪魔はできんはずだ」

「それはよろしいかと。ではルクセンブルク家には、対象となる各貴族家の当主が王都に来たことを確認した後に進軍すると言うことで?」

「そうしよう。お主らもそれで構わないな?」


  王が貴族たちに問うたところ、その決定に異議を挟むような貴族は現れなかった。


「では最後にその討伐軍をどのように組織するかだ。余ももういい年だ。だから今回の件は、余以外の王族の誰かに任せてみたいと考えておる」


  王がそう発言した瞬間、貴族たちはいっせいに色めき立つ。これほどの大事を任されると言うことは、混戦になりつつある王位継承レースでリードすることにつながるのは誰の目にも明らかである。


  しかも今回の戦は公国とは違い王国の一伯爵に過ぎなかったルクセンブルク家の討伐だ。謀反人の討伐と言うわかりやすい上に大事な功績は王位継承レースにいる王子たち、とりわけ第五王子以外のまだ戦争での功績を手にできていない者たちには喉から手が出るほど欲しいものであった。


「父上!反乱の討伐と言う軍事的なものであれば、ぜひとも私に任せていただきたい。私はこれでも、王族の中で一番剣に優れている自信がございます」


  第三王子であるバルドがその大きく引き締まった胸板を叩き自分をアピールする。彼にとって王族で一番の力を誇るにもかかわらず、部下のおかげで得られただけの武勇しか持っていない第五王子の方が軍事的に名声が高いことは非常に屈辱的であり、それを挽回する機会を常に狙っていたのだった。


「陛下!バルド王子がご出陣なされるのならば、当然私も全力で支援いたしますぞ!!」


  こうなると当然それを応援するロンバルキア辺境伯もそれに続こうとする。二人とも武闘派の王族と武闘派の貴族なだけあって、他の貴族たちから見てその姿は頼もしく感じられた。


「そなたたちのやる気はよくわかった。ではほかの王族で我こそはと言う者はおらんか?」


  王がそういうと、貴族たちの視線は一人の王子に集まる。その王子はペンドラゴン侯爵に擁立されている第一王子でもなければ、パロム侯爵に擁立されている第六王子でもない。


  貴族たちの視線を集めているのは公国との二度目の戦争で内外に武勇を示した第五王子であり、一部の貴族からは期待するような眼が、大部分の貴族からは恨むような眼で見られていた。


「……」


  周囲の注目を受けている第五王子は、その注目とは裏腹に何も言わずただ王のほうを見ている。その顔はどこか余裕そうであり、それがまた敵対貴族たちに焦りと怒りを生んでいた。


  さすがに貴族たちの注目を無視できなかったのだろう。何も言わない第五王子に変わって王が直接彼に尋ねた。


「それでは皆の注目が集まっているお主に聞いてみようかの。お主は今回の総大将に立候補するか?」

「陛下、私にその意思はございません。他の王族が行きたいと言うのならば、ぜひその者たちに任せたいと思います」


  第五王子のその発言を聞いて、バルドは安心した表情をする。だがそれとは対照的にロンバルキア辺境伯をはじめとする三大貴族の当主たちは、第五王子の真意を見抜こうとさらに鋭いまなざしを彼に向けた。


「ほう。それは公国との戦で名を挙げた王子とは思えん発言だな」

「あの時は誰もいなかったのでしょうがなくでございます。本当は他の王子や三大貴族の方々に任せたかったのですが、どういうわけか皆閉じこもって出てこなかったので」


  その発言を聞いて、三大貴族とほかの王子たちはその表情に一瞬怒りを浮かべる。その皮肉には怒りを覚えた彼らだったが、ここが玉座の間であること、そしてこの件で言い返しても結局勝つことはできないと言う計算が働き、何とか怒りを押し殺して極力平然な顔をしようとした。


「では今回はバルドたちが出るから自分は出ないと言うことか?」

「そういうことです」


  二人のやり取りを聞いていたバルドとロンバルキア辺境伯は、絶対に見返してやると誓い第五王子を睨みつけた。


「他に参加したい貴族や王族はおらぬか?確かに最初に発言したのはバルドだが、それ以外の王族が手を上げてもよいのだぞ?」


  王がそう言うが、バルド以外の王子たちは誰も手を上げない。そして貴族たちもロンバルキア辺境伯の派閥の者のみが手を上げ始め、他の三大貴族やその派閥の者たちが参加を表明することはなかった。



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