動き出すものたち 4
お知らせ!来週24日にこれまで(主に夏休み期間を利用して)貯めていた話を一気に公開します。よろしければご覧ください。
ここはとある小さな森の最奥、そこには全長一メートル以上の大きな卵がぽつんと置いてあり、その傍にはいかなる魔物も動物も存在していなかった。
その卵がその地に現れてから五年、普通の卵としては明らかに孵るのが遅い大きな卵であるが、その卵が存在している場所には不思議なことに五年間一度も外敵と呼べる存在が現れたことがなく、食べられたり持ち帰られたりする危険が全くない状態で五年間そこに居続けた。
そして今、五年もの間卵の中で成長を続けていた存在が、ついにその殻を破り外に出ようとしていた。
『バリ……、バリリリ!バリバリバリ!!』
「グルァ~」
卵から出てきたのは見るからに大きなトカゲであり、見た目だけだとそれ以上でもそれ以下の存在でもなかった。
「グルゥ」
そのトカゲはまだ生まれたばかりであったがゆえにおぼつかない足取りであったが、それでも何かにひかれるようにその場から移動していき、自分が卵の状態で五年間過ごしてきた場所から離れていった。
「グルァ?」
トカゲは外に出て初めて自分以外の生物を目撃する。
トカゲが見たのはただの動物のイノシシである。この森に生息しているのは動物か弱いモンスターくらいであり、低ランク冒険者や狩人が来ては獲物を狩っていく森であった。
「グルルゥ……」
生まれたばかりのトカゲは大層腹を減らしていた。そして目の前においしそうな肉があることを確認し、トカゲはよだれを垂らしながらそのイノシシを見ていた。
「ブモゥ!」
イノシシはイノシシで目の前のトカゲが自分を食べようとしているのが野生の勘で何となく感じ取ることができ、そのトカゲを倒すべく思いっきり突進した。
「グルァ!!」
「ブモッ!?」
イノシシはここでトカゲがとった行動に驚きをあらわにする。イノシシからするとトカゲは自分の突進によって吹っ飛ばされるか、もしくは突進を躱してくるかのどちらかだと思っていた。
しかしトカゲがとった行動はそのどちらでもない。トカゲはいきなり二本の後ろ足で立ったかと思うと、なんとそのまま正面からイノシシの突進を受け止めたのであった。
「グルァー!!」
トカゲはそのままイノシシの体にかみつき、その生まれた時から生えていた強靭な牙でイノシシの肉を噛みちぎる。
その牙やあごの力、そしてもちろんイノシシの突進を正面から受け止める体の強さは、本当にさっき生まれたばかりなのかと目を疑うほど強力なものであり、抑え込まれ自分の肉を食われていくイノシシは恐怖と苦痛で泣き叫んでいた。
「グフゥ」
自分よりも体の大きなイノシシを食べたことで、先ほどまで強かったトカゲの空腹は和らぐ。しかしトカゲ自身まだ完全におなか一杯にはなっていないようで、他に獲物がいないか周囲を見渡す。
「キュ?」
トカゲが見つけたのは普通サイズのありふれたウサギだ。トカゲはその大きさを見てシメにちょうどいいとみて狙いを定める。
「キュー!!」
トカゲの視線を受けて身の危険を感じたウサギは、先ほど突進してきたイノシシとは違い一目散にと上げから逃げていく。
そしてその後ろ姿を見たトカゲは、何とか仕留められないかと思い大声で鳴く。
「グルァー!!」
「キュッ!」
すると不思議なことにトカゲの口から魔力の塊のようなものが出て、それが当たったウサギが動きを止める。
「グルゥ」
ウサギが動きを止めたのを見たトカゲは満足そうにウサギに近づき、その肉を思いっきり貪り食った。
「グルゥー」
おなか一杯になったことですっかり眠たくなったトカゲは、近くにあった寝やすそうな場所を見つけそこで睡眠をとる。
たった今生まれたとは思えないほどの力を発揮したトカゲ、そのトカゲはいずれこの森の覇者になり、そしてその力を世界に示していくこととなる。
ただしレベルの低い生き物の多いその森の覇者にはすぐになれこそすれ、世界中にその力を知らしめるのはまだ随分と先になるだろう。
今はまだそのトカゲも生まれたばかりであるのだから……。
念のため後書きにも。
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