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動き出すものたち 2

「申し訳ありませんでした陛下。『魔道王』という大層な二つ名までもらっている儂がついておりながら、獅子王国を完全に第九王子に治めさせることはできませんでした」


  帝国が誇る玉座の間で跪いて許しを請いているのは、かの国が誇る最強の魔法使いだ。彼は獅子王国で任務を遂行しきれなかったことを、玉座に座っている若き皇帝に報告していた。


「顔を上げろ。お前たちが任務を遂行しきれなかったのは隕石のせいだ。それがなければ、今頃第九王子の支配体制はもっと盤石であったはずだ。

  仮定の話をしても意味はないが、それでも隕石さえ降ってこなければ任務を遂行できたいたはずだ。そうだろう?」

「当然でございます。言い訳になりますが、それでもあれさえなければ間違いなくうまくいっていたはずですじゃ」


  今回の敗因が急に隕石が降っていたせいだということは、皇帝だけでなく貴族たちも皆承知していた。


「問題はその隕石がなぜ降ってきたかだ。人為的なものなのかあくまでただの天災か……、現場におった者としてその辺はどう考えているのだ」

「儂は人為的なものだと考えまする。さすがにあれだけピンポイントにタイミングよくあの数の隕石が降ってくることが偶然起きたとは、普通に考えるとおかしいことですじゃ。

  強力なスキルや魔法により、任意的にあの場所に隕石を降らせた者がいると考えるほうが自然だと考えております」

「巷には『事実は小説よりも奇なり』という言葉もあるが?」

「だとすれば……、我々にはよっぽど運がなかったのでしょうな」


  老人は諦めるようにそう言い放つ。


「まあそれが人為的であれ自然災害であれ結果は変わらん。ただし、この国で最も魔法に優れた者の意見だ。人為的なものだったかどうか調べさせ、もし人為的なものでありその犯人が見つかった場合、その時はその者と交渉することにしよう。

  どういう方法を使っていたとしても、曲がりなりにもあれだけのことを成し遂げた者だ。それが魔法やスキルによるものならば帝国のナンバーズの一員として、そうではなくマジックアイテムによるものなら研究機関の一員として雇い入れようではないか」


  皇帝の意見に反対する者はいない。そもそも絶対的権力を持つ彼に逆らえるものなど極わずかであるし、それに皇帝の意見は戦力増強と言う面からみて明らかに正論だったからだ。


「貴族位に関しては伯爵、いや侯爵までにしよう。もし隕石を降らせる魔法を何度でも使えるほど強いのだとしたら、その時はどれだけの対価を払ってでも引き入れるべきだからな」

「さすがにあの規模の魔法を日に何度も使えるほど、その者の魔力量や魔法技術に優れているとは考えにくいですが……、とは言え万が一と言うこともあります。その時はそうすべきかもしれません」


  貴族たちは自分たちにとって最高位である侯爵がぽっと出に与えられるかもしれないと焦りを覚えたが、それでも皇帝とナンバーズの二番手である『魔道王』が決めたことだ。それに異を唱えることはできなかった。


「話を戻そう。お前と第一軍に起こった不幸、もしくは行われた攻撃は理解したが、それでもお前以外にもまだ三人のナンバーズを派遣していたはずだ。それらはどうだったのだ?」

「暗殺は一部成功しました。一番重要な獅子王国の王は殺すことができましたが、その次に重要な第十八王子、つまり正式な獅子王国の跡継ぎは殺せませんでした」


  皇帝は一瞬考える素振りを見せる。


「王は確実に殺せたのだな?」

「間違いありません。敵の王は毒付きの攻撃を受けて苦しんでいました。向こうの毒耐性が強かったのか単純に生命力が強かったのか儂が城についたころもまだ生きてはおりましたが、その場でとどめを刺したため確実に殺せたといえます」

「つまり暗殺部隊は与えられたうち半分の仕事はしたということだ。だがあの場にはもう二人いたはずだ。それらはどうしていたのだ?」

「竜騎士の方のひよっこは破壊活動をしていたと言えます。強い敵と戦ったりといった特別大きなことはしておりませんが、反対に何か失敗したということもありませんじゃ」

「そこも報告通りか。そうなると、『呪装剣士』の奴が負けたのもまた事実か?」

「その通りですじゃ」


  老人が質問に対し肯定したことにより、玉座の間からはどよめきが起こる。帝国最強であるナンバーズは、それだけその武力が信頼されている集団であった。


「確か相手は第四王子だったか?余も情報だけは聞いて居るが、その情報では『呪装剣士』の奴と互角くらいではなかったか?

  聞いた話ではパーティー同士の戦いになり、敵の二倍となる四対二で戦っていたはずだ。なぜそれで負けるのだ?」

「第四王子はその実力を隠していたようですじゃ。しかもその仲間もなかなかの実力で、『呪装剣士』以外一対一ではまるで敵わない実力だったようです。

  しかも彼の本当の実力はあやつを凌駕するほどの実力、あやつからの報告では、さらに上位の力を隠している可能性すらあるそうですじゃ」

「さらに上位の力か……。そうなると……、お前たち上位四人にも匹敵するのか?」


  玉座の間がまたざわめく。ナンバーズの中でもさらに上位四人は帝国にとってまさに最終兵器ともいえる存在であり、彼らが本気を出せば一人で都市の一つや二つは滅ぼすことができるとまで言われている。実際その力は、一人で帝国騎士団全軍に匹敵するとまで言われているのだ。


  自分たちが保有できているならばいいが敵にそんな力が、それも帝国を恨んでいる可能性が高い第四王子がそんな力を持っているとなれば……、帝国の各領を預かる貴族としては非常に不安になる内容であった。


「まだそれほどの怪物がいたか。欲しい……欲しいなぁ」


  皇帝の顔が恍惚な笑みを浮かべる。彼のことをよく知る重臣たちは、その顔を見てまた悪い癖が出たとため息をついた。


「それでその怪物は今どこにおる。一刻も早くコンタクトを取り、ぜひ我ら帝国の一員としようではないか!」

「よろしいですか陛下。第四王子は危険だと判断しその行方は我々も必死に追っておりますが、いまだその行方はつかめておりません。

  どうやら第九王子はもちろん第十八王子の反乱軍、いや正規軍といったほうがいいかもしれませんが、そこにも参加しておりません。下手すると、すでに冒険者として国外に出て本格的に活動しているのかもしれません」


  皇帝の質問に答えたのはここでも黒装束を脱がないことが許されている、ナンバーズで七番をもらっている暗殺者だ。彼は第四王子の行方を捜すべく、独自に部下を動員して国内外に動き出していた。


「どちらにも属さないか。ならばなおさら我が帝国に入ってくれる可能性は高まるのではないか!?」

「それはわかりません。ただし先ほどの報告にもあった通り、確かにあの男の力は上位四人匹敵する可能性はあります。私も直接見たのですが、少なくとも五番よりは強いと思われます」

「では見つけ次第我が軍門に下るよう声をかけよ」

「かしこまりました。しかしよろしいのですか?第四王子を帝国の一員にしては、現在国を乗っ取っている第九王子が困りませぬか?」


  皇帝は迷いなく答える。


「あんな小物どうでもよかろう。もし文句を言ってくるようなら、お前の首を挿げ替えてやるとでも言ってやればよい。元々親兄弟、それに国民までも殺して強引に王位についているのだ。

  それがすべて奴の実力によるものなら恐怖による支配も可能かもしれんが、奴のなしたことは我ら帝国の力があってこそだということはすでに周辺国家にも知られておる。ならばあんな小物の首を挿げ替えたところで統治にはさほど影響はないだろうし、帝国に敵対してまで奴についてくる部下や国民もほぼ皆無だろうからな」


  皇帝としては第九王子はただの都合のいい操り人形でしかなく、都合が悪くなればいつでも首を挿げ替える気であった。

  それは彼の部下たちも皆同じ考えのようで、皇帝の判断に異を唱えようとする者は誰もいなかった。


「まあいい。それより問題は第一軍の再編成についてだ。聞けば第一軍はほぼ壊滅状態であり、将軍をはじめとした幹部たちも軒並み死んでしまったということでいいな」

「それについてはわたくしが預かっておりまする」


  そう言って一人の貴族が前に歩み出た。


「第一軍はすでにほぼ壊滅状態であり、第一軍を母体に新たに軍を編成しなおすことは不可能な状態です。よって手段としては各騎士団から有能な者を中心に少しずつ集め第一軍を新たに作り直すか、もしくは第一軍そのものをなくし、生き残った第一軍の騎士たちはそれぞれの軍に配属させるしかありません」

「つまり軍団の数はそのままだがその代わりにそれぞれの軍団が弱体化するか、逆にそれぞれの軍団自体は弱体化しないまでも軍団自体の数が一つ減るかということだな」

「おっしゃる通りでございます」

「仮に軍団の数を維持するなら、その軍団を統率するにふさわしい人物を新たに選定せねばならん。もちろん最終的に判断するのは余だが、こういうのは現場の意見も大事だろう。

  各騎士団の将軍たちに聞く!ほぼ壊滅状態の第一軍を立て直すことができるような、優秀な将軍候補はお前たちの軍団にいるか!?」


  会議が始まる前に皇帝から第一軍の将軍候補がいたら会議で名前を上げろと言われていた将軍たちは、各々用意していた答え(第二軍の将軍は自分のところの副官を、第三軍の将軍は自軍には候補者なしと言い、第四軍の将軍は自分のところの小隊長の一人)を皇帝に伝えた。


「第二軍第三軍の答えは十分に理解できるが、お前の答えは興味深い。ただの小隊長を押すということは、その者はよっぽど将来性豊かなのか?」

「はい。まだまだ礼儀もなっちゃいないクソガキですが、それでもその実力と将来性だけは確かなものです。若いですがすでに戦闘力はある程度兼ね備えており、それに加え最近では統率力もついてきた有望株です」


  皇帝はそれを聞き楽しそうな顔をする。


「まったく他人を褒めないお前が、珍しくべた褒めではないか」

「それだけ実力と将来性はあるんですよ。とは言え礼儀をはじめとしまだまだ将軍になるには足りないものが多すぎるので、もう少し育てて地位も上げてから推薦しようと考えていたのですが……」

「よしわかった。それならば一度私の目で二人を見極めるとしよう。もしどちらかが第一軍を再建させるに値すると思えたのなら、その者に第一軍将軍を任せる。

  もしどちらも第一軍を任せるに値しないと判断したならば、とりあえず第一軍は一度なくし、第二軍からだときりが悪いので、それぞれの軍団の数字を一つ上げることとする」

「「「かしこまりました」」」


  皇帝が三人の将軍を下がらせる。


「今言ったように現在帝国の軍事力は落ちている。だから獅子王国にいる第九王子への支援はこれまで通り最小限に抑え、あくまで帝国の力が回復するまでは大規模な援助は行わん。向こうにはとにかく敵にやられないようにだけしておけと伝えろ。

  そして我が帝国は一度落ちた戦力を回復するためしばらくは地盤固めに動くが、それでも諜報をはじめ戦争以外にもできることはある。

  戦力が戻ったと判断すればまた大きく動く!もちろんその時には騎士団だけでなく、そのほかの部隊やナンバーズも積極的に使っていく。今は雌伏の時であるが、準備ができ次第動けるように準備は欠かさず行っておくのだ!!またこちらが動かずとも、敵の方から攻めてくることは十分にありうる。そのための準備も欠かすでないぞ!!」

「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」


  帝国もまた、将来的な領土拡大に向けて大きく動き出そうとしていた。


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