聖騎士 8
「ここは一体……?」
一つの部屋で眠っていた二人の男女。そのうち男のほうが一足先に目を覚まし、見慣れない部屋を見て自分が今どういう状態なのか不安を抱く。
「ようやく起きたか」
そう言って二人のいる部屋に入ってきた人物、その人物は男が一度だけだが見たことのある人物であった。
「貴様は!!」
「そう慌てなくてくれ。お前たちには多少強引にでも捕虜になってもらうことになったんだ。それにある意味、君たちの願いはかなえられているだろう?」
「なんだと?」
「隣にいる女性をよく見てみろ。その女性を見ればおまえにもよくわかるはずだ」
男が自分の隣で眠っている女性の顔を見る。その女性は入ってきた人物の言う通り自分がよく見知った顔であった。
「なぜ俺たちを捕虜になどした。言っておくが、俺たちを拘束したところで教会は動かんぞ」
「それはそれで構わないさ。お前たちを捕虜にした理由は教会と交渉するためではない。あくまでお前たちの持つ情報がほしかっただけだ」
「情報がほしいか……。だがいくら拷問や魔法の手段があったとしても、そう簡単に俺たちから情報をとれるとは思わないことだ。これでも二人とも聖騎士団でこういった時の訓練は受けてきている」
そう。ここにいる男女二名とはガドの大森林に侵入してきた聖騎士団の団長とその秘書であり、その部屋に入ってきた人物とはエラムであった。
二人はエラムたち相手に決死の覚悟で挑んだはいいが結局数の差が大きくやられてしまい、気を失った後そのまま捕虜にされたのだった。
「だとしてもやはり情報は必要だ。リーン教の活動範囲はガドの大森林から遠いところにある。つまり、この周辺以外の情報を得られるいい機会になるわけだ。
われらの長とでもいうべき方が遠方の情報、そして何よりリーン教の情報を欲しておられる。だからお前たちにはなんとしても話してもらうぞ」
「そう簡単に話すと思うか?」
「話すさ。だからこそ二人残した。それにこちらが手に入れた捕虜が本当にお前たちだけだと思うか?確かに団長とその秘書となれば持っている情報量がほかの聖騎士とは段違いだと思うが、それでも他の聖騎士たちだってある程度情報は持っている。確かに死体は消えてしまったが、生きて捕まえることに成功した奴はほかにも数人いる。
どうせそこから情報はある程度得ているんだ。お前たちが話さなかったとしても、どうせ情報は漏れているぞ」
団長は信じられないという顔をする。聖騎士は神に信仰を誓う者たちだ。いくら拷問されたとしても、そう簡単に情報を吐くようには思えなかった。
「……彼らがしゃべったのか。一体どういう方法を使ったのだ!?」
「俺もよくは知らない。なんでも上のほうには魔法などを使い、生きたままでも様々な手段で敵から情報を抜き取るすべがあるらしい」
「上……だと?」
「ああ。俺が組織の頂点というわけではないからな。とは言え俺がお前に言えるのはここまでだ。これ以上は話してはいけないことになっているからな。
森でも似たようなセリフを吐いた記憶があるが、選択肢が変わったからもう一度言おう。お前たちが選べる選択肢は二つ、このまま素直に自分の知っている情報を吐くか、もしくは魔法や拷問によって無理やり情報を抜き取られるかだ」
「俺たちの武器装備はどうした?」
「捕虜の武器装備をそのままにしとくほどこちらはバカではない。ちゃんと別の場所に保管してあるさ。もっとも、それがお前たちに返却されるとは思わないことだ」
「……まあそれも当然か。ちなみに俺たちがどちらかの選択肢を選んだ場合、その後の待遇はどうなる?」
エラムはその質問に少し考え込んでから、質問に関する答えを告げる。
「まず一つ言えることは、どっちを選んだとしてもお前たちがリーン教に戻ることはない。もし仮に戻ることができるのだとすれば、その時は何らかの手段でガドの大森林での記憶を消すなどしない限りありえないな」
「まあそれは当然だろう。それくらいは理解できる」
「しかし問題は記憶を消したところで、それでお前たちに何の問題がないかといえば否となる。記憶を消したところでリーン教の聖騎士団団長であった事実は変わらないのだから、当然リーン教に捕まるだろうし、ここであったことも聞かれるだろう。
もしリーン教に消したはずの記憶を取り戻させる方法なんかがあったら問題だし、仮に記憶が戻らなかったとしても、リーン教にいればまたこちらに牙をむくかもしれない」
エラムの懸念に対し、団長は頷き理解を示す。
「記憶が消された後のことは何とも言えんが、まあそうなる可能性は高いだろうな」
「そうだ。仮に容姿を変えたり、リーン教とは全く関係ない国に置いたとしても、何らかの拍子で見つかってしまえばそれまで。
つまりどのような処置をしたとしても、お前たちをこのまま返すのは愚策ということだ」
「だったらどちらにせよ死ぬということだ。ならば私たちは苦しむ前に自殺でもしたほうがましだ」
そう言って彼は自分と秘書の首を絞めようとする。
「ちょっと待った!お前たちにはまだ選択肢がある。そもそも考えてみろ。なぜこちらがお前たちを完全に拘束していないのか。しようと思えば、お前たちが気絶している間にいくらでも準備はできたはずだ」
「それもそうか……。確かに待遇だけでいうといい待遇とは言えないが、敵対した私たちの関係を考えれば十分すぎるほどの待遇ではあるな」
疑念を抱いた団長は自殺する手を止める。
「上にも何やら考えがあるようなのだ。だからお前たちには一緒に来てもらうぞ」
「ここのトップとやらに会えるのか?」
「それはない。常に万が一の状況を考えておられるあの方が、お前たちのようなまだ不確定要素が残る者たちの来る場所に顔を出すことはない。会うのはそうだな……お前たちでいう司祭のような立場にある者たちと思ってくれていい」
「国でいう地方貴族のようなものか?」
「まあそれに近いな」
「わかった。会いにいこう」
「じゃあ来い。それとそこで寝たふりをしている女、お前も来るんだ」
「やはりばれましたか」
そう言って彼女は素直に起き、二人の男女はエラムの後に続いて部屋から出た。