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聖騎士 6

「また逃げられたか……」


  聖騎士たちは一度目の襲撃があった後から、何度も何度も奇襲部隊に攻撃されてきた。聖騎士たちも事前に森で活動する訓練を受けてきたとはいえ、相手はこの森で暮らしてきたものたちだ。森で暮らしてきた年期に地理の明るさで劣る彼らは、攻撃しては逃げていく敵を一人も捕まえることはできなかった。


「団長!騎士たちから不満の声が出てきています。このままでは、敵にやられる前に内部崩壊してしまいます!!」

「まあこの状況なら、よっぽど鈍い奴以外は誰だってストレスを感じるだろう。やられた数自体は少ないが、それでも精神的ダメージは馬鹿にならんからな」


  聖騎士たちはその錬度から数自体はほとんど減らしてはいなかったが、度重なる襲撃は彼らの精神面を著しく消耗させた。

 

  奇襲部隊は当然敵である聖騎士たちの事情は考えない。それどころか、むしろ敵の事情を考えてもっとも嫌がるであろう時間帯に仕掛けてくる始末である。


  仕掛ける側と仕掛けられる側、どちらが早く消耗していくかは明白であり、また聖騎士たちは気づいていないが奇襲部隊は交互に休みを取っていくことで休息も取り入れており、両者の間には非常に大きな体力差があった。


「こうなると……一度森から出ることも考えねばならんな。今の状況ではいたずらに兵力を減らしていくだけだ。せめて奴らの棲み処さえわかれば、こちらにもやりようがあるのだがな」

「そうですね。敵の棲み処さえわかれば、こちらから仕掛けることもできます」

「せめて一人だけでも捕虜にできればな……。そうすれば状況も変わるかもしれないのだが……」

「逃げ足が速いですからね。あれらを捕まえるのは至難の業でしょう」

「!?また奴らが来たようだ」

「今度は捕まりますかね?」

「そうなればいいが……。たぶん難しいだろうな。もし今回の襲撃が終わったら、一度真剣に森を出ることを考えよう」


  今回の襲撃もこれまで通りの結末を迎える。そう思っていた団長は、その油断から大きな失敗をしてしまうのであった。









「また襲撃かよ」


  聖騎士たちはいい加減敵の襲撃に辟易している。いくら肉体だけでなく精神的にも鍛えられている聖騎士とは言え、あまり慣れていない環境でこうもストレスがたまるようなことばかりされると、さすがに我慢し続けることが難しくなっていた。


「なあ、もういっそのこと敵を追い回して潰しちまわねえか?こうも嫌なタイミングでばかり襲撃されていたら、さすがにもう限界が来ちまうだろ」

「それは俺たちの限界か?それともお前個人の限界か?」

「どっちもだよ。被害こそ少ないが、この状況が続けばやばいことに何だろうが!」

「だが団長からはそういった命令を受けていないぞ」

「うぐっ!そりゃそうだが……」


  彼らにとって上官である団長の命令は絶対だ。それを破ることがあれば団の規律が乱れるし、なにより後で恐ろしい罰を受けることになることを彼らは重々承知していた。


「わかったら防御に専念しろ。もしどうしても我慢できないというなら、この襲撃が終わった後にでも団長に進言するばいい。それを断るほど、うちの団長は狭量ではないはずだ」

「わかってるよ!だったらとっと向こうの攻撃を防いちまおうぜ!!」

「その意気だ」


  そうして彼らは団長の指示通り敵の攻撃に耐える。だが彼らのようにこのままではじり貧だと思っていた聖騎士は少なくなく、度重なる襲撃とそこからくるストレスによって踏みとどまれなかった者が出てきた。


「なっ!あいつら飛び出しやがった!?」


  規律正しく陣形を保っていた聖騎士たちのうち、数人が飛び出して陣形を乱した。


「さすがに我慢できなくなったようだな。どうやらあそこにもお前みたいな奴らがいたようだ」

「いやそんな場合じゃねえだろう!?どうにかしてあいつらの暴走を止めてやらねえと」

「俺たちが出るまでもなく大丈夫だろう。よく見てみろ、あそこにいる者たちが飛び出した者たちを呼び戻そうとして、すでに動き出している。わざわざ離れたところにいる俺たちが動くまでもない。それどころか、俺たちまで動いて陣形を崩さないほうがよっぽど大事なことだ」

「ならいいが……」


  二人は仲間を呼び戻そうとしている者たちがいたことを見て一応安堵する。


「いや待て、あいつらの様子がおかしくないか?」

「そうか?なにもおかしくはないと思うが。ただ仲間を呼び戻しに行っただけだろう?」

「だがそれにしては戦う気満々じゃないか!?」


  仲間を呼び戻しに行ったと持っていた騎士たちだが、彼らの姿勢は十分懸念に値するような攻撃性を秘めていた。


「仲間を呼び戻すためとはいえ、本隊から離れて自分たちだけ出るのだ。身を守るためにも戦闘態勢に入っていることはさほどおかしくないんじゃないか?」

「だがそれにしても……。しかも数が多すぎやしねえか?たった数人飛び出したのに対して、あれは三十名以上いるぞ」

「確かに多すぎるかもしれんな。念のため声をかけておいたほうが……」


  二人がそんなことを話しているのも束の間、飛び出した数人とそれを連れ戻しに行っていたはずの者たちは、揃って森の中に飛び込んでいった。


「やっぱあいつらも飛び出したのかよ!!」

「まずいぞ!あいつらだけでなく、そのほかの者たちも動き出している」

「待て待て待て。どこかで俺も打って出るべきだとは思っていたが、同僚たちはここまで理性のない者たちばかりだったか?団長の命令は絶対のはずだろ!?俺だってそれくらいはわきまえていたんだが……」


  聖騎士たちは思い思いに打って出て、彼らの構成していた陣形はとっくに崩れ去っていた。そして二人の気づいたころには乱れた陣形の中にに敵が入り込んできており、戦いはすっかり乱戦の模様を描いていた。


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