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聖騎士 5

「団長!どこかから矢による攻撃が来ました。事前に聞いた情報通りならば、おそらくはエルフたちの放った矢によるものだと思われます!!」

「いつかは来るとは思っていた。しかしさすがはエルフだ。我々聖騎士に気づかれずに奇襲をしかけることに成功するとは。個人的に奴隷はあまり信用できないし好きじゃないが、それでも森に慣れたエルフの奴隷を何人か連れてくるべきだったか?」


  リーン教は人族至上主義というわけではないので、エルフ等人族以外の種族も入ることができる。現に教会にはエルフの司祭などもいるのだが、残念ながら聖騎士団にはエルフ、もしくはそれに準ずる森での活動が得意な種族が入団していなかった。


  事前に訓練してきたとはいえ聖騎士が普段森で活動しないこと、そして相手が生まれた時からこの森で暮らしてきた上に森での活動への適性が高いことも相まって、彼らは奇襲に気づくことがまるでできなかった。


「騎士たちにはこちらからは出るなと伝えろ。できるだけ相手を自分たちの方に引きずり込むんだ」

「打って出ないのですか?」

「相手はこちらが察知できないほどの隠密性を持ち、また我々よりこの森に精通している。やみくもに追っても損害を大きくするだけだ。馬鹿が動く前に早くそれを伝えろ!!」

「はっ!今すぐに」


  団長の指示を受けた聖騎士たちは敵の遠距離攻撃を防ぐため防御を固めながら、しびれを切らした敵が自分たちのもとに近づいてくるのをじっと耐え忍ぶ。


  いくら不慣れで相手が有利な森の中とは言え、大勢で防御に徹していればそれほどダメージを負うことはない。

  そのため、聖騎士たちの損害は非常に軽微なものとなっていた。


「いったん退くぞ」

「いいのかエラム?」

「ああ。敵があれだけ防御を固めている以上、今の力でどれだけやったところで結果は同じだろう。

  ここは一度退いて様子を見てみよう」

「わかった。隊長殿には従わなくてはな」


  これ以上は無駄だと判断したエルフたちは攻撃の手を止め、一度聖騎士たちから離れていった。









「どうだった?」

「はっ!奇襲自体は成功しましたが、敵は冷静な対処で自分たちの被害を最小限に抑えてきました。今回の一当たりで敵が実力も冷静さも兼ね備えていることはわかりましたが、とは言えここガドの大森林西側は自分たちのホームです。

  こちらに地の利がある上に敵は常にこちらの襲撃を警戒し続けなければなりません。また我々にはこの森に自分たちの棲み処もありますれば、肉体的及び精神的に非常に優位に立てております」

「つまり時間をかければ仕留められる可能性は高いということね」

「その通りでございます」


  エラムの意見にはフレイヤも賛同したようで、頷きながら彼の報告を聞いていた。


「ちなみに……他に何か気づかなかった?」


  フレイヤが神妙な顔でそう聞いてくる。


「他に何かですか?これ以上は思いつきませんが?」

「そう……でも、これは私の見間違いじゃないはずよ!」

「何かお気づきになられたのですか?」

「ええ。ただ万が一見間違いだった時の可能性も考えて、念のためもう一度確認して来るわ」


  そう言ってフレイヤはもう一度聖騎士たちのところに行く。聖騎士たちも先ほどよりは警戒しているが、それでも先ほどのエルフたちよりもさらに優れているフレイヤを発見することはできなかった。


「とりあえず一人ね」


  フレイヤは弓を弾き絞り、一人の聖騎士の頭めがけて矢を放つ。そしてその矢がきれいに頭に刺さった聖騎士は一瞬で絶命した。


「今狙撃されたことで敵は慌てている……。でもそれは当然のことだわ。いきなり仲間がやられれば誰だって多少は動揺するもの。ただ問題はこの後よね」


  フレイヤは聖騎士たちの目から逃れながら、頭に自分の矢が刺さった死体を注意深く見守る。


「やっぱり見間違いじゃなかった!!」


  フレイヤは自分の目に映った光景に再度驚く。今彼女の目に移ったのは、聖騎士の死体が一瞬で消え去ったという光景である。これは先のエルフたちの襲撃を客観的に見ていた彼女だからこそ気づけた光景であった。


「でもあり得ないわ。これまで殺してきた冒険者やモンスターも皆死体はそのままそこに残る。以前私のいた世界なら死体が一瞬で消えるようなことは珍しくなかったけど、この世界ではそんなことは一度も起らなかったはずよ!?

  とりあえず二度目の襲撃は一度取りやめね。この事実をダンジョンに伝えないと」


  フレイヤはダンジョンにいる優斗に連絡を取る。


『どうした?』

「異常事態よ。敵の聖騎士たちが普通じゃないわ」

『異常事態!?一体何が起こった。まさか想定外に強かったのか?」

「いえ、強さはそこまででもないわ。ただ聖騎士たちの死体は消えるのよ」

『死体が消える!?一体どういうことだ?』


  フレイヤは優斗に自分が見たことを余すところなく伝える。


『なんじゃそりゃ?まるでゲームだな』

「ゲーム?」

『ああいや何でもない。しかしそれは確かに異常事態だな。この世界に来てからそんな現象は俺でも見たことがないし、もちろん部下たちからもそのような報告は受けたことがない。

  つまりリーン教の聖騎士、もしかしたら司祭や司教たちもかもしれないが、それらには何らかの秘密があるということか』


  優斗はこの世界に来てから、何十人もの人間を殺してきた。またモンスターも加えれば、彼が殺してきた数は数百にも上る。

  そしてさらに彼の部下たちも当然殺しは行っており、特にガドの大森林でモンスターを狩っている者たち、そしてベリアルを中心とした裏組織として他国で活躍している者たちはもっとたくさん殺してきている。

  それらをすべて考慮するならば、おそらく優斗たちが殺してきた数を合計すると万を優に超える。


  それほどの殺しを行ってきた中で、いまだ起こったことのない現象が起こったのだ。そうなるとやはりその対象が特別であると考えざるを得なかった。


「その可能性は高いわね。それに聖騎士たちは仲間の死体が消えても何ら動揺していなかったわ。つまり彼らにとっては見慣れた光景の可能性が高いわ」


  そう、聖騎士たちは自分たちの同僚の死体が消えていることに、全く関心を示していないのだ。優斗たちもこの世界の情報を手に入れてきているとはいえ、まだまだガドの大森林周辺からしか情報は集まっていない。


  未知の現象が起こっているとなると、さすがにそれを放置することはできなかった。


『しかしどういう手品を使っているんだ?死体を一瞬で消すなんて、普通に考えたら単純に魔法で燃やし尽くしたりテレポートなどで運ぶしかない。

  だがそれくらいのことならフレイヤの目で見ることは可能なはず。そういう手段を使っているそぶりはなかったんだろう?』

「ええ。少なくとも私の目には映らなかったわ。奇襲部隊が敵を殺したときに一度、そして確認のためもう一度敵を殺して様子を見たけど、聖騎士たちが何か細工をしているようには見えなかったわ」

『ちっ!そうなるとDPが入らねえな。だが、かと言って聖騎士どもを生きたままダンジョンに連れてくのは危険が残る。向こうが進行してくる以上、こちらはDPにもアンデッドにもならない敵を殺すしかないわけだ』

「まあ……そうなるわね」

『分かった。どちらにしろ倒すか追い出すしか選択肢はないからな。よっぽど何かない限り方向性は変えずに行ってくれ』

「わかったわ。彼らにもそう伝えておく」


  フレイヤは優斗への連絡を終え、奇襲部隊に最初の予定通り聖騎士たちを殺すよう指示を出す。


「かしこまりました。では当初の予定通り奇襲を行いながら、少しずつ敵の数を削っていきます」

「そうして頂戴」


  こうして奇襲部隊の面々は常に聖騎士たちの動向を監視し続け(聖騎士たちは二千人もの集団のため、森の中にいるといえど簡単に見つけられるから、仮に森に精通している彼らでなかったとしても見失うことは基本的にない)、隙を見ては攻撃を加え、見つかりそうになったら素早く逃げるということを繰り返した。



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