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聖騎士 4

  聖騎士たちがガドの大森林に入ってから、すでに五日が過ぎた。この日も彼らは上役に言われた通りこの森にいると思われる異変の原因を探して、大森林中央に向かって歩みを進めていた。


「なんだか嫌な予感がする」

「どうしました団長?何か気になることでもありましたか?」

「ああ。私は狩人などのように森に詳しいわけではないからどこがどうおかしいとは断言できないのだが、それでもなんだか嫌な感じがするんだ。

  なんというかこう、獣が身を潜めてこちらを観察しているような、そんな気持ち悪さを感じるんだ」

「私は感じませんが……」

「勘違いならそれでいい。だが何となく気持ち悪いんだ」

「戦士の勘と言うやつですか?」


  団長と他の団員では、その経験値も実力もまるで違う。そんな団長の勘は、彼女もそう簡単に流すことはできなかった。


「多分……そういった類のものなのだろうな」

「わかりました。では念のため、各部隊には気を付けるよう注意は促しておきます」

「ああ頼んだ。それと一応事前に森で活動する訓練をしてきたとはいえ、まだまだ森に慣れていない団員も多いはずだ。もし疲れがひどいようなら一度森を出ることも考えておくから、ついでにそれとなく様子を見に行ってもらってもいいか?

  団長の私が行くと、向こうが強がって疲れを見せないようにするかもしれないからな」

「承知しました。では行って参ります」


  そう言って秘書が団長からの依頼をこなそうと各部隊に行こうとした瞬間、彼らの後方で悲鳴が聞こえた。







 

  時は少し遡る。聖騎士が森に侵入してきたことを確認した優斗は、ガドの大森林にいる配下たちに聖騎士たちの討伐命令を下した。そしてその命令を受け動くことになったのが、エルフたちを中心とする森の奇襲部隊である。


  エルフたちを中心とする奇襲部隊はその優れた俊敏性と遠距離攻撃、そして森での隠密能力により、ヒットandアウェイの要領で敵に攻撃を加えていく。特に敵が動きの鈍い大軍であるときに有効な戦法であり、今回現れた聖騎士たちへの対処としてはピッタリな戦法であった。


「今回森に現れた聖騎士たちは、ここにいるあなたたちの部隊に倒してもらうことになったわ。一応念のため私もついていくことになるけど、今後のためにもできればあなたたちだけで対処しなさい。わかったかしら!?」

「はっ!我々の訓練の成果、存分に披露させていただきます!!」


  以前冒険者たちが大量に攻めてきてそれを返り討ちちにした後も、エルフたちはフレイヤの指示のもとその腕を磨き続けていた。

  森にいるはぐれモンスターや時々やって来ていた冒険者連中を相手に実戦経験を積んだエルフたちは、優斗に支配される前と比べて連携も個人の力も格段に強くなっていた。


「「「「「ワォン!」」」」」

「そうだった。あなたたちもいたわね」


  一斉に鳴き声を上げたのは、黒い毛をまとった狼たちである。とは言え当然ただの狼ではなく、れっきとしたモンスターの一員に入る、普通の動物の狼とは一線を画す強さを誇る者たちだ。

  ガドの大森林には、森に元々生息していた、もしくはダンジョンモンスターとして作られたこういう動物型のモンスターたくさんおり、優斗たちはその者たちを使い森の巡回なども行っている。


  そしてこの狼たちは奇襲部隊の一員に入っている者たちであり、そのスピードや嗅覚は奇襲を行うために重宝されていた。


「では行って参ります!この豊かになった里、いや街を守るため、命を懸けて聖騎士たちを撃退して見せます!!」

「そうだ!我々の居場所は我々で守るんだ!!」

「ですな。フレイヤ様とその主の方たちに受けた御恩は返さなければなりません」


  こう決意しているエルフたちの前には、以前複数の部族に分かれていた時とは全く違う自分たちの街の姿があった。


「まあ気負いすぎないようにね。私も一応あなたたちについては行くけど、基本的なところはあなたたちの役割だわ。だから細かいところエラム、あなたが中心となって主導していきなさい」

「かしこまりました」


  フレイヤの言葉を受けて深々と頭を下げているのは、現在奇襲部隊を事実上指揮する立場にある、まだ百歳にも満たない若いエルフの男性だ。

 

  彼は元々族長の息子で武力にもある程度優れていたのだが、それが優斗たちの統治下に入ることでさらに開花した。特に部隊を指揮する力に優れており、将来的には軍全体を指揮する立場につくのではないかと期待されているほどの有望株であった(今それをしているのは、子供に族長の権利を譲ったエルフの元族長)。


「議員たちもそれでいいですね」

「もちろんでございます。我々議会は、あくまでもフレイヤ様たちの下についているの組織でございますから。フレイヤ様たちの言うことは絶対です」

「そう言えばそうだったわね」

「はっ!我々はお役に立てればそれで満足でございます」


  この街には議会がある。それは数名の議員で構成されるこの街の最高意思決定機関であり、優斗たちダンジョン側からくる命令を除けば街でトップの権力を誇っている。


  会社で言うと、ダンジョンが親会社で議会が子会社の経営陣というところだろうか。もちろん細かいところで違いがあるだろうし、そもそも親会社と子会社の関係も会社ごとに違ってくるところもあるだろうが、大まかに言うとそんな感じである。


  まず当然ここのトップは優斗だが、優斗はいろいろと忙しい故、実際によくここにきているのはフレイヤである。またフレイヤの種族がエルフたちの上位種であるハイエルフのこともあり、事実上この街のトップはフレイヤだというほうが正しいかもしれない。


  エルフたちにも自分たちのトップが優斗であることは知らされているし理解はしているが、それでも彼らの感覚ではあくまでフレイヤがトップであり、もしも二人が異なる命令をした場合、おそらくエルフたちの九割以上は間違いなくフレイヤの言うことを聞くだろう。


  そしてそんなトップたちの下にいるのが、街の代表者十三名で構成される議員たちである。エルフの六つあった各部族から代表者一人ずつ、そしてエルフたちと共に住んでいる者たちから七名が選ばれ、街の方針などを決めている。


  この議会ではエルフを過半数に届かないようにして、残りの七名をダンジョンモンスターにしているので、議会における決定権はほとんどエルフにはないとも言える。


  また議会は、奇襲部隊を含めたこの街全軍の指揮権も持っている。これは現代日本でいうところのシビリアンコントロールに近い体制だ。


  そうやって議会を作り形上は民主的(内情は完全に優斗の支配下)にやっているのだが、どちらにせよそれよりも上であるフレイヤたちには逆らえなかったし、そもそも逆らうつもりもなかった。


「ではいきましょう」

「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」


  そして奇襲部隊は、自分たちの十倍以上の数を誇る聖騎士たちを撃退しに出かけた。


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