閑話 とある悪魔の一日5
ベリアルは研究階でいくつもの研究所を回った後、今度はその一つ下の階層にある鍛冶工房を見に来ていた。
この階層には二つの大きな機関が存在している。研究階のように様々な研究所が建てられているわけではなく、全員が一つの大きな機関に所属し、皆そこで活動を行っていた。
そしてその二つの大きな機関とは武器の生産及び開発を行っている鍛冶工房と、マジックアイテムの生産及び開発を行っているアイテム工房の二つである。
この二つの機関は時に協力しながら、ダンジョンのために新しいものを次々生み出していく。特にマジックアイテムを作る方は上の研究階からくる研究データをもとにマジックアイテムを作成することもあるので、この三つは比較的交流の盛んな仲のいい集団であった。
「親方、頼んでいたものはできていますか?」
「ああできてるぜ!こいつらは俺たちの自信作だ!!」
ベリアルに親方と呼ばれた男性、そしてその弟子たち(男の比率のほうが多いが、ちゃんと女性も何人かいる)が自信満々に胸を張る。
「しかしすみませんねぇ。いくらあなた方でも、さすがにこれほどの数を作るのは大変だったでしょう?」
「そりゃ確かに大変だったが、これほど大きな仕事を任せてもらえてむしろ光栄なぐらいだぜ!それにこの仕事のおかげで、俺も弟子たちもずいぶん成長できたからよ!!」
ベリアルの前にはさまざまな種類の武器防具が置かれている。これは彼が管理を任されている裏組織で使うための武器たちであり、そのほとんどがR、そして極一部にVRが混じっている代物であった。
「まあ大親方がいればもっとすごいもんを作れたんだがな。残念ながら俺たちの腕じゃあまだまだこれくらいが限界よ」
「いえいえ、これでも十分すごいですよ。これだけの武器をそろえるのは、力を持つ貴族でも相当難しいですよ。
実際私の赴いているブルムンド王国でもそれができそうなのは、自領にミスリル鉱山を保有しているペンドラゴン侯爵ぐらいですよ。他の王侯貴族ではまず不可能でしょうねぇ。
それにそのペンドラゴン侯爵にしても、これほどうまくミスリルを加工できる職人を抱えているかどうか……。少なくとも、オリハルコンなどを使わずにVR以上の武器を作り出せる職人は抱えていないでしょう」
「そういうもんかねぇ?こんくらい作れるのは、その国にも何人かいるんじゃねえか?」
親方は照れながら謙遜する。
「いえいませんよ。もしいるなら、間違いなくその者にVR級の武器や防具を作らせているでしょうから。
噂になりすぎて余計にミスリル鉱山やその職人が狙われることを嫌がって公には出さないかもしれませんが、だとしても間違いなく作らせてはおくでしょう。私の調べさせたところこれまでそういったものはまったくでてこなかったので、おそらくあなたほどの職人は抱えていないと思いますよ」
「そりゃ嬉しいこった。まだまだ大親方には遠く及ばねえが、それでもこのダンジョンの鍛冶師にふさわしい奴にはならねえとな!」
「ええそうですよ。それにお弟子さんの方々もね」
「はいっ!僕たちも親方、そして大親方のところまで追いつけるよう頑張ります!!」
弟子たちが元気よく返事する。彼らは親方とともに仕事をしながら、彼の指導の下鍛冶の技術を学ぶ者たちだ。
そして先ほどからちらちら出てくる大親方というのは、NPCの一人であり鍛冶師の職業を持つミアだ。
この鍛冶工房は徒弟制をとっており、頂点に大親方のミア、そしてその下に彼女から技術を学んだ三人の親方がおり、さらにその下にその親方たちの弟子がいるというシステムだ。
短期的に見れば弟子はもちろん親方たちから見ても圧倒的に腕の立つミアが、自分一人ですべての鍛冶仕事をしたほうが一番効率がいいのかもしれない。だがそれだと、もしミアの身にに何かあった時に困ってしまう。
それを危惧した優斗がミアの弟子という形で鍛冶に特化したダンジョンモンスターを召喚し、彼らがそのまま鍛冶工房で働く者たちとなったのであった。
「これで武器防具はそろいました。次は頼んでいたマジックアイテムですね。研究階の研究者や鍛冶工房の職人たちもそうなのですが、次行くところはそれにも増して気まぐれな者も多い機関です。頼んでいたものができていればいいのですが……」
ベリアルは武器防具をすべて受けとってそれを〈マジックボックス〉にしまった後、今度は鍛冶工房と同じ階層にあるアイテム工房に向かった。