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閑話 とある悪魔の一日2

  食事を終えた後のベリアルが向かったのは、何の変哲もないただの草原が広がる階層だ。ここでは現在多数のダンジョンモンスターたちが戦闘訓練を行っており、草原での大規模な戦いを想定して訓練していた。


  ダンジョンには草原エリア以外にも沼地エリアや砂漠エリア、それに海や湖、溶岩エリアなど、さまざまなエリアが作られている。ダンジョンでは戦う場所を一択に絞るのではなく様々な状況を想定して訓練を行うことが推奨されており、ほぼ毎日のように誰かがどこかの階層で戦闘訓練を行っていた。


「精が出ますねぇ。今日は草原での大規模戦闘ですか?」


  ベリアルが訓練の指揮を執っているケンシンに話しかける。


「その通りだ。今日は平地での大多数対大多数の戦闘を想定して訓練している」

「平地での大多数対大多数ですか……。ちなみに、大多数とはどれくらいの規模を想定しているのですか?」

「ざっと二万超えだ」


  ベリアルはその数を聞き、非常に驚いた顔をする。


「一万対一万以上ですか!?それはすごい。しかし不思議です。いくらダンジョンの戦力が増えてきたとはいえ、我々の仲間がそこまでたくさんいたでしょうか?確かに外にいるエルフやダークエルフ、それに屈服させたモンスターたちや妖精などを加えれば二万以上いるでしょうが、主の許しを得ていない者たちをダンジョンに入れることは禁じられているはずです。

  私の記憶が確かであるなら、私を含め普段ダンジョン内にいない者たちを含めても、その総数は一万どころかその半分の五千にすら遠く及ばないのではありませんか?」


  優斗はダンジョンを順調に成長させているが、ダンジョンモンスターの召喚だけでなくダンジョンの拡張や施設の充実などにもDPを使っている以上、どうしてもダンジョンモンスターを召喚するペースは制限されてしまう。

  また優斗はむやみに雑魚をたくさん召喚して数を増やそうとするのではなく、どちらかと言えば質より量を増やす方向でダンジョンモンスターを召喚していっている。


  もちろん家畜や農作物の世話、それにダンジョン内に作った鉱山の開発や漁業をさせるためのモンスター(ほとんどが食事睡眠不要のアンデッド)がいるが、彼らも料理人たちと同じく戦闘用に作ったわけではない。

  しかも全員が参加すれば料理人のように料理を作る者がいなくなるし、他にも農作物や家畜の世話、それに鉱山開発などの作業が滞ってしまう。もちろんダンジョンに侵入者が来ないよう警戒する役目を持った者たちも、訓練のためとはいえ一部を除いて持ち場を離れることができない。


  そう考えると、この場に一万対一万の戦場を作ることは不可能なように思えた。


「確かにダンジョンモンスターたちは少ない。その中でも戦闘用の者たちに限って言えば、正直千もいないだろう。下手したら五百くらいしかおらんかもしれん」

「ではその二万と言うのは?」

「まずは戦闘用でない者たちで、手が空いている者を招集させてもらった。そしてさらに活躍してもらったのが、ここにいる召喚術師たちだ。彼らに一人で多数のモンスターを召喚してもらうことで、何とか数を水増しさせてもらっているのだ」

「そうなると弱いモンスターたちですか?」


  召喚術師はマジックアイテムなどを使わない限り、基本的に一日に出せるモンスター数の上限が決まっている。そしてその数は強いモンスター出すほど少なくなり、逆に弱いモンスターを出すほど多くなる。


  例えば一日に百体のモンスターを出せるとして、より強いモンスターを出すとなればその数が十体までとなり、逆に弱いモンスターを出すとなれば五百体までになるなどだ。

  また召喚術師の間でも違いがあり、弱くてもたくさんのモンスターを召喚することに長けている者もいれば、反対に召喚できる数は少なくとも強いモンスターを出すことに長けている者もいる。


  優斗のところにはどちらの種類の召喚術師もいるので、ケンシンは両方に弱くてもいいからできるだけたくさんのモンスターを召喚するように頼んでいた。

  それに中には召喚術師でなくとも種族的特性で召喚のスキルを持つ者や、魔法によってモンスター召喚を行える者もいる。例えばベリアルなどもそうで、彼はスキルや魔法で自分よりも弱い悪魔を一日に何体も召喚することができる。


  そうやって何とか数を増やすことで、一万対一万の戦闘訓練を実現することができていた。


「その通り。ここにいるのはそれこそ王国の一般的な民兵、つまりほとんど何の訓練もしていないただの成人男性レベル、もしくはそれより少し上くらいの力しか持たないモンスターばかりだ」

「それは訓練の役に立つのでしょうか?数は力とはいえ、それではあまりに弱すぎるのでは?それにあなたに限ってそれはないでしょうが、あまりに弱すぎると訓練でたくさん死んでしまいますよ。

  現在蘇生魔法が使えるのはイリア様だけです。いくら死んでも構わない召喚モンスターならともかく、農業などに従事している者たちには死なれると困ります。しかも彼らを蘇生させるにはより上位の蘇生魔法を使わなければなりません。

  一日に使えるイリア様の魔力を考えれば、あまり非戦闘員は参加させないほうがよろしいのでは?」


  厳しい訓練を行う以上、気をつけていても時として死人が出てしまうことがどうしてもある。死んでしまったらこれまで育ててきた意味がなくなるので、当然訓練で死んでしまった者は蘇生させなければならない。

  しかしそれにわざわざマジックアイテムを使っていれば、そのマジックアイテムの分ダンジョンの資源がなくなっていくことになる。


  そのため訓練で死んだ者には時間がたてば回復する魔力を使った復活、つまり蘇生魔法が使えるイリアの出番ということだ。

 

  現状ダンジョンには、イリアしか蘇生魔法を使える者はいない。ダンジョンでも蘇生魔法を使える者を増やそうと鍛えてはいるのだが、その者たちはある程度の回復魔法は使えてもまだまだ蘇生魔法が使えるところまでは育っておらず、けがの回復ならともかく蘇生させるとなるとイリアしか不可能であった。


「そうは言っても今回はできるだけたくさんのメンバーを参加させ、多数による集団となった時どう戦うかを訓練したかったからな。

  それに彼らが死なぬよう最大限の配慮はしているぞ。彼らに死なれるとこのダンジョンが困ることくらい容易にわかるからな」

「それならいいのですが……」


  ベリアルには言いたいこともあったのだが、それでも指揮官としてはあくまでケンシンが上だ。彼は優斗から多数を指揮する役目はもちろん、こんな風に他の者たちを訓練する役目も与えられている。

 

  ベリアルもそのことは重々承知していたので、ケンシンの言葉を信じこれ以上この件については口を出さないことにした。


「まあいくら非戦闘要員とはいえ、万が一を考えて戦闘訓練を多少はやらせておいたほうがいいからな。もし外で仕事があるのならば、自分の身を守るすべも少しは覚えておいたほうがいいのではないか?」

「まあそうなんですが……。それよりなぜ草原でここまで大規模な訓練を?これまではダンジョン防衛やガドの大森林での戦闘を考え、森での戦闘やフィールドの特性をうまく使った戦闘を心がけていませんでしたか?このように何もないところに大軍を展開するシチュエーションは想定していなかった気がしますが?」


  森での戦闘は木という障害物がたくさん生えているため、それに応じた戦闘をする必要がある。またダンジョン内でもフィールドごとの違いがある。さらにダンジョン内では防御側なので、罠などが設置し放題のため地の利がある。

  こういった理由から、自分たちが敵とこのような大軍同士での単純なぶつかり合いになるケースはほとんどないと想定されていた。


「主の命令だ。近いうちに戦争が起こる可能性があるから、その時に備えてこういった訓練もしておけと言われた」

「ほう!では一応指揮官の一人ともいえる私も訓練すべきでしょうか?」

「お前はいいのではないか?そもそもお前は俺たちとは違い、指揮能力ではなくその強さやポテンシャルから部下をたくさんつけてもらっているタイプだ。それにお前の活躍の仕方はこういった正面からの大規模戦闘とは違い、どちらかと言えばもう少し変則的な状況からの戦闘だろう?」


  ダンジョンモンスターたちの中で比較的多くの部下を持っている者たちには、大きく分けて二種類存在している。

  一つはケンシンのように軍を指揮することに適したスキルをたくさん持っている者たちで、彼らは初めから軍を指揮するために作られる。

  反対にベリアルなど単純に強いから部下をつけられている者はそういった軍の指揮に適したスキルをほとんど持っていない者たちであり、彼らは今やっているような正面から大規模な軍を率いての戦闘などで指揮官をすることで、自分たちが有利になるような能力は持ち合わせていなかった。


「まあそうですが……。それでも経験としては必要かもしれませんし」

「また今度時間があったらな。今は俺や部下たちの訓練で忙しいから、やるなら見学か兵士の一員として参加してくれ」

「くふふ、ずいぶん手厳しいですねぇ。

  ですがわかりました。今日はあくまであなたたちの見学だけにしておきますよ」


  そう言ってベリアルは飽きるまで訓練を見学し、訓練がすべて終わる前に別の階層も見てみたいと思いその場を後にした。


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