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閑話 とある悪魔の一日1

  優斗がこの世界に来たばかりの時の、階層がただの洞窟一つ分しかなかった頃とは比べ物にならないほどまで大きくなったダンジョン。そこは今や全部で二十の階層があり、また一つ一つの階層自体も少しずつ大きくなっていた。


  そして昔はアンデッドばかりいたそのダンジョンも、今ではそれ以外の様々な種族もたくさん共存している。

  以前は節約のためアンデッドを代表する飲食不要のモンスターばかり作り出していたのだが、ダンジョン内での農耕畜産、それに魚の養殖など、ダンジョン内でDPを使わず自給自足できるような体制を整えることに成功した。

 

  そのため現在は飲食が必要なモンスターでも、ダンジョン内で賄える範囲の数までのダンジョンモンスターを召喚していた。


「やはりダンジョン産の食材は、外にある食材と比べてかなりおいしいですねぇ。この間ブルムンド王国の高級店で食事をしましたが、間違いなくここで食べる食事のほうがおいしいですよ」


  現在ダンジョン内で食事をとっているのはベリアルだ。普段ブルムンド王国で働いている彼だが、時折暇を見つけては部下たちに組織を任せてダンジョンに帰ってきている。

 

  彼は悪魔なので飲食不要なのだが、それでも味覚は感じることができるため、気が向いたときにこうやって食事をしている。

  昔は節約のためにできなかったことだが、現在は食材に余裕があるためベリアルだけでなく、他の飲食不要だが味覚は持っている者たちが気まぐれに食事を行っていた。


「それはよろしかったです。ところで、調理技術のほうはどうでしょうか?私も料理長を任されてこそいますが、いまだ未熟な面は否めないのです」


  料理長を筆頭として、ダンジョンの料理人たちはおいしい料理を作り出すためだけに生み出された者たちだ。

  そのため彼らは普段から料理しかしておらず、種族的な能力こそあれ(料理人として選ばれているのは一つの種族だけでなく、様々な好みに対応するため味覚を持っている様々な種族が選ばれている)料理以外の能力は低い者ばかりであった。


  そんな彼らであるため料理への向上心は当然高く、外で食事をとることも多いベリアルからそこの料理の味などを聞いたりしていた。


「そうですねぇ。正直に申しますと、そこいらにいる料理人はすでに超えていると思います。あくまで私の活動している王国内に限りますが、普通の料理人はいくらダンジョン産のおいしい食材を使っているとはいえ、彼らにここまでの味を引き出すことは不可能でしょう。

  ただ私が先日行った高級店など、一握りのトップたちにはまだ及ばないと思いますね。私も王国すべての料理人を知っているわけではありませんが、調理技術で言うと全体で上の下ぐらいでしょうか」


  ベリアルが外で食事をとるのは単純に本人の欲と言う要素もあるが、それ以上にダンジョンのため、ときわけ主である優斗のためという思いもある。

 

  事実彼は珍しい食材を使っているところがあればそれを仕入れ、そしてその食材を使った料理を優斗に味わってもらったりする。

  また腕の立つ料理人をさらってその調理法などを聞き出す(その料理人をダンジョンに入れることはできないため、裏組織としてさらい裏組織として処分する)といったことも行っていた。


  ここにいる料理長もその恩恵にあずかっている一人であり、今回の料理にも外の食材や外で仕入れた調理法も一部が使われていた。


「上の下……ですか。まだまだ精進が必要ですね」

「ええ頑張ってください。あなたには私と同じく永遠の寿命があるのです。ならば時間をかければ、必ず上の上まで上り詰められると思いますよ」


  料理人として選ばれた者たちは、全員が不老、もしくはそれに近い長命な種族たちで構成されている。そのため彼らには膨大な時間があり、料理を極めていくにあたって時間的な不安はなかった。


「しかし私も未熟な腕すらもカバーしてしまうほど良質な食材ですか……。そのような食材を扱えるとは、料理人として鼻が高いですね」

「本当にそうですねぇ。おそらくこの食材を王国の市場に流せば、超高級食材としてたちまち高値で売られるほどの大人気食材になりますよ」

「やはりそうなのですね!ですがだとしたら、なぜ優斗様はこの食材たちを市場にお流しにはならないのでしょうか?ダンジョン内では食材が十分すぎるほど生産されているのですから、その一部だけでもお流しになられればよろしいのではないでしょうか?」


  ダンジョン産の食材は、残念ながらDPに変換することもできなかった。外から入手した食材はDPに変換することができたことから、食材自体がダメなのではなくダンジョン産と言う点がいけないのだと実験によって証明されている。


  その点から考えても、ダンジョンで作り余った分は市場に流して外貨を得ようと言う意見も出たのだが、その意見は他ならぬ優斗によって却下されていた。


「優斗様がダメだとおっしゃられたからです。どんな理由があろうとあの方がダメだと言えばそれに我々は従うのですが、優斗様はご親切にも我らにご説明してくださいました。

  なんでも既存の食材を上回る超高級食材を市場に流せば、当然王侯貴族や豪商を中心とする富と権力を持った者たちが興味を持ちます。彼らがただ単純にそれを消費するだけなら問題はないですが、残念ながら欲深い者たちはそれだけに収まらないのです」

「と言いますと?」

「ええ。その欲深い者たちはその超高級食材を卸している商会を調査し、その商会に圧力をかける、もしくはその食材の原産地を見つけ、権力や暴力、それに金の力を使いその土地の横取りなどや食材の強奪などをたくらむそうです。

  そういった者たちは非常に欲深いため、例え様々なルートを経由していようが、執念深くその食材を最初に卸している商会を見つけようとするそうです。

  まあこれらの食材を卸すとすれば、間違いなく我々の保有する商会か私の任されている裏組織でしょう。なのでそれらの組織が権力者たちに強烈に目をつけられてしまえば、対処することはできるとはいえなかなか面倒なことになるのですよ」

「人間は本当に欲深いですね」


  料理長は人間の身の丈に合わないような欲深さに嫌な顔をする。


「本当に困ったものです。私も人間の街に潜入しておりますが、確かにダンジョン産の食材を流せば優斗様の言う通りの結果になるでしょう。それにたとえ外貨を獲得できるとはいえ、我らの誇りある地の食材が下等な者たちの口に入ると言うのは度し難いことでもあります。

  現在ダンジョンはDPで特に困ったところはなく、また商会などの組織を通じて外貨を獲得することもできています。そのため、今の状況のままならダンジョン産の食材を外に流すことはないでしょう」

「それはいいことですね。自分で言っておいてなんですが、確かに下等な者たちにこの食材を与えるのはもったいないことです」

「そういうことです。では私も食事を終えたことですから、ダンジョン内の見回りにでも行ってきますよ。この地は優斗様の手によって日々変化していきますから。普段外にいる身としては、新たに仲間になった者たちや新しい施設なども知っておきたいですからね」


  そう言ってベリアルは気分を弾ませながら食堂から出ていく。もちろん優斗から任されているブルムンド王国での活動も大切だが、彼にとっては何より自分の生まれた地でもあるこのダンジョンが最も大切な場所であった。



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