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聖騎士 3

  現在ルクセンブルクに来た聖騎士たちは全員、目的地であるガドの大森林の中にいる。彼らもまだ森に入ったばかりで戦闘はしていないのだが、さすがに森の中、それも初めて来たモンスターなども生息する森の中と言うだけあって、誰も警戒を怠ることはなかった。


「襲ってきませんね」


  最近のガドの大森林は、外からくる者たちに対して非常に排他的になっている。と言うのも、外から森に入って少しすればすぐにモンスターやエルフ、妖精等森に棲む者たちが襲ってくるのだ。


  当然これまでも似たようなことがあった。森の中で遭遇すれば排除、もしくは食べることが目的で襲ってくる者もいれば、それとは逆に逃げる者もいた。

  しかしこれまでだとそういった行為はバラバラに行われていたのに対し、今では様々な種族がまるで協力しているかのように襲ってくるのだ。


  つまりこれまで散発的に行われていたものが、まるで軍隊などのように矢継ぎ早に行われているのだ。

  しかも襲って来る者たちの強さもだんだんと上昇してきており、これだけの数の聖騎士たちでもかなりてこずることが予想されていた。

 

  そのため聖騎士たちも普段森に入る時よりもより一層警戒しており、いつ襲ってくるのかと待ちかまえながら森の奥へ向けて進んでいった。


「お前はガドの大森林の異変をどう見る?」


  聖騎士団団長が伯爵との会談でも一緒にいた女性、彼にとっては部下の聖騎士であると同時に自分の秘書的な役割も果たしてくれている若い女性に尋ねる。


「やはり森の中で何らかの勢力争いがあったのでしょうか?ですが正直、この森のことはまだまだよく知らないのでわかりません。団長はどうお考えですか?」

「私もお前と同じでこの森のことはまだまだ不勉強だ。だが事前にこの森に詳しいと言う者に話を聞いたところ、なんでも北の方にいるモンスターたちが降りてきたのではないかと言っておった」

「降りてきた……ですか?」

「ああ。なんでもこの森は北の方にいるモンスターたちが圧倒的な力を誇っていて、それ以外のところにいるモンスターたちは北にいるものと比べはるかに弱いそうだ。

  そしてそれはモンスターだけでなくエルフ等の森に棲む亜人たちも同様で、北にいるモンスターが一体いるだけで瞬く間にそれらの集落なり村なりを制圧できるだけの力の差があるらしい」

「そんなにも差が!?」


  女性が非常に驚いた顔をする。それを見た団長は自分も最初聞いた時に同じような反応をしたなぁ、と思いながら、話の続きを聞かせる。


「そうらしい。先ほど言った森に詳しい者、なんでもこの森を中心に森林について研究している学者らしいが、その者曰く北にいたモンスターが何らかの理由により北から降りてきて、それの縄張りがあるせいで元からいた者たちが森の外側に押し出されたのではないかと言うことだ」

「そういうことですか……。そうなると、この森では北が最も強く、そしてそれ以外は中央に行けば行くほど強くなるということですか?」

「そうらしい。またその学者曰く、以前森に侵攻して返り討ちにあった冒険者たちもその北から降りてきたモンスターにやられたと言う見解が有力だそうだ」

「つまり我々のターゲットは、その北から降りてきたというモンスターですか?」

「そう……なのかもな」


  団長が言葉を濁す。

  彼の顔には困惑の色が見える。この困惑は今出てきたものではなく、教会からガドの大森林に行けと言われた時から時折見せている表情だ。そして団長が今回の依頼に何やら思うところがあるのだろうと言うことは、彼の秘書でもある彼女にはよくわかっていた。


  団長がこういう表情を聖騎士たちの前で見せることはほとんどない。そして秘書の自分にもめったに見せたことがない表情を今回の遠征で何度も見せられてきた彼女は、思い切ってその表情の理由を尋ねてみることにした。


「どうしました団長?今回の遠征に何か思うところがあるのですか?」

「!?ばれているか。やはりお前には隠せないようだ。確かに今回の遠征にはいろいろと思うところがあるな。正直言うと、かなり困惑している」

「それほどですか?」


  秘書が内心で少し驚く。これまで団長は不安があってもそれを彼女の間で言葉にすることはなかった。彼女に相談はしてもこのような言い方をすることはない。それを聞いた彼女は、団長が自分の想像以上に悩んでいるのだと認識した。


「いったい何にお悩みで?」

「決まってる。ここに派遣されたことだ」

「上がそう命じてきたのです。なにかおかしいことですか?」


  秘書はそのことを全くおかしいとは思っていず、心底不思議そうな顔をしながら首を傾げた。


「我らはリーン教の聖騎士だ。つまりその役目は、リーン教を守るために武力が必要な時にその力を使うことである。それはわかるな?」

「当然です」

「では聞くが、この森がリーン教に与える影響とはなんだ?この森はリーン教の本部からはだいぶ離れており、この森で何があろうがそれによってリーン教が受ける影響は少ないだろうし、もし影響を受けるにしても距離が離れているためある程度時間がかかるはずだ。

  この森に異変が起きていることはよく分かった。だがそれも、この森と接している国や貴族が調べればいいことだ。わざわざ我々が調べる必要はない。

  なぜこの森をリーン教が調べるのか?そしてその調査に聖騎士の三分の二も使うのはなぜか?上からの命令だとは言え、いろいろ不審な点が多すぎるとは思わないか?」

「そう言われても……これは上からの命令ですし……」

「……そうだったな。聖騎士とはそう言うものだ。

  この話はもうやめにしよう。私たちがこんな話をしていたら他の聖騎士たちが不安がる。悪かった、私も切り替えて任務に集中することにするよ」

「そうですね。本来の任務を達成させて早く帰りましょう」


  表向き聖騎士団に与えられた任務は一つ。それはこの森を調査することだ。

  しかし団長など一部の者たちに課せられている任務はもう一つあり、それはガドの大森林にいる強者を倒せと言う任務であった。


「しかし強者と言うのは誰なのだろうか?この森は、特に北の森には強者がたくさんいるようだ。それらをすべて倒すことなんて到底無理だし、そもそもこの広い森からそれらをすべて見つけ出すことなんてできない。

  上から森に入れば勝手に寄ってくる可能性が高いと言われたが、いまだその気配はないからな」

「確か……奥に行けば行くほど寄ってくる可能性が高い……でしたよね?」

「そう言う話だったな。もしそれが北から降りてきたモンスターなのだとしたら……、確かにその縄張りが比較的森の奥にある可能性は高いだろう。

  まあその推論が正しかったとしても、なぜそのモンスターを聖騎士が倒すのか、そしてなぜ上がその存在を知っているのかと言うことに疑問があるがな」

「団長……」

「わかっている。ちょっと言ってみただけだ」


  聖騎士たちが森の奥に向かって進んでいく。すると、彼らにとってこの森で初エンカウントとなるモンスターたちに出会った。


「ゴブリンか」


  聖騎士たちの前に現れたのは五匹のゴブリンだ。それらは見るからに普通のゴブリンであり、聖騎士たちの目には蔑みの色があった。


「ただのゴブリンが、しかもたった五匹でこの数の騎士団の前に姿を現すとは。ゴブリンと言うのは本当に馬鹿な種族だな!」

「ゴブァ!」

「姿を現すだけに収まらず、無謀にも突進してきますか」


  無謀にも突進してきたゴブリン五匹、それらはすべて聖騎士たちに簡単に殺された。


「しかしゴブリン共は、こんなにも大きな戦力差をわからなかったのか?」

「わからなかったんだろうな。でも他のモンスターはどうかわからないぞ。この森にいるモンスターたちは野生で生きているんだ。生存本能はかなり強いはずだからな」

「ああ。弱いモンスターほど狙われることが多いため生存本能が強いと言う。だとすれば俺たちが会うのは今の奴らみたいな能無しか、もしくは自分の強さに絶大な自信を持っている者たち、と言うことになるな」

「それだけじゃない。この森にはエルフみたいに集団で生活している者たちもいるんだ。今のゴブリンたちだって雑魚が数体いるだけだったから問題なかったが、何百体規模で束になってこられたら多少の損害が出ていてもおかしくはないぞ!」

「エルフ……そうなると木の陰等に隠れて狙撃してくる可能性もあるな」

「十分にあるな。というより、それがルクセンブルクの冒険者たちがこの森に入らなくなった理由らしい。モンスターももちろん厄介だが、なによりエルフたちがこれまで以上に強くなり、さらに攻撃してくる人数が増えたようだ」


  聖騎士たちはお互いに集めた情報を惜しげもなく伝えていく。こうやって雑談しながらも情報交換していくことで、団内に情報が拡散されていった。


「団長曰く、奥にはもっと強いモンスターもいる可能性があるそうだ。油断せずに行こうぜ」

「だな。このゴブリン共みたいに馬鹿な奴らは逆に珍しいと思っておいたほうがいいだろう」


  聖騎士たちは油断せず奥に進んでいき、その後も目の前に現れて無謀にも突進してくる馬鹿なモンスターたちは造作もなく瞬殺し、木の陰などに隠れて攻撃してくる厄介な敵にも確実に対処していった。


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