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聖騎士 2

「私はここルクセンブルクで幼いころからずっと過ごしてきましたから、この国の外はもちろんこの国の中のことですら知らないことも多いのです。

  あなた方の話は私がこれまで知らなかったようなことばかりで、非常に楽しかったですわ。ですがいくら楽しいお話でもずっとしているわけにはいきません。そろそろ、あなた方の本題とやらを聞かせてもらいましょうか?」

「ですね。私としてもあなたのような美しい方とのお話がもう終わると言うのは残念ですが、仕事上そうも言っていられませんから」


  両者とも友好的な笑みを見せながらも、本題にはいるということでそれぞれの目は鋭さを増した。


「ふふ。お世辞がうまいのですね」

「お世辞などでは!私は本心を言ったまでです。……おっと、言われた通り本題を言わねばなりませんね。我々の要求は、簡単に言うとあなたからの支援と許可です。

  我々がガドの大森林で活動する許可とその間森に誰も入れないこと、そして森で活動する我々に対して食糧などの物資を支援して欲しいのです」


  彼らの正体は、この度ガドの大森林で探索をしたいと言っている聖騎士たちだ。彼らはリーン教と言う宗教団体に所属する者たちで、言わばリーン教の所有する軍隊と言っても差し支えない。


  リーン教がガドの大森林を調べたいと言うことで、そこと領地が接しているルクセンブルク伯爵に挨拶するがてら支援も要求しに来たのだった。


「お話はわかりました。まず、前者については許可を出します。ですが確かにガドの大森林は我が領地に接してはおりますが、残念ながら我々がそこを支配しているわけではないので、あなた方は私の許可を得ずとも入ることはできます。

  そしてその間森に誰も入れないと言うことですが、確かに領内の者には私から注意喚起をしておけますし、冒険者ギルドにも注意させればこの領地の人間には大丈夫かもしれません。

  しかし領内外にかかわらず民が勝手に入るかもしれませんのでそこはご容赦をください。また大森林の広さからルクセンブルク領以外の場所、具体的に言うとレムルス獅子王国や都市国家群から森に入る者もいるでしょうから、それらについては私の力も及びません」

「なるほど。つまり森の外部から誰かが入ってくることを止めるのは不可能なのですね」

「ええ。特に獅子王国や都市国家群方面だとまったく感知できないので、そこに関しては無理だと言わざるを得ません」

「理解しました。それに関しては取り下げさせてもらいます」

「ええ。それで後者なのですが……」


  ルナは申し訳なさそうな顔をしながら伝える。


「我が領はつい先日まで財政的に非常に圧迫されてまして……今から聖騎士の方々に支援するとなるとかなり厳しいですし、民たちも納得しないのです。民たちを納得させるには、支援を行うそれなりの理由が必要になるのです」


  ルナは言外に何をしにガドの大森林に入るのか教えろと言う意図も込めている。

 

  聖騎士たちはガドの大森林に入って調査をすると言っているが、それが何の調査なのかはルナに対して全く伝えてこなかった。ルナも領地を預かる者として彼らが何をしに来たのかくらいは知っておきたいので、なんとか彼らから目的だけでも聞き出しておきたかった。


「なに、単純な調査ですよ。ガドの大森林は人の手のほとんど入っていない未開の地なので、リーン教としてもぜひ調査したいと言うことになったのです」

「ですがなぜ今頃?リーン教もガドの大森林も、数百年以上前からあるもののはずですが?」

「過去の教徒たちが調査してこなかった理由は私にはわかりかねますが、今回我々がこの時期に来たのはたまたまですよ。元々教会内では調査しようと言う声が上がってはいました。ですが何分リーン教も大きな組織ですから、それが実行されるまで時間がかかったのですよ」

「ちなみに調査と言うのはどういうことをするので?」

「調査は調査ですよ。ガドの大森林のように人の手が全然入っていないようなところには、新種の薬草や見たことのないモンスターなどが生息している可能性は高いですから。それらを調べることは重要ですし、新しい発見があれば人の世界も潤うと言うものではないですか?」

「いろいろですか……」


  ルナは表情に出さないように気を付けながら、内心では目の前の者たちを非常にうさん臭く思っていた。と言うのも……


「ではなぜあれほどの人数が必要なのでしょうか?ただの調査、しかも本部のある教会からはかなり遠いところにある森の調査で、どうして二千人もの聖騎士が必要なのでしょう?あれではまるで、これから戦争に行くと言っているようではありませんか」


  聖騎士の数はそんなに多くない。そもそも教会に入るのは神の教えを信じたからで、最初から聖騎士になりたいと思って教会に入った者は非常に少ない。聖騎士はあくまで教会のために動く兵であり、彼らにあこがれを抱いているのもリーン教の信徒ぐらいしかいないのだ。


  リーン教に所属している聖騎士は約三千人と言われている。つまりその三分の二がルクセンブルクに来ている状態であり、ただの森の調査にそれだけの人数を割くことは誰が見ても異様に思えた。


「ガドの大森林は危険ですから。それはあの森で仲間や同業者をたくさん失ったあなたが一番知っているのではありませんか?」


  ルナもそのことを出されれば、しぶしぶながら高い危険性を認めざるを得ない。


「確かにあの森は危険です。ですがそれでも単なる森の調査に聖騎士二千人は過剰戦力では?しかもわざわざ、聖騎士団のトップであるあなた自ら来る必要もないのではありませんか」


  彼女の目の前にいる三人のうち、先ほどからずっと代表として会話をしている四十前後ぐらいの男が、今回来た中でトップであるリーン教の聖騎士団団長だ。


「我々は森のモンスターを間引くことも視野に入れております。そうすればあなた方にとってもいくらか都合がいいのではありませんか?」

「(話が微妙にすり替えられたわね)確かにそれはこちらにも都合がいいかもしれませんね。それでその人数なのですか?」

「ええそうです!なので我々としても支援がほしいのですよ。我々の力だけで行うとなると負担も大きいですから」

「(これは……支援せざるを得ないかしら)」


  もし聖騎士だけで森のモンスターを倒していったり、場合によっては森の開発なりをされると、統治者である伯爵家にとっては非常に面倒なことになる。


「(確かに聖騎士のおかげで森で仕事ができるようになったと言われれば、これからルクセンブルクにおけるリーン教の発言権が強くなる。今は小さい教会が領内に一つ二つあるくらいだけど、今回の結果次第じゃ面倒なことになるわね。

  そうなる前に協力をしておいてなるべく貸しを小さくしろと言うことね。わざわざあいさつに来てそれを伝えて、こちらに知らなかったともいわせない気ね)」


  ルナは少し考えたのち、彼に返答を告げる。


「要件はわかったわ。でも最初に言った通り我が領の財政は決して豊かではないから、さすがに二千人分の支援は到底無理ね。できて半分、もしくはそのまた半分までよ」

「それで充分です。ご支援ありがとうございます」


  二人が握手を交わした後、聖騎士団の代表者たちは伯爵家から出て行った。


「あんな約束をしてよろしかったのですか?」


  聖騎士たちから隠れていた執事が、彼らのいなくなった頃合いを見計らってルナに接触した。


「しょうがないでしょ。断ったらどう疑われるかわからないわ」

「ですが少し渋っていませんでしたか?」

「当然よ。私はこれでも巷では名君ということになってるんだから。リーン教徒でもないにもかかわらず馬鹿みたいにホイホイ向こうの言うことを聞いてたら、それはそれで疑われるかもしれないでしょ。ここは油断できない領主と思わせるのがベストなのよ」

「意外と考えているのですね」

「意外は余計よ!それより問題はあいつらでしょ。明らかに何か隠していたわよ」

「ええ。すでに私の部下があの方たちに連絡しに行っております。これ以上は我々ではどうにもならない問題でしょうから」

「さすが仕事が早いわね。じゃあ私はゆっくり紅茶でも飲んで、優雅に聖騎士さんたちの帰りを待つとするわ」


  結局彼女は千人が一か月活動できるだけの食糧を聖騎士たちに支援として渡し、自分は聖騎士たちが帰って来た時と、反対に帰ってこなかった時のための両方の準備を始めていた。


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