聖騎士 1
王国の東の果てにあるルクセンブルク領、その都市ルクセンブルクの中央には、代々のルクセンブルク伯爵が住んできた都市で一番大きな屋敷がある。その屋敷は今もなお健在で、増改築等を繰り返して今も立派な屋敷としての役目を果たしている。
そして今は当代の女主人によって使われている由緒正しき屋敷に、見るからに強力そうな装備を身に着けた複数の人間たちが訪問してきていた。
「あなた方は?」
「我々はこういう者だ。すでに伯爵には早馬を飛ばして知らせてあるはずだから、予定より少し早く来すぎたとは言え確認をとってもらえばすぐにわかるだろう」
その人間たちのリーダー格の男が、とある組織に所属していることを表す証を見せる。
「かしこまりました。では確認をとってまいります」
そう言って門番は相方を二人残して、自分はその者たちの来訪を伯爵に伝えに行く。門番も今日来客する者たちのことはあらかじめ聞いていたので、来るのが早かったとはいえ彼らの恰好や見せてもらった証を見れば、それが聞いていた来客で間違いないことはすぐにわかった。
そのため門番は、できるだけ客人たちを待たせないように大急ぎで伯爵のもとに向かった。
「閣下、お客様がおいでになりました」
「この時間に約束があった?」
「いえ。例の方々なのですが、予定よりも早く着いたそうなので今門の前で待っておられます」
「そうなの。予定より早いから少し遅くなりますが、なるべく早く行くと伝えておきなさい」
「かしこまりました」
そう言って門番はまた門まで大急ぎで向かった。
「もう来たのね。さて、これからどういうことになるのかしら。願うならとっとと目的の場所に行ってほしいのですが」
「お嬢様、それでは我々はいったん隠れさせていただきます」
そこにいるのはルナの重用する男性執事であり、彼は微笑を浮かべながら部屋から出ていこうとする。
「ああそうね。もしあなたたちの正体が彼らにばれたらまずいものね。ちゃんと大丈夫な者たちだけしか表に出さないようにしておいてね」
「ええもちろん。すでに私以外は大丈夫でしょう」
「それはよかった。会談結果は後で伝えるわ」
「よろしくお願いします」
そして執事は部屋から去っていく。その後侍女たちに着替えを手伝わせてしっかり準備を終えたルナは、お供を連れて門の前にいる者たちを出迎えに行った。
「ようこそルクセンブルク伯爵領へ。遠いところ大変だったでしょう?待たせてしまって申し訳ありませんでした」
貴族にふさわしい見事なドレスを身にまとったルナが、来客たちに友好的な笑みを浮かべる。
「いえいえ。それに関しては早く来すぎた我々が悪いのです。こちらこそ、予定よりも早く来すぎてしまい申し訳ありませんでした」
「ではお互い水に流すと言うことで。それでどうでしょう?皆様も長旅でお疲れでしょうから、我が屋敷で一服していかれますか?」
「お言葉はうれしいのですが、何分我々もやることが多いので……」
「それは残念です」
ルナは残念そうな(当然社交辞令だがその表情は非常に自然なものである)顔をする。
「はい。なので予定通り代表者だけで話をすると言うことでお願いします。彼らは宿に帰らせておきますから」
「わかりました。ではこちらへ」
そうして集団の中から三名が前に出てルナの後について屋敷に入っていき、残りの者たちは一礼した後門の前から去って行った。
「ずいぶん礼儀正しい方たちなのですね」
「我々はそれだけが取り柄ですから。逆に硬すぎると言われてしまうことも多いのですがね」
「何をおっしゃっているんですか。それ以外にもたくさん取り柄がありそうですよ」
「いえいえ。我々もまだまだですから」
「そんなに謙遜しなくてよろしいですのに。あっ、着きましたよ。ここが応接室です」
応接室に入ったルナと三名の代表者たちは、座ってから少しの間茶を飲みながら談笑した後、真剣な顔で本題に入って行った。