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閑話ー 三大貴族の会談

  ここはブルムンド王国の王都に存在しているとある地下室。関係者以外の誰にも見つからないように厳重に隠され、また傍目にはわからないが物理的及び魔法的にもしっかりと防御されているその部屋には、現在三人の男たちが円卓の席に座り顔を突き合わせていた。


「ようやく集まってくれたな」


  まず口を開いたのは、今回この会議を行うことを提案したロンバルキア辺境伯だ。武の名門であるロンバルキア家の当主らしく大きく引き締まった体をしている彼は、その容姿に見合った威厳のある声で他の二人に声をかける。


「そう言われてもこればっかりはしょうがなかろう。儂ら三大貴族はただでさえ忙しい貴族の中でも、さらに忙しいのじゃ。今回のように急に来いと言われても、こちとらスケジュールを空けておくだけで一苦労じゃよ」


  それにこたえる形で口を開いたのが、この中では最年長の老人であるパロム侯爵だ。体は完全に老いてこそいるがその瞳にはまだまだ十分力があり、後十年は現役で働きそうな顔をしている元気な老人である。


「だよね。むしろ僕たちが、たった三か月で集まれたことの方がすごいことではないかい?」


  最後は一目で高級品とわかる衣服を身にまとっている太った男だ。今日はお忍びのためいつも身に着けているような超高価な指輪やアクセサリーは身に着けていないが、それでもいろいろなところに見る人が見れば財を使っているのがよくわかるような格好をしている。


「相変わらず悪趣味な奴だ」

「これが我が家の当主たる証しだからね!嫌でも身につけざるを得ないのさ!」

「本心ではまったく嫌ではないくせによく言う」


  彼は王国一の財力を持つペンドラゴン侯爵だ。ペンドラゴン家の当主が人前に出るときは常に華美であることが半ば伝統化しており、今日着ている普通の貴族ならパーティーで着て来てもおかしくないような服装は彼にとっては非常に地味なものであり、伝統だなんだ言ってはいても、結局いつもより地味な服装をしていることに不満は抱いていた。


「まあいい。とにかく会議を行う。お前たちもこの会議には賛成のはずだな」

「当然じゃ」

「そうだね。君が言わなければ僕の方から提案していただろうしね」


  この地下室は三大貴族の当主たちが先祖代々秘密裏に会議を行ってきた場所であり、この場所の存在を知っている者は今いる三人を含めても合計で二十人もいない。親族でも次期当主にしか知らされておらず、これまでずっとその秘密が守られてきた三大貴族の会議場であった。


「議題は現在急速に力を強めてきている第五王子についてだ。お前たちも当然わかっているだろうが、あれに王位につかれるとひどく面倒なことになるぞ」


  第五王子は現在彼らと敵対しており、その第五王子が王位につけば自分たちの権力が脅かされる。それがわかっているからこそ、三大貴族たちは頑張ってスケジュールをやり繰りしてできるだけ早く集まったのだった。


「まああの方が儂らのことをよく思っておらんのは確実じゃな。そしてこうなると次期国王争いはさらに長期化するじゃろう。いくら年を召されてきているとはいえ、バランスを考えれば陛下としてもどちらかが負けるまでは容易に継承することはできんじゃろう」

「陛下も愚かじゃないからこの状況で強引に誰かを任命したりはしないだろうねぇ~。まあ陛下なら本心では第五王子を応援するだろうけど」

「じゃな。とは言え儂らの手前大っぴらに応援することはできん。せいぜい政治経済の面で少し手心を加えるぐらいじゃろう。それなら基本放っておいても構わないじゃろうし、あまりやりすぎるようなら儂らで抑え込めばいいだけの話じゃ」

「そうだね!だとすると、注視すべきはやはり王子本人なわけだ」

「そういうことだ。現在彼が我々の対抗馬であることは、もはや我々にも否定することができない。そうなればいつも通り、われわれ三家が協力して事に当たるしかあるまい」

「賛成じゃ」

「同じく賛成だね」

「これで決まった。では具体的な対策を取ろうではないか」


  三大貴族たちはこのように、代々自分たちに降りかかる大きな火の粉は三家が一体となって振り払ってきた。

 

  彼らはそれぞれ大きい家なので基本的にはどんな問題も個別で対処できるのだが、今回の第五王子のように大きな問題には三家が協力して当たることで解決してきた。


  三大貴族は自分たちが大きな権力を持てているのがあくまでほかの三大貴族、つまり三家がいることで王家に強い対して影響力を持てていると自覚しており、多少の足の引っ張り合いこそすれ、他家を本格的に陥れようとは考えたことはあっても実行したことはない。


  三家は非常時にはこうして協力することで内外の危機を何度も乗り越えてきており、その分三家は周りからは見えない強い絆で繋がっていた。


「まずは彼の背後にいる存在を調べるのが先決じゃないかい?彼の手元にある財力と戦力、とりわけ戦力は半端じゃないよ」

「それについては俺も調べている。だが……」


  辺境伯はそのまま黙って首を振る。そしてそれを見た残り二人も揃って首を振った。


「やはりお前たちもわからなかったか」

「ああ。それも僕たちが頑張っても調べられなかったんだから、それも含めてかなりの力が集まってるよ。僕ら以外も調べてるだろうけど、多分どこも見つけていないだろうしね」


  三大貴族の諜報力でもはっきりとした正体が見えない。それはつまり王国でも最強レベルの隠密能力を持つ組織であることがわかる。その事実が、彼らの気をより一層引き締めることになった。


「多分裏じゃろうな」

「裏組織か……。だったらお前の方が詳しいんじゃないか?」


  ペンドラゴン領はたくさんの財がある上に、国内唯一のミスリル鉱山まである。ペンドラゴン家はミスリルの闇取引などを管理するために子飼いの裏組織もいくつか持っており、それもあって貴族の中では最も裏の事情に精通していた。


「どうだろうねぇ。最近は裏の方も勢力争いが激しいみたいだから、その動向を掴もうとしてもなかなか難しいところがあるみたいだよ。裏は表とは違って消えるのも栄えるのも早いからね。その中でも今は、特にいろいろなところが消えたり栄えたりしてるみたいだよ」

「ちなみに今の裏組織ではどこか怪しそうなところはあるか?勘でもいいから教えてくれ」


  ペンドラゴン侯爵は少し考えてから……


「うーん、やっぱり確率的には『ブラックスネーク』じゃないかな?あそこはこの国では最大手だし、今はこの国だけじゃなく国外にも進出しているみたいだからね」

「そこは俺でも知っている。裏どころか表でも超有名な組織だ。貴族だけでなく民衆まで名を知ってるぐらいだからな」

「確かに現在裏で最も力を持っておるのはあそこじゃろう。それに裏は表には出てこられないような戦力が潜んでいることも多いからのぉ」

「でしょ?普通に考えれば、あそこが一番戦力的には怪しいよね」

「逆に他にできそうなところはあるか?」

「そう言われると、結局よっぽど小さな組織以外全部だよ。裏は小さな組織でも、どんな隠し玉を持ってるか蓋を開けてみるまではわからないからね」

「結局特定は不可能か……。いっそのこと、こちらも思い切ったほうがいいかもしれんな」


  思い切る……その言葉の意味を理解したほかの二人は、揃って嫌な顔をした。


「そんな顔をするな。お前たちもそれが一番効率のいい手段なことはわかっているだろう?」

「もちろんわかっている。じゃがそれが露見すれば大変なことになるぞ」

「そもそもそれが成功するのかい?向こうだってバカじゃないんだ。護衛はもちろん、こういった事態に備えてカウンターアサシンだって用意してるんじゃないかい?」

「そうだろうな。だがそれはそれでこちらも対策をすればいい。例えばこの国でもトップクラスの暗殺者集団を使うとかな」

「あいつらか!?でも彼らに頼むとものすごい報酬を用意することになるよ」

「だとしてもだ。あの王子がいなくなることと引き換えなら、白金貨の百枚や二百枚くらいなんら惜しくはない!」

「単純に政争で片づけることはできんか?穏便な方法とはいえんが、暗殺者を送るよりはよっぽどましじゃろう」

「それでは甘い!!」


  辺境伯はそう言って机を思いっきりたたく。


「我々はすでに戦いを仕掛けられておるのだ。このまま座して待っていても、その間に我々の持つ力は減少していく一方だぞ!?」

「最近僕らの領地でよくないことがいろいろ起きてる件かい?」

「そうだ!!まだ証拠は掴めていないが、あれらは間違いなく奴の背後にいる者たちのせいに違いない。このまま放っておけば、仮に政争で片付いたとしても我々の力は大きく損なわれる可能性が高いのだ!!これ以上野放しにはしておけん!」

「証拠がないから公に言及することも難しいしね」

「じゃな。儂らなら証拠をでっちあげることもできるが、敵の力がわからん以上それをしても何らかの手段でひっくり返される可能性は否定できん。ならば金はかかるしリスクはあるが、手駒としては死んでも痛くない暗殺者たちに頼むのも一つの手か」

「そうだ!それに暗殺者どもが仮に捕まっても、こちらはしらばっくれておけばそれでいい。何種類かの手段を使い依頼しておけば、仮に向こうにばれたとしても公に言及することは難しいはずだ」

「一理あるねぇ~」


  会議はだんだん暗殺者を雇う方向に傾いていった。そして暗殺者を雇うことによる危険性やそのメリット等をしっかり議論しあった三人は、最終的に満場一致で暗殺者を雇い第五王子を殺すことに決めた。



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