再起 2
「傷心しているところすいませんが……、これからどうするつもりですか?」
「どうする……か。それは妾たちの今後と言うことだな」
「ええ。事実上の国王となった第九王子は今、自分の兄弟姉妹、つまり他の王子たちを片っ端から捕らえようとしているらしいですよ。すでに半数近くの王子たちが彼に捕まり、今は王城で軟禁されているという話です。
今軟禁されている者たちが最終的にどうなるかはまだ分かりませんが、それでも王族を捕らえようとする今の政策が変わることはないでしょうね」
「我が弟妹が捕らえられているのか……」
第九王子が他の王子たちを徹底的に捕らえにいっているのは当然のことだ。彼が今王都を支配しているのはあくまで不当な方法であり、その正当性は誰が見てもないと言うだろう。
この状況で貴族たちがすることといえば四つ。まずは第九王子に忠誠を誓い部下になること。次に獅子王国が荒れている間に独立し、自分の国を作ること。そして第九王子の対抗勢力として敵対することと、恭順も敵対も独立もせず、形勢を見て動きを決める中立派だ。
第九王子からすれば一番目は当然大歓迎だし、四番目も今のところはそこまで問題にならない。厄介なのは二番目と三番目だろう。特に自分が不当な方法で王都を落とした今では、どちらをするのにも十分な大義名分がある。
簒奪者には従えないと貴族が独立することもできるし、もちろん同じ大義名分で王子と敵対することもできる。
そして三番目の敵対する道を選んだ時に、王子と言う神輿があるのとないのでは全然違う。王子と言う神輿があれば士気も上がるし、正当性も増す。
だから第九王子と敵対しようとする貴族たちは誰でもいいから王子を神輿にしたいだろうし、逆にそれと敵対する方は王子を渡したくない。
そして当然ここにいる二人はその厄介な王子であり、長子で軍で人望のあった第一王子と王位継承戦で勝って獅子王国の正式な跡取りとなっている第十八王子は特に厄介な存在であり、生きていると分かれば間違いなく狙われることは明白であった。
「妾も自分がどういう状況に陥っているかぐらいは、第九王子が王都を占領しているという情報を聞けば大体は理解できる。
今の妾にできる選択肢は二つ。この国、もしくは他国に隠れ住んで追撃の手から逃れる。もしくはまだ支配下にはいっていない貴族たちの神輿として、第九王子と戦うかだ。お主が問うておるのはこういうことだろう?」
「そう言うことならば、私も妹と同じような選択肢しか取れないな」
「その通りです。それで、どうなさいますか?」
「「当然敵対する!!」」
二人は強い意志の籠った目で優斗を見つめる。
「あのような者に王になられては民がかわいそうだ。それに、このままだと我らが獅子王国は帝国の属国となってしまう。そうなれば父上だけでなく、他のご先祖様たちにも顔向けすることができん」
「そうだな。それに幸いにも、ここにいる妹は王位継承戦で勝って正式に次期国王に指名されている。こちらの大義名分は十分すぎるほどだ」
「わかりました。それならば頑張ってください。我々も陰から応援していますよ」
そう言って優斗たちはこの場から去ろうとする。
「ちょっと待った!妾たちを助けてはもらえないか?勝つためにはたくさんの戦力が必要になる。お主らには妾の部下として一緒に来てほしいのだ」
「それは依頼ではなく正真正銘の部下として……ということですか?」
「そうだ。冒険者パーティー『インフィニティーズ』としてではなく、純粋に妾の部下になってほしいのだ」
「なるほど。そう来ましたか」
優斗はしばしの間沈黙する。彼はこれからどう動けば自分に、ひいてはダンジョンにとって最もいい結果になるか思案した後、王子たちにその答えを告げる。
「その申し出は非常にありがたい……のですが、我々にもやはりやりたいことがありますし、こういった国のゴタゴタにはあまり関わりあいたくはないのです」
「……そうであるか。残念ではあるが仕方ないことかもしれぬな。まあこんな状況で妾の部下になってもらおうと言うほうが虫が良すぎるか」
「すいません。とは言え俺の知り合いでいいなら何人か紹介しましょうか?彼らならかなりの戦力になります。傭兵として使ってもらえればいいと思いますが?」
「本当か!?それならをぜひよろしく頼む。もちろん国を取り返した暁には、多大な報酬を払うと伝えてくれ。もし望むのであれば、爵位を領地を与えることも考えているとも」
「伝えておきます。それと我々が本来もらうはずだった報酬ですが、さすがに今のあなたに払えと言っても困るでしょうし、そもそも払えないでしょう。なのでその支払いは、あなたが王になった時の出世払い、と言うことで勘弁しておきますよ」
「すまない。何から何まで、本当に世話になった」
「いえいえ、こちらにも利があることですから。それでは我々はこれでお暇させていただきます。今いる場所やその傭兵のことなど、詳しいことはあなた方と一緒にこの国に残る彼女に聞いてください」
そう言って『インフィニティーズ』の三人が去っていき、その場にはユズだけが残った。
「お主は残ってくれるのか?」
「さすがにうちまで見捨てたら絶望的すぎるからな。しゃあないから残ったるわ。けど一つだけ約束していや。もしうちらで国を取り返すことができたら、せめて子爵より上の爵位にしてや。伯爵とか公爵とか、できればそこら辺の大貴族にしてほしいんやわ」
「当然であろう。妾もそれくらいの度量はあるぞ。もっとも、それもこれも国を取り返せたらの話なのだがな」
「大丈夫だ。なるべく弟と争いたくはないが、こうなった以上私も戦わせてもらうからな」
「姉上……」
こうして今ここに反乱軍、いやむしろ正規軍と言うべき抵抗勢力ができたのであった。彼女たちは第九王子に敵対する貴族たちをまとめ上げ、正統なレムルス獅子王国軍として戦っていったのであった。