再起 1
「……ここは一体?」
「やっと目が覚めたか。我ながらちょっと魔力を込めすぎたかな」
第十八王子が目を覚ますと、そこは彼女が見知らぬ部屋の中だった。その部屋には彼女のほかにお付きの女騎士と執事、そして『インフィニティーズ』の四人がいた。
「悪いが三人には、俺の独断で強制的にこちらに連れてこさせてもらった」
「独断……?そういえば!お前たちと一緒に戦場に向かっている途中で急に眠くなったんだ!!お前たちはどうしてそんなことをしたのだ!?」
「迎撃部隊が完敗したからだよ。詳しくは彼女に聞いてくれ」
優斗の後ろから出てきたのは、彼女もよく知っている女性だった。
「姉上ですか?」
「そうだ。私も死にかけていたところを彼らに助けてもらったようでな。どうやったかはまだ聞いてないが、何とか私だけは助け出してくれたらしい」
「妾たちは姉上たちの援軍として向かっていたはずでした。ですが彼らに眠らされて……、気が付けばこの状態でした。できれば説明がほしいのですが」
「さっき言ったとおり私もまだ聞いていないのでよくわからないのだ。ただ一つ言えることがあるとしたら……、彼の言う通り私たち迎撃部隊が全滅してしまったことくらいだ」
「全滅……。つまり姉上以外は誰も生き残っていないと言うことですか?」
「たぶんな。というより私自身も死んだと思っていたのだ。なぜ私が生きているのかも含めて、そろそろ問いただしたいところだ。ちょうど妹も起きたことだしな」
第一王子が優斗たちのほうに目を向けると、四人を代表して優斗が説明を始めた。
「まず三人を眠らせたのは、彼女の話にもあった通り迎撃部隊が全滅したからだ。俺たち七人でまだ一万以上は残ってそうな敵の軍を倒すことなど無理だからな。そんなところに喧嘩を売っても、時間稼ぎすらできずに数の暴力で押しつぶされることが目に見えている。
だから迎撃部隊が全滅したことを確認した段階で、目標を敵軍の足止めから王子の身柄確保に切り替えたんだ。そのことをスムーズに運ぶために、三人を一度眠らせたんだ」
「撤退を選択した理由は分かった。しかし、それならば妾たちを眠らせる必要はあるまい。妾だって馬鹿じゃない。迎撃部隊が絶滅したことを知れば、当然撤退することに賛成していたはずだぞ」
「説明する時間すらもったいなかったんですよ。それに失礼ながら、まだ幼いあなたと我々では経験値が全く違う。早く正確な判断が要される状況では、いちいちあなたの意見を聞いていられないんです」
「うむ……。まあ一応納得はできるか」
王子は渋々納得はする。自分が足手まといだと言われていることは心外だったが、それに関しては王位継承戦での戦いから彼女自身も自覚があったため、その判断に強く反論することはできなかった。
「それならばなぜ姉上は救出できたのだ?迎撃部隊は全滅したはずであろう?」
「確かにそれは私も気になる。私たち、少なくとも私は敵陣の比較的深いところまで行っていたのだ。あそこからどうやって救出できたのだ?」
「まあ運がよかったんですよ」
「運だと?」
「ええ。信じがたいことかもしれませんが、迎撃部隊が全滅したタイミングで敵の軍に向かって数多の隕石が降り注いだんですよ。それによって敵の軍は半壊のうえ混乱に陥ったんです。だからその混乱の隙をついて、何とか息をしている者を連れてきたんですよ。
まあ隕石によって敵軍だけでなく何とか息をしていた迎撃部隊の者たちも死んだので、結局回収できたのは第一王子のみでしたが」
「それで私だけ助かったのか……。なんだか複雑な気持ちだな」
「お主らの説明は分かった。妾たちがここにいることに納得は言ったし、そのことに対しては何の文句もない。むしろ礼を言わせてもらう」
そう言って第十八王子は頭を下げる。それに続いて第一王子も頭を下げた。
「それと一つ聞きたいのだが、王都は一体どうなったのだ?襲撃者たちの行動が成功したのか?それとも、父上たちが敵を倒してくれたのか?」
「それは私も聞きたいぞ」
やはりそのことは気になるのだろう。二人とも身を乗り出して聞いてくる。
「……どうせいつかは知ることだしな。
王都は襲撃者を防ぐことができなかった。現在は第九王子がその部下や親族(当然王族ではなく伯爵家の関係者)を使って王都を治めているようだぞ。
この結末からわかる通り、今回の襲撃は第九王子やその実家が主犯、そうでなくとも大きくかかわっているようだな」
「兄上がか……」
「あの愚か者め!だがそう言われるといろいろ納得だ。あの愚弟の家には帝国の、それも皇族の血が入っている。帝国との関係は今も続いているようだし、その関係であの軍勢を引っ張て来たのは確実だな」
「姉上!今回の襲撃は帝国がかかわっているのですか!?」
「ああ。少なくとも私が戦った敵はそう言っていた。そしてあいつが王位についたとなれば、今回の敵の行動のすべてが繋がる」
二人とも敵に奪い取られた王都のことを思い暗い顔をする。しかし彼女たちが考えることはこれで終わりではない。これからのことを考えれば、二人は否が応でももっと暗い顔をしなければならなくなってしまうのだった。