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襲撃 18

「各地の戦況はどうなっている!?」


  大声で部下に呼びかけるのは、レムルス獅子王国の誇る大将軍だ。老いたとはいえいまだ迫力のあるその姿は、周りの貴族や兵士たちに多少の安心感を与えた。


「はっ!王都内部は現在ひどい乱戦状態であり、敵味方問わず数々の兵たちが死んで行きます。またそれだけでなく非戦闘員の民間人にも被害が出ており、逃げ遅れたせいで戦闘に巻き込まれて死んでしまった者も多数存在しております。

  幸いというべきか逃げてきた非戦闘員たちが集まっている場所には敵の攻撃が来ていないようですが、そこも襲撃されてしまえば、仮にこの戦を乗り切ったとしてもその後行われる王都の復興がかなり厳しいものになってしまうだろうと思われます」

「それは非常にまずいな。今でさえいろいろと壊されたり殺されたりしているのだ。残念ながらそれはまだまだ収まりそうではないのだな?」

「はい。各地の報告を聞くに、この混乱が収まるにはまだ時間を要すとのことです」

「しかし少し前に聞いた報告では、王都内の襲撃者たちは兵士や冒険者たちによって抑えられてきているという話ではなかったかね?」


  伝令兵の報告の矛盾を見つけた貴族の一人が疑問を呈する。


「確かに少し前まではそういう報告が上がってきておりました。しかしその後外から追加で千人を優に超える敵兵が王都に侵入してきたため、王都はまたさらに混乱してきました。

  しかもその千を超える敵の中にはかなり腕の立つ者も何人かいるようで、それを収めるにはかなりの時間がかかる可能性が高いのです」

「将軍たちはどうしたのかね?確か、今は三人とも王都にいたはずだが?」

「将軍は一人がまだ健在で王都内で指揮をとっており、もう一人は戦死が確認されております。そして最後の一人が行方不明、しかも限りなく戦死したに近い状況での行方不明です」

「前者の二つはわかるが、後者はどういうことかね?」

「後者の場合は戦場が王都の外であったことと、将軍の率いていた部隊が全滅した上にその戦から兵士が誰も帰還していないことから、おそらくは死んでいると思われるが、まだ死体は確認されていないので一応行方不明。普通に考えればほぼ確実に戦死ということです」

「つまり実質将軍は一人だけか……。そうなると残っているのは第一王子……ということになるのかね?」

「いえ……。生き残っているのは別の将軍です。王子は限りなく戦死に近い行方不明者のほうです」


  伝令兵のその言葉を聞き、今回の襲撃の対策本部として王城で襲撃者たちの対策を考えている者たちが驚きの声を上げる。

  特に驚いていたのがこの中では一番戦の経験のある百戦錬磨の大将軍であり、彼は年のせいで細くなってきていた眼を思いっきり見開いていた。


「しかしあの方は今の軍で最強のはずだ!それを倒せるほどの強者が敵にいるというのか!?」

「あのお方が倒されたのは多数の敵に向かって行ったからです。しかし襲撃者たちに強者がいるかいないかで言うと……、それは複数人いると言うしかございません」

「複数人だと?」

「はい。報告が上がってきているのは王位継承戦の決勝まで進んだ白金級冒険者パーティー、そして帝国のことをよく知る情報提供者が言うには、帝国にはナンバーズと言われる白金級冒険者以上の力を持った者たちが何人もおり、その中の数名がここに来ているそうです。

  幸いにも白金級パーティーのほうは第四王子が倒されたようですが、それでもほかのナンバーズたちはいまだ健在のようです」

「なんと!つまりこの襲撃は帝国によって引き起こされたと言うのか!?」

「そうでもあるしそうでないともいえるのぉ」

「誰だ!?」


  会議をしている獅子王国の者たちの前に現れたのは、一人の老人を先頭にした明らかに強者だとわかる雰囲気の者たちだった。


「ほう。これはこれは、ずいぶん久しぶりですな。何十年たっても相変わらずお変わりないようで」

「お主はかなり変わったな。昔はかわいい若者じゃったのに、今では儂と同じ醜い爺じゃ」

「醜いなど、私はとにかくあなたには似合わない言葉でしょうに」


  貴族たちはその老人たちの登場に驚いていたが、唯一その老人のことを知っているらしい大将軍が震える体を抑えながら、作り笑顔を浮かべてできるだけ朗らかに話しかける。


「儂が来た以上、ここがどうなるかはわかっておるじゃろうな」

「まあ大体は。そこで聞きたいのですが……この襲撃が帝国主導で行われたのだとしてもそんなには驚きません。ここまで大規模な作戦を行うにはそれなりの組織が必要でしょうから。

  しかし一つ疑問が。帝国は獅子王国を侵略して自国の領土にするつもりですか?こう言っては何ですが、かなり離れた飛び地になるのではないでしょうか?」

「確かに今回の計画の主要な部分はほとんど儂ら帝国が行ってきた。じゃがこの獅子王国を直接支配するのは儂らではないのじゃ。お主の言うとおりここは帝国から見て飛び地であるし、仮に王都を抑えたとしても民や貴族がそう簡単に帝国の言うことを聞くとも思ってはおらん。ここを抑えたとしても、また全国で戦や面倒な工作をしなければならなくなるじゃろう。

  そういうわけでこれからこの国を支配するのは儂らではない。これからこの国を支配するのは、ここにおる獅子王国のれっきとした王子じゃよ」


  老人がそう言うと、彼の後方から一人の獣人の青年が出てきた。


「これが獅子王国の新国王じゃ。どうじゃ?納得はしてもらえたかの?」

「その方が国王になることを認めることはできませんが、それでもあなた方のプランは理解しました。確かにそれなら、あなた方帝国が直接支配するよりはいくらかましでしょうね」


  後方から出てきた青年はこの国の王子。それも王位継承戦で決勝まで勝ち進んだ第九王子であった。


「そういうことだ。お前たちはどうする?僕につくかこのまま戦うか。僕はどちらでも構わないぞ」

「ふざけるな!お前のような売国奴が王を騙るな!!」

「そうだ!!王子だろうがなんだろうが、こんなことをすれば確実に死刑だぞ!」

「王位継承戦で勝てなかったからと言って、こんな卑怯な方法で王位を狙うとは。恥を知れ!!」


  貴族たちは、当然こんな方法で第九王子が国王になることを認めるはずがない。王子への罵倒はどんどんエスカレートしていった。


「僕もできればこんな方法はとりたくなかった。だが王位継承戦で負けてしまったんだからしょうがないだろう?

  僕自体は王位に対してそこまで思い入れがあるわけじゃないんだが、うちの叔父さんたちがどうしても王位を欲してるんだよね。まあ僕も国王になれること自体はうれしいから、そこまで困ってもいないんだけどね」

「一つ聞かせてもらってもよろしいでしょうか?もしこのクーデターが成功したとして、王子はこれから一体どうされるおつもりですか?」


  罵声を浴びせる貴族が多い中、宰相は冷静な目で王子に問いかける。


「そうだねぇ。まずは当然僕がこの国の王になったことを国中に宣伝する。そこからすぐ帝国と同盟を結び、その後王都の復興をしながら僕の国王就任に反対する貴族たちを順番につぶしていく。そうやって国を治めてから、国王としていろいろとやっていくつもりだよ」

「なるほど……。では帝国とはどういう同盟に?」

「?基本的には普通の友好同盟で行くつもりだよ。まあ場合によっては軍事同盟も組むかもしれないけど」

「そうですか……」


  宰相は第九王子を見て、今の態度が演技なのかどうか考える。まず普通に考えて、ここまでクーデターに手を貸した帝国がただの友好同盟などで終わらせるはずがない。まず間違いなく、実質属国にするような同盟を提示してくるだろう。

  そしてもしそんな条件を提示されたとしても、今の第九王子ではそれを断ることは絶対にできない。彼に今どれだけの貴族が味方についているのかはわからないが、それでもその貴族たちは国全体の半分にも遠く及ばないであろうことくらい宰相にも分かる。


  つまり彼が統治するにあたりまだまだ帝国の後ろ盾は必要であり、おまけに今みたいに帝国の軍事力を見せつけられた後で、彼が帝国の言うことに逆らえるわけがないのだ。


  彼がそれすらもわからない愚か者なのか、それとも帝国を出し抜くためにあえて馬鹿のふりをしているのか。宰相は目の前の王子を測りかねていた。


「それでみんなはどうするんだい?ちなみに、もうこの城はうちの兵が制圧済みだけどね」


  扉からさらに第九王子派の兵士たちが入ってくる。そして王城だけでなく、すでに王都自体が彼らの支配下に入りつつあった。


「我々は誇りある獅子王国貴族です。それを踏まえていただければ、あなたにも我々が何を選択するかはお分かりですね?」

「そうか……。残念だよ」


  こうして国王とその重鎮たちを含む旧勢力は崩壊し、新たに第九王子とその親戚たち、そしてクーデター前から彼につき従ってきた貴族たちが、獅子王国の中心たる王都を支配することに成功した。


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