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襲撃 17

「老師様、これから我々はどうすればよろしいのでしょうか?」


生き残った、というより今会話ができる騎士(死んでいる騎士はもちろん多いが、その他にもまだ生きてはいても意識を失っていて口がきけない騎士もいる)の中で、最も地位の高い騎士が老人に意見を伺う。

老人は騎士団所属ではないが、それでも帝国内における影響力は死んでしまった第一軍の将軍すらも上回る。そのため老人の意向を無視することはできず、騎士団でもそこそこの地位しか持っていない騎士ではむしろ老人に従うほか道がなかった。


「結論は二つしかないじゃろう。ここから引くか王都に向かうかじゃ。幸いと言っていいのか、現段階で敵の追撃は来ておらん。じゃから、今ならどっちを選んでも大丈夫そうじゃな」

「ではどうすれば?」

「正直言えば今すぐにでも引きたい。こちらの被害も大きいし、すでにこの戦は勝ち戦になるか分からなくなってきた。軍の被害はどれくらいじゃった?」

「正確な数はまだわかりません。しかしおそらく死者だけでも半分以上、それ以外にも重軽傷者などもいるので、今からまた王都に侵攻できるのは三千人程度。軽傷者たちと重傷を受けている者たちの中でも比較的度合いの低い者を回復させて、無理やり引っ張ってきたとしてもおそらく二千名程度しかプラスになりません。

また回復させるのにも当然物資が要りますので、仮に五千名で侵攻したとしても物資が足りない可能性がございます。というより、あの隕石によってすでに物資も半壊しております。また騎士たちの状態も悪く、満足に使える戦力はほとんどないかと」


隕石が騎士団に与えた影響は計り知れない。また騎士団(魔法師団も含める)の中には動くことはできても、これまでの行軍や迎撃部隊との戦闘、そして隕石による精神的及び身体的疲労によって動きの重い者がたくさんおり、数字上だけでなくそれ以外の点での被害も無視できるものではなかった。


「ふむ。つまり現在魔法師団の団員も含めた騎士団はほぼ壊滅状態であり、その力は半減どころか八割九割削がれているということじゃな?」

「騎士団だけでみるとそうです。しかし今ここには老師様がいるため、全体の戦力的に言えば半減といったところかもしれませんが」

「当然のことじゃが、ここにいる者たちの中には今撤退しないと助からない命もあるのじゃろうなぁ」

「それは確かです。普通の戦争なら、間違いなく敗北と言っていい被害を受けました。仮に目の前の王都で略奪を働いたとしても、それで負傷した騎士たちを回復させられるかは疑問が残ります。

それにこの戦力では王都の制圧も難しくなります。もし失敗すれば当然我々もさらに被害を受けますし、今は何とか命を保っている者たちも手遅れになって死ぬ可能性もあります。ここにいる者たちの命だけで言うのなら、敵の追撃が来る前に一刻も早く撤退すべきだと考えます」

「そうじゃなぁ。ここにいる者たちのことだけを考えれば、そうなるのは確かじゃな」


この意見には皆納得したようで、話し合いの場にいる者たちは一様に頷いている。


「じゃがそうなると、今度は今現在王都で戦っている者たちが危険になってしまう。儂らはここから逃げればこれ以上被害が出んかもしれんが、その代わり儂らの援護がなければ、今王都にいる者たちは苦戦を強いられてしまうことになる。そうなると、逃げるのもまた良くない手になってしまうのぉ」


皆この意見にも皆賛同する。つまるところ自分たちの安全を重視して撤退するか、今敵の王都で必死に戦っている仲間のために頑張って王都に向かうかだ。とは言え王都に向かえば、今ここにいる者たちの被害がまた大きくなることも必至だ。


話し合いをしている者たちは、どちらを選んでも仲間や自分が危険になるという、どこにも逃げ場のないこの二つの選択肢に頭を悩ませていた。


「どちらを選んでもメリットとデメリットがあるわけですか……。老師様、一体どうなさいますか?」


話し合いに参加している騎士たち、そして魔法使いたちも、皆自分の意見を言おうとはしない。もちろん一人ひとり考えはあって、様々な理由からどちらかを心の中では選択している。

しかし皆自分の中にある意見は一切言うことなく、判断を老人一人に任せようとしている。


この判断は非常に重要な判断だ。どちらを選んでも損する者が出てくることになり、また帝国でも批判される対象になりえる。

今話し合いに参加している騎士たちの地位はそれほど高くなく、また魔法使いたちも全員老人の部下である。地位のあまり高くない騎士たちにはこの判断の責任を負う勇気が持てず、同じく重荷を背負いたくない魔法使いたちも自分の上司にあたる老人の判断に任せていた。


「上に立つ者として、ここで儂が判断を下すのは当然の責任じゃな。そうじゃのぉ……やはり、このまますすむしかないのじゃろうなぁ」

「このまま王都に向かうのですか?」

「そうするしかないじゃろう。ここまできたのじゃ。もはや後戻りも難しいじゃろう」

「かしこまりました!では、他の騎士たちに王都に侵攻することになったと伝えてきます」


そう言って騎士たちは、大打撃を負った騎士団の再編成に動き出す。そしてその場に残った老人を中心とする魔法使いは、騎士たちの背を見ながら今後の方針を考えていた。


「師団長、これからどのように侵攻していくのですか?」

「基本的にはこのまま正面から侵攻していくつもりじゃ。その後王城を目指しながら敵を減らしていき、最終的に王族をすべて捕らえるか殺すかして王都を占領するつもりじゃ」

「なるほど。当初の予定通りということですね?」

「そうなる。しかし問題は今の隕石が自然災害なのか、それとも人為的なものなのかじゃな。自然災害ならば問題はない。しかしもしも今のが人為的なものじゃったとしたら、あの王都にはものすごい兵器かそれに匹敵する人間がいるということになるのぉ」

「今のが人為的に起こされたのですか!?そんな……そんなことができる者が存在しているのですか!?」


魔法使いたちが全員驚きの表情に染まる。彼らの知識にはあれほどの規模の攻撃ができる魔法やスキル、そして兵器には心当たりがなく、さっきの隕石はものすごく運が悪かったのだと思っていた。


「わからん。少なくとも、儂の使える魔法の範囲ではあんなことは行えん。しかし、世界というのは思いのほか広いものじゃ。もしかしたら、儂らの知らない強大な魔法や兵器があったとしてもおかしくはないと思うがのぉ」

「何を言っているのですか。師団長は間違いなく最強の魔法使いです。仮に今のが人為的に起こされたものであったとしても、さすがにあれを魔法で行ったとは思えません。おそらくは、獅子王国の作った何らかの兵器によるものでしょう」

「そうかのぉ。儂より強い魔法使いがおってもおかしくはないのではないか?それに儀式魔法を使えば、お主たちでも儂並かそれ以上の魔法を放てるじゃろう?」

「確かに複数人で協力して行う、もしくは何かを犠牲にして行う儀式魔法ならば、師団長の言う通り我々でも強力な魔法を使うことができます。しかしだとしてもあれだけの規模の魔法を放つのは不可能なはずです。

ましてこの国にいるのはほとんどが魔法の苦手な獣人ばかり。いくら儀式魔法でもあれはないでしょう。それにもしもあれが使えたとして、どうして初手から使ってこなかったのですか?もし初手からあれを使われていれば、下手したら我々は全滅していました。そうでなくとも今よりも大きな被害を与えられたのは確実なはずですし、さらになぜ我々が疲弊している今追撃が来ないのかも気になります。

やはりあれは人為的なものではなく、我々にとって不幸な、そして獅子王国にとっては幸運な自然災害だったのではないでしょうか?」

「それも一理あるの。じゃが、もしも向こうの迎撃部隊が隕石発動までの時間を稼ぐ役割を持っていたとしたらどうじゃ?そして今追撃が来ないのは、王都で儂らの仲間が頑張っておるからかもしれんぞ。あれほどの魔法を使うには、当然それ相応の準備時間が必要じゃろうからのぉ」


魔法使いたちの話は推測の域を出ない。結局真偽を確かめるには自分の目で見るのが一番なのだが、仮にそんな兵器がなかったとしても儀式魔法、もしくは規格外の存在による魔法やスキル等の可能性が完全に除外されるわけではない。


魔法使いたちは生き残っている迎撃部隊の面々に話を聞こうとしたが、彼らも騎士団にやられた傷や隕石により全員が死に絶えており、そこから情報収集することもできなかった。


「まあ王都に入れば、少なくともさっきのような隕石を食らうことはないじゃろう。儂らに敵対した、おそらくは獅子王国側だと思われるあの攻撃を、まさか王都に直接使うはずがないじゃろうからのぉ」

「ですがあれを一人で行った魔法使いなりが獅子王国側にいれば、今度こそ我らも全滅するのではないでしょうか?」

「例えそうだとしても、逃げて捕まれば同じことじゃ。それにあれだけのことをしたのじゃ。さすがに魔力の消費が激しいのではないか?ならば、今こそ殺す最大のチャンスだともいえる。もしあれを帝都でやられたら、帝国の受ける被害はものすごいことになるぞ」

「進む以外に道はない!ですか……」

「そうなるのぉ。まあいろいろ思うところはあるじゃろうが、最低限の覚悟は決めておくんじゃぞ。これはもはや圧倒的な勝ち戦ではなくなってきておるんじゃからな」

「かしこまりました」


魔法使いたちはいろいろ話し合いながらも、騎士たちの準備ができるのを待つ。力は持っているが騎士団に在籍しているわけでも騎士団のことに精通しているわけでも無い魔法使いたちは、これから騎士団をスムーズに再編するためには邪魔な存在であった。

そのため魔法使いたちは騎士団の邪魔にならないところに移動し、王都に入った時の自分たちの動き方などを相談していた。


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