襲撃 16
急に降り注いだ数多の隕石によって被害を受けた帝国騎士団第一軍。彼らは隕石によるダメージや混乱による自滅(隕石から逃れるために必死で逃げようとして仲間とぶつかったり、それによって転んでしまった仲間を踏みつけてしまう。また馬などの騎士団以外の生物も混乱により暴れてしまう)によって、いまだにかなりの犠牲と混乱が生まれ続けていた。
そして隕石が降り注ぐのが止まった今でも混乱は収まっておらず、隕石が降ってきていないにもかかわらず犠牲は止まらなかった。
「何とかしてこの混乱を抑えないと……。でも、僕の力じゃ何にもならないしな」
運良くまだダメージを負っていない見習い騎士の少年は、混乱し続けている同期や先輩たちを見ながら自分の無力感を味わう。
彼は自他共に認めるほど肝が太く、隕石が降ってこようがほとんど動じることはなかった。そもそも隕石が直撃すれば自分の力では一瞬で死んでしまうし、降り注いでくる隕石から逃れようとして移動しても今度はその移動した先に隕石が降ってくるかもしれない。しかもこのような密集している場では、焦って動いても周りの人が邪魔でうまく動けなくなる。
彼はどうせあがいても同じだからと思い自分の立っていた位置からほとんど動くことはなく、逃げるのもどちらかと言うと隕石からではなく、混乱している騎士たちに巻き込まれないように逃げていた。
そうやって冷静さを保っていた彼は冷静であるからこそ今の状況のひどさを悟り、また見習い騎士であるが故実力的にも権力的にもこの混乱を収めることのできない自分の無力さを痛感した。
「まずは将軍だ。将軍さえいれば何とかしてくれる」
各騎士団で一番権力を持つのは将軍だ。見習い騎士の自分ではできないことでも、雲の上の存在である将軍ならやってくれるだろうという期待があった。
「将軍は確かここに……」
見習い騎士は将軍がいるはずの場所までたどり着く。しかしその場所はちょうど複数の隕石によって直撃を受けており、そこに生きた人間の姿はなかった。
「いや、まだ大丈夫だ。将軍が危険地帯から逃げたという可能性は残っている。早々に見つけて、早くこの騒ぎを抑えてもらわなければ」
見習い騎士はそう言って再び将軍を探し出そうとするが、一人の老人の声でその歩みを止めてしまう。
「そんなことをしても無駄じゃよ。あ奴はもう死んでしまったじゃろうからな」
見習い騎士が後ろを振り向くと、そこには彼もよく知る帝国最強の魔法使いがいた。
「本当……ですか?」
「本当じゃ。儂もお主のようにまずあ奴を探したのじゃがな。残念ながら見つからんかった」
「では今の状況を収められるのは!」
「まあ儂しかおらんじゃろうな。時間をかければいずれ収束するといっても、犠牲を減らすためにもなるべく早いほうがいい。我が魔法師団の面々もかなり混乱しておるようじゃし、ここは無理やりにでも落ち着いてもらうしかないようじゃの」
「お願いします」
「うむ。しかしお主は若い癖にやるではないか。この状況でも落ちついていられるのは、かなりの場数を踏んだからか?身分は見習い騎士のようじゃが、騎士団に入る前にいろいろあったのかのう?」
「そういうわけではないです。ただ生まれつき、他人より肝が太いだけです」
「そうか。若いくせにまるで儂ら老人のようじゃったから、修羅場をたくさんくぐったか若者か、エルフのような長命種の血が混じった見た目よりも高い年齢の人間かと思ったぞ」
「そういうわけではないのです」
「ならばお主に儂の作業を手伝わせることはできんか。しょうがない。儂一人で若造共の混乱を抑えるとするか」
そうして老人、いや帝国で誉れ高いナンバーズの一員であり、その中でも2の数字と『魔道王』の二つ名を持つ帝国最強の魔法使いが、その魔法を持って混乱していた者たちを無理矢理正気に戻していった。