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襲撃 15

「ふう。ここまでくれば、ひとまずは安心だな」


  女魔法使いを運んできた王子は、とりあえず敵を撒けたことを確信して女魔法使いを降ろした。


「ずいぶん遠くまで逃げましたね」

「まあな。あれ以上あの場にいてもめんどくさくなるだけだし、それに距離的にも奴らの感知できるであろう範囲から余裕を持って逃れるには、最低限ここまでくるしかなかったからな」


  二人は王都からは出ていなかったが、それでも先ほどまでいた場所からはかなり離れた地点にいる。都市として国一番の面積を誇る王都はそれ相応に広いため、同じ王都内であってもかなり離れることができたのだった。


「でも敵を前にして逃げるなんてらしくないですね。あなたは相手が強ければ強いほど燃えるタイプなので、()()()()()()()私のことは考えずに戦いを了承するのだと思いました」

「なんか言い方に棘がないか?」

「そうでしょうか?私は事実を言っているだけのはずですが?」

「やっぱ棘があるような……」

「それで、どうして逃げたのですか?」

「そりゃ俺だって、いや俺だからこそ敵の強さが良くわかるんだよ。あの二人を相手にして絶対に勝てねえとは言わねえが、それでもかなり厳しかっただろうな。本当に全力を出してようやくだ」

「なら全力を出せばよかったのでは?それに私たちは一歩間違えたら死ぬというような修羅場も潜った、いや私にとっては()()()()()ことがありますし、あなたのせいで絶対向こうのほうが格上だと思われる相手と戦い、そして負けたこともあります。

  それなのになぜ今回は逃げたのですか?あなたの言う通り、私たちが勝てない相手ではけっしてなかったはずですが?」


  女魔法使いは皮肉も混ぜながら問い詰めていく。


「あの場で勝つにはあれを使わなきゃならなかっただろ?でも今の未熟な俺じゃあまだあれを完全には制御できていないうえに、使った後の消耗が激しすぎる。

  今は味方だけでなく敵もたくさんいる戦場だ。だが俺たちに援軍が来る気配はまったくなく、むしろ援軍要請される始末。そうなると仮にあの二人を倒せたとしても、その戦いで受けた傷や疲労を癒している間にまた別の敵と戦わなければいけないことになるのは目に見えている。

  俺もさすがにそんな連続で戦い続けることはできねえし、今だってあの白金級パーティーとやりあった疲労は回復しきってねえ。

  そういうことを考えたら、やっぱりあいつらと戦うのはごめんだな。それに俺は自分より弱いのが複数より、自分と同格かそれより上の個人と戦うほうが好みだ。今俺がもっとも戦いたいのは、こないだ見た『インフィニティーズ』にいた獣人の少女だな」

「まあそれならいいです。私も今は戦いたくなかったですから」

「そりゃそうだ!なんたってお前は結構ダメージを受けていたからな!!」

「笑い事じゃないのですが……」


  どこか楽しそうな王子を、女魔法使いが恨めしそうな目で見る。


「それで、一体これからどうするんですか?」

「どうするかなぁ~。ナンバーズを三人も出してくるなんて、今回の帝国はよっぽど本気だしな。しかもまだほかにもナンバーズがいる可能性もあるし、その部下たちだって今王都にいるので全部ではないよな。だとすると……もう王都の防衛は不可能か?」

「その部下たちの数や錬度にもよるのでは?まあもし十分な数の騎士と魔法使い、それにナンバーズのトップ4が一人でもいたら、さすがに今の王都の戦力ではおそらく不可能。願うなら『インフィニティーズ』が私たちの予想よりもはるかに強くないと無理ですね。

  あなたの言う通り獣人の少女があなたより強いとしても、さすがに帝国のトップ4に勝てるかは分かりませんから」

「『絶対防御』と『白騎士』、それに『魔道王』と『気まぐれ騎士』か……。『絶対防御』は他国への侵攻と言う今回の帝国の作戦上絶対に来ないとして、帝国の近衛騎士である『白騎士』も皇帝がここに来ていない限りは来ない。まあ反対に皇帝が来て居たらほぼ確実に来ているということだが、さすがに皇帝がここまでは来ないだろう。

  そうなると後は『魔道王』と『気まぐれ騎士』だが……、普通に考えたら来る可能性が一番高いのが『魔道王』、だが『気まぐれ騎士』はその名の通り気まぐれで来る可能性もあるか。

  まあどちらにせよ誰が来ても今の俺じゃあまだ勝てないし、どっちも強い上に直接戦ったことがないから『インフィニティーズ』とどっちが強いかわからん。

  まあこれからはナンバーズと出会ったら基本逃げることにしておけばいいんじゃないか?そんで王都がいよいよやばくなったら、親父たちには悪いが逃げさせてもらうとするか」

「なんか情けないですね」

「言うな。俺だってそう思うさ。でも、さすがにそこまで命を張るほどでもねえんだ。まあ亡国の王子とか言うめんどくせえ肩書きが付いてほしくはないが、さすがに死ぬよりはましだろうさ」

「なんだか私たち、貴族や王族じゃなくてちゃんとした冒険者らしいですね」

「だな」


  二人はそう言ってお互いに笑いあう。


「ではもう一働きしま……」

「どうした?」


  女魔法使いは急に動きを止め、驚いた顔で空を見つめる。彼女は完全に空に夢中であり、王子からかけられた言葉を返そうとしないどころか、それが耳に入った様子すらなかった。


「おい!返事しねえか?」

「……」


  何度呼びかけても返事をしない女魔法使いを見て不審に思った王子は、なんとなく彼女が見ている空を見ることにした。


「………………おいおい。まじかよ」


  王子は空を見てそのあまりの光景にしばし思考停止した後、女魔法使いが自分の言葉を全く聞かないほど驚いていたことを悟り、その原因を強く理解した。


「こんなことあるか?」


  二人の目に映っていたのは、数多の隕石が王都近くのある場所に集中的に降り注いでいる光景だ。そしてもちろん彼らだけでなく、それを見た者は種族に性別、年齢や所属している組織などにかかわらず、皆驚きの感情しか表すことができなかった。その瞬間、まるで王都の時間だけが止まっているかのようであった。



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