襲撃 14
「ナンバーズとはいえ、所詮はこの程度か。まあ数字的に見てナンバーズ最弱なのだろうが、それでもこの程度でしかなかったか」
第四王子は、目の前で身動きが取れなくなっている白金級冒険者パーティーを見る。四人の生死は不明だが、それでも四人のうち三人は少なくとも気を失っていてすでに意識はなく、唯一まだ意識が残っているリーダーも地面に倒れ伏していて、地面から第四王子の姿を見上げるしかなかった。
「こいつらにはいろいろ聞きたいこともあるが……俺も姉貴のほうの手伝いとかもしなくちゃならねえし、ずっとこいつらをとっ捕まえておくわけにはいかねえか。牢屋にぶち込もうにもそこまで運ぶのがもう面倒だしな。
よし!思うところがないわけではないが、念のため息の根を止めておくか。こいつらの仲間が来て回復されたら面倒だし、そうでなくとも余計な恨みは買いたくないしな。ここで殺しておいたほうが安全だ」
王子はすでに倒れている四人に、とどめを刺すべく近寄っていく。
「!?」
四人に近寄っていた王子だったか、不意に上空から殺気を感じて素早く後退する。すると王子のいた場所に一本、倒れている四人にめがけてそれぞれ一本ずつの槍が降り注ぎ、かわした王子以外の四人に槍が刺さった。
「誰だ……?」
唯一まだ意識のあるリーダもすでに虫の息であり、何とか顔を上げて第四王子以外に自分たちに槍を刺した者の姿を見ようとした。
「ふんっ!まだ息があったか。さすがどんな呪いを受けてもものともしない変態だ。その生命力はゴキブリ並みだな」
上空には、騎士団から離れて先に王都に入っていた竜騎士がいる。
「お前は……。なぜ味方であるはずの俺を殺そうとした。それに、俺の仲間たちを殺したのはどういう了見だ!?お前とは確かに身分や所属が違うが、それでも同じく皇帝に仕えるナンバーズのはずだ!!」
「ああ。確かにお前は仲間だったよ。だがだからこそ、余計な情報を吐く前に殺したんだ。いや、肝心のお前がまだ死んでいないから、殺そうとしたというべきかな?」
「そんなことどうだっていい!!竜騎士のお前なら、俺たちを背負って逃げることもできたはずだ。それに仮に背負って逃げてはくれなくても、わざわざ殺すことはねえだろうが!?」
「うるせえなあ。負けた奴は、とっととおとなしくしてりゃいいんだよ!」
「なんだと!?」
二人が言い争いを始める。なんとなく出るタイミングを失った王子たちは、黙ってその言い争いを見ていた。
「ん?あれは」
しかしここで女魔法使いが、倒れている冒険者たちの異変を感じ取る。
「あれはまさか……」
「ん?どうかしたか?」
「そうですね。一度試してみます。〈火球〉」
女魔法使いが、倒れている冒険者たちに魔法を放つ。
「ちっ!ばれたか」
するとこれまで地面に横たわりながら竜騎士と言い争いをしていたはずのパーティーリーダーが、俊敏な動きで仲間の前に立ち、火球を体で受け止めた。
「もう動けるようになったのか!?」
「いえ。たぶんそうじゃありません。彼は外部からの回復によって動けるようになったのです」
「外部からの回復?」
「はい。見たところあの槍は敵を攻撃するのではなく、その槍が刺さった対象を回復するのだと思われます。なのであの四人は槍に貫かれてとどめを刺されたわけではなく、むしろ槍を刺されたことによって回復しているのです」
冒険者たちをよく見ると、確かに槍が刺さる前と後では顔色が違う者がいる。顔色の良くなった者は槍によって回復した者、変化のない者はよっぽど重症かすでに死んでいて手遅れの者だと思われた。
「そういえばあの槍、よく見ると刺さっているにもかかわらず血が流れてないな。すでに動けなくなっていたはずの奴が動いたのだから、あの槍の効果で回復しているのは間違いなさそうだ」
「ですね。あなたに向けて放たれた槍は普通の攻撃用の槍でしたから、なおさら騙されてしまいました。彼らが口論していたのも、四人が回復する時間を稼ぐためだとみて間違いなさそうですね」
相手が徐々に回復して言っているのならば、二人が取るべき手は一つ。敵が完全に回復する前に攻撃を食らわせることであり、二人は倒れている冒険者たちに向かって攻撃を開始した。
「くそったれ。もう少し騙されろってんだ」
「まったく。お前の猿芝居が臭すぎるせいだぞ」
対する二人も戦闘態勢に入る。
「本当に何度も何度も戦闘に入らされるな。もうそろそろ休ませてくれてもいいだろうに」
「こればかりは相手の都合がありますからね。逃げるか死ぬかしないと終わりそうにありませんよ」
「そうだな。また新しい客も来たことだしな!」
そう言って王子は、自分の後ろに向かって思いっきり爪を振るう。
「!?」
するといつの間にか王子の後ろに来ていた黒装束の者が一人、その爪に切り裂かれて血を流した。
「ほーう。よくはわからんが、この状況で俺を狙おうとした以上、おそらく帝国の暗殺部隊ってところか。そっちが先に殺そうとしてきたんだ。自分が死んでも文句は言わねえよな!」
王子が黒装束を殺そうとするが、それはまたもや現れた別の黒装束の者に防がれる。
「またか!本当帝国の奴らはタイミングが良すぎだろ!どんだけとどめの邪魔してくんだよ!?」
「父親並、いや下手したらそれ以上の感知能力、もしくは野生の勘か?真っ向勝負だけでなく暗殺すらも退けるとは、さすが天才と呼ばれるだけはある。ますます放ってはおけんな」
見ると複数の黒装束をまとった者たちが、倒れていて動けない冒険者たちを回収して去っていく。王子たちは竜騎士や王子の爪を止めた黒装束たちのせいで動くことができず、冒険者たちが回収されていく様を黙ってみているしかなかった。
「ちっ!これ以上やると面倒だ。お前らもどうせナンバーズなんだろ?さすがにナンバーズと連戦はしたくないんだが!」
「さすがに分かったようだな。俺も、そんでもってそこにいるお前の爪を防いだ黒装束もナンバーズだ。しかも番号はパーティーメンバーと一緒に撤退した奴よりも上、つまりお前たちと戦ったあいつよりも強い二人だ。まあもっと言えば、そこの黒装束より俺のほうがナンバーは上なんだがな」
「……ナンバーの上下はそこまで関係ない。俺とお前では得意分野が違うだけだ」
「何言ってやがる!それでも俺のほうが上なのは事実じゃねえか!!」
「……俺は暗殺者でお前は騎士だ。正面から戦うのでは負けていても、なんでもありの暗闘になれば負けない」
「なんだと!?」
「それに十番から五番までの差はほとんどない。お前だって、四番以降には全く敵わないはずだ」
「だがお前よりは上だ。俺が五番で、お前が七番だろ!?」
「もういい。こんな口論をしている時間ももったいない。とっとと任務を終わらせてしまおう」
この場に唯一残った黒装束がやれやれといった風に首を振る。その顔は隠されているが、それでも呆れているのが装束の上からでも分かった。
「悪いがお前らにはもう付き合ってられん。俺もさすがに、これ以上お前らと関わり合いになりたくない。もうこんなことを続けるのはごめんだ」
そう言って王子は獣化したまま女魔法使いを抱えて、二人の間をすり抜けて逃走する。
「な!?おいお前!俺から逃げんのか!?」
竜騎士が大声で呼びかけるが、もはやその返事は帰ってこない。獣化した王子のスピードは圧倒的であり、竜騎士はもちろん黒装束も追い付ける気がしなかった。
「おい何してる?お前が追わねえでどうするよ」
「無理だ。敵に見つからないよう隠密しながら速く走ることはできるが、今みたいに単純に速い速度を出されれば追い付けん。さすが獣化した獣人だ。あの身体能力は脅威だな」
「ちっ!じゃあこれからどうするよ!?」
「一旦奴らは放っておこう。口ぶりからしてしばらくはこちらにかかわるつもりはない。いや、もしかしたらこの王都からすらも出ていくつもりかもしれん。
そうなってくれればこちらも好都合だ。こっちはこっちで、本来自分たちがするべきだった仕事をしようじゃないか」
そう言って黒装束は闇に紛れて消えていく。
「くそったれ」
黒装束の言葉に思うところが全くないわけではなかった竜騎士だったが、今の状況だと彼の力ではそうすることしかできないのもまた事実であり、内心でイラつきながらもなんとかそれを消化した竜騎士は、ワイバーンに命じて再び大空を飛んだ。