襲撃 13
第一王子によって組織された迎撃部隊はなんとか敵の大軍に近づくことに成功し、そのまま接近戦で敵の大軍をかき乱していく。
「総員!同士討ちに気を付けながら敵を確実に殺して行け。数はこちらが圧倒的に上回っているのだ!落ち着いていれば必ず勝てるぞ」
迎撃部隊は、もともと百人にも満たない少数の部隊だった。その上老人による〈爆裂〉で各自が大なり小なりダメージを受け、しかもそれによって死んだ者までいる。
迎撃部隊にいる面子がある程度腕が立つことはわかっているが、騎士団側としては元々少ない上にさらに弱ってもいる部隊との戦闘では、できるだけ被害を出したくなかった。
そのため騎士団は乱戦による同士討ちを警戒し、敵を一人ずつ確実に殺していくように動いた。
「!?おいお前たち!将軍のもとへ向かう獣人たちを止めろ!こんな無謀すぎる突撃を受けて、指揮官である将軍を殺されたとなれば生涯の恥になるぞ!!」
迎撃部隊の目指す先は当然敵指揮官の首だ。全員でひたすら敵指揮官の首を狙うのは、少数対多数で戦う時の鉄則みたいなものである。しかも今回のように正面からぶつかるとなると、なおさら敵指揮官の首ばかり狙うようになるのは至極当然のことであった。
「最後の悪あがきか……。一体どうなるかのう」
老人は空を飛んで上空から、約一万五千の騎士団の中に迎撃部隊の獣人たちが入り込んで暴れている光景を見る。
またほかの魔法使いたちも飛行魔法が使える者は彼と同じように空からこの光景を見物し、飛行魔法が使えない者はなるべく戦い起こっているところから離れていく。
基本的に魔法使いは乱戦であまり機能しない。乱戦では範囲魔法を使ったり、敵に魔法をよけられることで味方にあたってしまう同士討ちが起こりやすく、またそもそも大抵の魔法使いは近接戦闘が苦手なため、乱戦では敵にすぐやられるか味方ごと攻撃してしまうことになりやすい。
つまり魔法使いが乱戦しているところにいると邪魔になることが多いので、それを自覚している魔法使いたちは騎士たちの邪魔にならぬよう、各々自主的に戦場から離れていった。
「やるのう。これは本当に敵指揮官までたどり着けるかもしれぬな。まったく、これほどの若者たちが死んでしまうとは……やはり戦と言うのは、あまり誉められたものではないの」
老人は迎撃部隊の奮戦を見て感心する。そして彼らが最終的には死ぬ、もしくは自分が殺さざるを得ないであろう未来を想像して、それに対して嘆き悲しんだ。
「皆!死ぬまで足を止めるな!最後まで戦え!!」
迎撃部隊はものすごい勢いで騎士団の奥深くまで進む。途中で何人倒れようがお構いなく進むその姿はまさに死兵であり、騎士たちはその姿に少し怯むと同時に、祖国のためにここまでできる迎撃部隊の面々にある種の称賛も送っていた。
「やるではないか!他国とは言え、同じく国を守る兵士としてお前たちを誇りに思うぞ。だがその快進撃もここまでだ。さすがにこれ以上進まれるのは、帝国騎士団として名折れだからな」
敵の奥まで進み続ける迎撃部隊の前に、彼らが蹴散らしてきた騎士たちよりも明らかに強そうな兵士たちが重装備で待っていた。
騎士団は敵が自分たちの指揮官である将軍を狙うであろうことには当然気づいており、万が一軍の中に入られて乱戦になってしまった時に備えて、あらかじめ軍を二つに割っておいたのだ。
「帝国騎士団!つまりこの襲撃は帝国の仕業か!?」
「そうだ!死に行くお前たちにはこれくらい教えておいてやる。これが勇敢で忠実な兵士たちへの最後の手向けだ!!」
こうしてぶつかり合った迎撃部隊と帝国の騎士団は、双方に想定外の被害(敵を足止めし、少しでも敵の数を減らしできれば敵軍を壊滅させることを狙っていた迎撃部隊は全滅、敵との戦力差からして、自軍の被害がほぼゼロで乗り切れると思っていた騎士団の被害は、死者二百名、重軽傷者三百名)を受けて終わりを告げた。
「想定外の被害を受けたが、これでようやく王都まで足を運べる。我々が王都には入りさえすれば、それで勝ちは揺るがないだろう」
騎士団の面々は勝ちを確信し少し気が緩む。しかしとある異変を感じなんとなく空を見た魔法使いたちは、そこから降ってきている物体に目を丸くする。
「あれは……隕石……なのか?」
空から降ってきたのはたくさんの隕石。それを目にした者たちはあまりの光景に一瞬止まってしまい、そして気づいて逃げ出そうとしたころにはすでにその隕石たちが地面に激突し、その直撃や激突時の衝撃を受けた騎士団は大混乱に見舞われた。