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襲撃 12

「ほう。さすがは、わずか百にも満たない人数でこの万を超える大軍に向かって来ようと思うだけはある。爺の最上級魔法を受けても、まだ息をしていられる者が半数以上もいるとはな」


  竜騎士は上空から爆炎に飲まれた迎撃部隊を見て、まだ息をしている者が自分の予想以上に多いことに感心していた。


「老師!そんな魔法を放つのなら、我々にもあらかじめ言っておいてください。幸い死者はいませんが、爆発の余波により軽い火傷を負った者、そしていきなり起こった爆発に驚いたせいでケガをした者がいます。特に馬などの騎獣の一部が驚いたせいで、軍が多少混乱しました。幸い敵からの攻撃などもなかったため何とか抑えることができましたが、次からはちゃんと伝えておいてください。

  我々も敵に殺されたならともかく、味方の魔法で、しかも自分に放たれたのではなく敵に放たれた際の余波で死んでしまうとなると、さすがに死んでも死に切れませんから」


  大軍の中にいる一人の騎士が老人をたしなめる。


「それはすまんかった。儂もできるだけ味方の被害がないようにと思ったのじゃが、どうやらやりすぎてしまったようじゃ」

「勘弁してください。あなたの魔法、それも最上級魔法は、まさに帝国の誇る強力な兵器なのですから。それを直接受けずとも、その余波だけでものすごいのですから」

「悪いのぉ。それで、もう軍は動かせるかのぉ?」

「どうなのでしょうか。後ろにいる将軍からまだ指示が飛んでこないので、騒ぎを抑えることはできましたが、まだ軍全体の態勢は整っていないのかもしれません」


  帝国には騎士団が四つ存在しており、それぞれに見習いを含めて約一万五千人もの騎士を抱えている。それらは第一軍、第二軍、第三軍、第四軍と呼ばれており、四つの騎士団の間には上下関係がなく、騎士団同士は基本的に対等である。

  そして当然それぞれの騎士団の中には上下関係が存在していて、それら各騎士団のトップに立つのが将軍だ。またその下には、大隊長なり隊長なりといった階級も存在している。


  今回動員されているのは四つある騎士団のうちの第一軍丸々であり、さっき老人をたしなめたのは前線を任されている隊長の一人であった。


「ちっ!もう面倒くせえから俺は行くぜ。お前らはその後からついてこい」


  そう言って竜騎士は、まだ全滅してはいない迎撃部隊を無視して王都内に向かおうとする。


「ちょっと待っていただきたい。このたびの襲撃は、我々騎士団が主導のはず。いくらナンバーズの一員であるあなた様であろうが、緊急時以外は将軍の指示に従うのが道理では?」


  今回の襲撃で一番動員数の多いのは第一軍だが、今王都やその周辺にいるのは騎士団だけでなく、他の帝国の部隊も動員されている。

  例えばここにいる竜騎士は騎士団とは違う部隊の所属である。彼はワイバーンだけでなくその他の空を飛べる騎獣に乗った者たちが所属している部隊の隊長であり、騎士団とはまた違ったところの所属である。他にも魔法使いの老人は帝国の魔法師団の師団長であり、現在騎士団に交じって一緒に行動している魔法使いたちや、王都内で飛行魔法や火属性の魔法を使って暴れている魔法使いたちも魔法師団所属である。

  またレムルス十二世や次期国王を狙った暗殺者たちも、騎士団とは別の諜報暗殺を専門とする帝国組織の一つである。


  今回の襲撃はこうして帝国内のいろんな組織(これら以外の帝国関係者にもまだ協力者はいる)によって行われている。しかしこういった多数の組織が一緒に行動する場合、その命令系統が難しくなる。

  もちろん国のトップである皇帝がいれば簡単に決まるのだが、さすがに今回の襲撃には皇帝が来ていない。というか来るわけがない。


  皇帝のように明確にトップの者が来ていない今回の襲撃では、一番動員数の多い第一軍の将軍が実質的なトップになっていた。


「けっ!いくらお前らのトップが第一軍の将軍だろうが、あくまで俺は別部隊のトップだ。それに俺は、ナンバーズにも選ばれていないおっさんの指示は聞きたくないね」

「あなたは……我らの将軍を軽んじておられるのですか?」

「そうだと言ったら?」

「私も、自分の上官を侮辱されて黙っているほどおとなしくはないのですよ?」

「へぇ。ならやってみるか?」


  隊長と竜騎士の間に不安な空気が流れる。


「落ち着くのじゃ。それに、獣人たちの回復力を甘く見てはいかんぞ。ほれ見ろ。もう立ち上がれる者が何人もいるじゃろぉ」


  獣人たちの、特に獣人の戦士たちの生命力が高いのは有名な話だ。すでに第一王子を筆頭に獣人たちは起き上がってきており、特に生命力の強い者や、運良く爆発の中心から逃れていて比較的被害の軽い者たちはもう戦闘をすることもできそうであった。


「確かにその生命力は見事だが、それでもすでに爺が攻撃を加えて、重軽傷を負っている奴らとは戦う気にはなれんな。ここは爺や騎士共に任せるとするわ」

「だから!それは将軍の指示を聞かねばならないと言っているでしょうが!!」


  再び二人の間に不穏な空気が流れるが……


「まあ落ち着くのじゃ。まず言っておくが、この件は一方的にお主が悪いんじゃぞ。自分の意見を言うことは一向に構わぬが、だからと言ってこの者たちの将軍を侮辱するのはよくないことじゃ。お主が真っ先に王都に行きたいという意見自体は尊重するが、それでも将軍を侮辱したことの非は認めねばならんよ」

「だけど!」

「ただしちゃんと非を認めれば、お主が一足先に王都に行っても構わぬ。ここにいる敵の部隊は儂らで倒させてもらうからの」

「老師!それは!!」

「将軍には儂から言っておく。あ奴とはその祖父の代からの知り合いで、あの小僧との親交もある。わしから話せばちゃんとわかってくれるじゃろう」

「……わかりました。老師がそう言うならば」


  騎士は渋々ながら了承する。


「おいてめえ!なんでこの爺の言うことは聞くんだよ!?」

「将軍から、老師の言うことは最大限聞くように言われている。だからこれくらいの案件だと、私は老師の命令を聞くことにする」

「ちっ!あのオヤジめ」


  竜騎士は不承不承ながらも騎士たちに詫びた後、ワイバーン共に一足先早く王都に向かった。


「待て!ここからは、一人たりとも行かせはせんぞ!!」


  再び動ける状態になった第一王子が、空を飛び自分たちの上を通過しようとしている竜騎士に向かって吠える。


「悪いな。爺の魔法でダメージを負った状態のお前たちとは、もう戦う気が起きねえんだ。お前たちは俺一人に注意するより、そこにいる一万以上の大軍のほうが大事なんじゃないか?」

「それは……」

「まっ!そういうことだ。機会があったらまた会おうぜ」


  そう言って竜騎士は街壁など関係ないとでも言うように、その上から簡単に王都に入っていった。


「将軍!どういたしますか!?」

「放っておけ。あいつの言う通り、まずは目の前の大軍だ。他の者も回復はできたか?」

「はっ!すでに息の絶えてしまったものもおりますが、それでも動ける者たちにはポーションや回復魔法などで回復させ、戦えるようにまではしました。もう一度突撃しろと言われてもできます」


  迎撃部隊の面々はまだ戦意が消えたわけではない(それでも最初の頃よりはずいぶん落ちている)ようで、その眼にはまだ力が宿っていた。


「そうか……。とは言え、また考えなしに突撃してもあの魔法の餌食だろうがな。私もあれほどの魔法は見たことがない。お前たちは何か知っているか?」

「私は、あの騎士や竜騎士が、老人に最上級魔法と言っていたのを聞きました」


  獣人は総じて五感が鋭い。その中でも特に聴力に優れている者が部隊の中にいて、あれほどの爆発が起こった後ながら敵の会話が聞こえていたのだった。


「最上級魔法!?それは本当か!?」

「どうでしょう。少なくともあの竜騎士はそう言っていました。ですがこの規模からして、これが最上級魔法だと言われても納得かと。むしろ、これが上級魔法だと言われたほうが信じがたいです」

「それもそうだな……」


  王子は空中にいる老人を睨む。彼女は戦士のため魔法使いの強さはよくわからないが、それでも老人を見ているとどことなく嫌な感じがしていた。もちろん先ほど大規模な魔法を使われたという事実もあるが、それと同時に老人からする危険な香りを感じ取った。


「どうにか接近戦に持ち込まなくては」

「ですね。我々のスタイルからして接近戦が一番力を発揮します。どうにかして敵の魔法や弓などをかいくぐり、敵に攻撃が届く距離まで近づかなくては。そうしないと、勝負にすらなりません」

「ああ。だがそれだけじゃない。今の魔法を食らって分かっただろ。あと一回、多くとも後二回受けてしまえば、その時点でこの部隊は全滅する。そうならないためには敵の大軍に突っ込む、そうでなくとも敵の軍と近い距離まで接近し、老人があの魔法を使えないようにするしかない。

  敵と接近してしまえばあの老人も同士討ちを警戒してまたあの魔法を使ってこないだろうし、仮に使ったなら敵味方問わずも大きな打撃を受けてしまうので、結局こちらの任務は半ば成功する。空中に浮いているあの老人に接近するのは難しいかもしれないが、それが無理でもなんとか地上にいる軍には近づきたいな」


  迎撃部隊と帝国の騎士団。両者とも態勢を立て直すために少しの時間にらみ合ったままだったのだが、その時間もすでに終わろうとしていた。


「将軍!敵がまた動き出しました!!」

「こうなったら魔法で一網打尽にされないよう、何手にも分かれて突っ込むしかないな」

「かしこまりました。では!」


  迎撃部隊の面々が何手かに分かれて敵の大軍に突っ込んでいく。今度は〈爆裂エクスプロージョン〉のような大規模魔法が放たれることはなく、迎撃部隊の者たちは魔法や矢などによる敵の攻撃を掻い潜りながら、なんとか自分たちの攻撃範囲まで近づくことができた。



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