襲撃10
「弟と『インフィニティーズ』はまだか!?」
ゆっくりと王都に向かってきている敵の大軍を眺めながら、第一王子は近くにいる部下に尋ねる。
「まだのようです。単純に今こちらに向かってはいるがまだついてないということならよいのですが、もしかしたらそうではない可能性もあります。
例えば彼らが襲撃者たちに襲われている可能性もあります。そうした場合、その対応に手一杯でここに来られなくなる可能性も考えられます。また考えたくはないですが、彼らを呼んでくるよう手配した兵士たちが敵にやられている可能性も……」
「つまり奴らが来ることを待つのではなく、逆に来られないかもしれないと思って戦わなければならないということだな」
「それが正しいかと……」
「分かっている。分かってはいるのだが……さすがにあの数はあいつらがいなかったらどうにもならなそうなんだが……」
現在第一王子のもとに集っている兵士は百人にも満たない。つまり敵との数の差は百倍以上であり、いくら集まったのが精鋭とはいえ、武装している敵を一人当たり百人以上倒すのはほぼ不可能であるように思えた。
「安心してください将軍殿。我ら騎士もおりますぞ」
獅子王国には騎士と兵士がいる。この二つの違いは忠誠を主に所属や誓っている先であり、騎士は自分の主(王族や貴族)に、兵士は国に忠誠を誓っている。そのため形式上騎士は主以外の者からの命令は受けない。それが例え王や貴族であろうともだ。
まあ騎士が貴族に仕えていた場合、結局その騎士の主である貴族が自分の主にあたる国王に逆らえないため、間接的には王の命令を聞くことになる。だが、それでもあくまで主からの命令がなければ騎士が動くことは基本的にない。
貴族たちは基本的に自分の連れてきた騎士で自分の身を守っている。さすがに今が国の一大事であることくらい貴族たちもわかってはいるが、だとしてもやはり自分の身はかわいい。貴族たちにとっては基本的に兵士よりも強く、また自分に直接忠誠を誓っている騎士たちを信頼するのは当然であり、こういった非常時には国の兵士よりも自分の騎士を頼りにする。
しかしそれでも貴族が貴族足りえるのはあくまで自分を貴族と認めてくれる国が存在しているからであり、国が落ちれば彼らは貴族ではなくなる。それがわかっている貴族たちは王都が奪われるのを避けるため、自分の護衛の騎士たちの中から何人かを第一王子に預けたのだった。
「彼らに負けた我々が言うのもなんですが、我らとて一騎当千とまで称されるほどの騎士ですぞ」
彼らは第十三皇子の母方の家でもある公爵家の騎士たちであり、王位継承戦の一回戦で優斗たちに敗れた騎士たちだ。彼らは王位継承戦で『インフィニティーズ』に負けた汚名(最終的に『インフィニティーズ』が優勝したので、そこまで汚名と言うほどでもない)をそそぐため、主である公爵に直訴してここに来たのだ。
公爵ほどの大貴族ともなると当然彼ら以外にも腕利きの騎士たち(この二人には劣る)が何人もいるため、公爵の護衛をその者たちに任せれば彼らがここにきても問題はなかった。
それどころかむしろ公爵の騎士が敵の大軍に立ち向かったということが評価されるため、彼ら二人がこの隊に参加するというだけで、公爵にとっては利益になるのだった。
「お前たちの力は疑っていない。私だって彼らには負けたのだ。私もお前たちと同じだよ」
「ではあの大軍を打倒し、共に汚名をそそぎましょう」
「……そうだな。来るかどうかわからない者たちを待つよりは、そうやってポジティブに考えたほうが何倍もマシか。どうせもう逃げられないんだからな」
彼女たちの目の前には、もうすでに一万を超える大軍が迫ってきている。そろそろ突っ込んでいかなければならないことを理解した彼女たちは、全員覚悟を決めた顔をした。
「では行……」
「ちょっと待ってもらえないかのう?」
いざ突っ込もうとしていた王子たち。しかしそれに水を差すように穏やかな声が、敵の大軍の中から聞こえてきた。