襲撃6
本日二話目です。
「それで、こんなところまで連れてきて、一体俺たちに何の用があるんだ?」
第四王子が目の前の冒険者たちにそう尋ねる。
「要件は一つ、俺たちに雇われないか?」
「雇われる?」
冒険者が冒険者を雇うことは珍しくない。パーティーではなくあくまで別チームの冒険者同士で行動する時は、一方が一方を雇う形態をとることも少なくはない。とは言えその形態をとるのは基本的に実力差のあるパーティー同士で、今回のように同格の冒険者同士ではほとんど行われない。そういう場合は対等な条件で一緒に組むことの方が多く、雇うことも雇われることもほとんどなかった。
もちろん単純に依頼をやってほしいときもあるが、何か欲しいものがあれば基本的に自分でとってくるのが冒険者なので、やはり格上にはともかく同格に頼むことはほとんどなかった。
「ああ。とは言え依頼内容はものすごく簡単だ。こちらの要求は一つ、今すぐここから出て行ってくれないか?」
王子は全く予期していなかった依頼内容を聞いて耳を疑った。
「俺の聞き間違いでなければ、今すぐここから出ていくのが依頼だと聞こえたんだが」
「それで間違ってないぞ」
王子は相手の顔色がまったく変わらないのを見て、自分の聞き間違いじゃなかったことを確信した。
「正直意味が分からないんだが。いやもちろんお前の言っている内容はわかるぞ。だがそれをして、お前たちに一体何の得があるのかさっぱりわからないんだが」
「お前の気持ちはわかるが、俺だってこの依頼を受けてもらわないと困るんだ。何なら白金貨も出すから、早急にここから出て行ってもらえないか?」
「そう言われてもな。俺にだって予定はあるんだ。今すぐ出て行けと言われても困るんだが」
「まあ普通そうだよな……。まったく、あいつらがこっちに何の情報もよこさないせいで、面倒ごとが余計に増えちまったじゃねえか」
男は一度ため息をついてから、再び王子に話し始める。
「だったら一つだけ約束してくれねえか?この先王都で何が起きても、あんたは何一つ行動しない。最悪これだけ守ってくれりゃそれでいいから。もし約束してくれるなら、報酬に白金貨百枚は出してやれるぞ」
「悪いな。お前も冒険者ならわかるだろうが、そんな怪しさ満点の依頼を受けることはできない」
王子の返答は、よっぽど金に困っている者以外ならひどく当たり前のものであった。
「まあそうだよな。誰が考えても、いきなりこんな怪しすぎる依頼は受けねえわな。だがそうは言っても、こっちにはそれ以上何か約束できることもねえんだよな。あーあ、こんなことなら、俺も軍に入っとけばよかったかな。いやでも、入ったら入ったでいろいろめんどくさいんだよな」
男は再びため息をつきながらも、その体は戦闘準備に入っていた。
「なんかわからないが、どうやらお前は俺と一戦交えたいようだな」
目の前の男の、もっと言えばその後ろにいる者たちも含めて全員が戦闘準備に入った姿を見た王子は、敵に対抗して自分も戦闘準備に入る。
「俺だって本当は嫌なんだぜ。だけど曲がりなりにもこの紋章をもらっている限り、あの方の命令には逆らえないからな」
男はそう言って服の袖をまくり、自分の左肩についている真ん中に数字の10が描かれた紋章を王子たちに見せる。
「お前その紋章は……なるほど。お前がかの有名なナンバーズの一員か。ということは弟の配下になっていたのも、それが関係しているのか?」
「まあそういうことだ。それよりもお前はこの紋章を知っているのか。正直なんだその紋章は?と言われるかもしれないと思っていたが。なるほど。確かにお前は世界を旅してきただけあって、その知識も幅広いらしいな」
「褒めてもらってうれしいぜ。だがその紋章と言いさっきの依頼と言い、これから王都ですごい祭りが行われるようだな」
「ああそうだ。すでにこちら側のキャストは全員そろっている。後は開始の花火を上げるだけだ」
「へぇ~、そうかい」
王子はそれを聞いて不敵な笑み浮かべる。
「できれば相手のキャストを二人減らしたいとも思っていたんだが、それはできなかったのは非常に残念だよ。どうだ?今からでも降りてみる気にならないか?」
「悪いな。そんな簡単に降りられる舞台でもなさそうだ」
「一応聞いとくが、こっちのキャストになる気はあるか?」
「それはもっとないな。そうなったら、どう転んでも俺に悪いことしか起きねえや」
「だったらしょうがないか」
「ああ。しょうがないだろうな」
二人の交渉決裂と同時に、彼らを合わせたその場にいる六人が示し合わせたように動き出す。前回はたまたま利害が一致したため本気でぶつかることのなかった二組だが、今回は本気の、それも命のやり取りにまで発展するような戦いを演じることとなった。