襲撃3
王都がいつになく騒がしくなる。その騒ぎはこの間行われた王位継承戦と同等、いや下手したらその時よりも騒がしい。
その原因は王都に来た多数の襲撃者たちによるものであり、獅子王国の兵士たちは襲撃者たちと戦い、冒険者たちは緊急時に行われるギルドからの依頼(ギルド自体も国から要請されている)によって戦闘に加わる。そして戦う力のない一般人たちは襲撃者の魔法や剣、弓矢などを見て悲鳴を上げながら逃げまどっていた。
「総員怯むな!我らがここで負けてしまえば……この国は終わりだぞ!!」
「しかし隊長!敵は剣だけでなく魔法すらも使ってくる者たちです。あんなことをされれば倒せませんよ!」
襲撃者の中には魔法使いもたくさんおり、その者たちは飛行魔法で空を飛びながら獅子王国の者たちに魔法を放っていく。
「〈火球〉」
「くそっ!また火の魔法か」
空を飛んでいる魔法使いたちは、皆〈火球〉のような火属性の魔法を放つ。それによって家などの建築物もどんどん燃えていき、王都中に火の手が広がっていっていた。
「魔法使い共め」
「よそ見している暇はあるのか!?」
「ちっ!うるさい奴らだ。空だけでなく、地上も何とかしないと」
襲撃者たちは空から魔法を放ってくる魔法使いだけでなく、当然地上からもたくさんの者たちが襲い掛かってくる。しかもその襲撃者たちはバラバラに行動するのではなく、まるで軍隊のように規律をしっかりと守り、兵士たちの動きを見ながらちゃんと連携して攻めてきている。
もちろん地上にいる者たちだけでなく空にいる魔法使いたちとも連携しており、獅子王国の兵士たちはそれに対応しきれていなかった。
「空にいる魔法使いたちの攻撃を対処しながら、地上にいる敵も排除しなければならない。しかも敵魔法使いの放つ火により、王都全体が火事になりつつある。
つまり陸空の敵を倒すのと同時に、王都が火事で焼け落ちないように消火もしていかなければならないのか……。守るというのは何とも厄介なものだ。それに個別なら対処できるものであっても、全部同時に来るとかなり難しくなってくるな!」
現在獅子王国の兵士たちは敵を相手にしながら、消火のためホースで引いた水や水属性の魔法で生み出した水を使っている。彼らは敵を相手にしつつ火事のために人員を割き、また逃げまどっている一般庶民のための避難誘導や暴動阻止などもしなくてはならなかった。
「一体どうすれば……」
獅子王国の者たちは襲撃者たちと戦いながらも、自分たちの置かれている状況がどんどん悪くなってきていることを感じる。そしてその焦りによって生まれたミスで敵に余計なダメージを与えられたりして、またさらに自分たちの置かれている状況が悪くなっていくという、一種の悪循環さえも生まれてきていた。
「獅子王国の兵士たちよ!お前たちの力はそんなものか!?」
悪循環にはまっていく兵士たちの後ろから、彼らが聞きなれた女性の声が聞こえてくる。
「王子!!」
「今は王子ではない!将軍と呼べ!!」
「将軍!!」
「ああ。第一王子として挑んだ王位継承戦では妹に負けてしまったが、将軍として王都を守るこの戦いで負けるわけにはいかん。皆、力を貸してもらうぞ」
第一王子は成人する少し前から軍に所属しており、第一王子と言う身分だけでなくその力で将軍の地位まで上り詰めていた。
獅子王国の軍はトップに大将軍を置き、その下に三人の将軍がいるという体制になっている。三人の将軍がそれぞれ自分の軍に所属する部下たちをまとめ、その将軍たちを軍の最高責任者である大将軍がまとめるのだ。
「我らが将軍閣下がおいでになられた!軍最強の女、いや男を合わせても軍で最強を誇る御方が、襲撃者たちを迎い撃ってくれるぞ!皆!それに続くのだ!!」
獅子王国の軍は、基本的により強い者が上に立つことが多い。だが現在トップに座っている大将軍はすでに結構な年を召しており、戦闘力自体はそこまで高いわけではない。
かつては現国王の指南役も務め、全盛期の頃は国で一番の強者であったこともあるほどの男だったが、そんな男も迫りくる老いには勝つことができず、今では老いてしまいそれほどの力を出すことはできない。
昔は白金級冒険者並であったはずの戦闘力は現在銀級くらいまで落ちており、軍の中でも上位に位置してこそいるが、第一王子を筆頭に彼より強い者は少しずつ増えてきている。とは言えその経験からくる指揮能力はいまだ獅子王国ナンバーワンであり、彼自身はそろそろ引退したがっているが、彼の能力を高く評価している現国王や貴族たち、そして彼を尊敬している部下たち(第一王子や他の二人の将軍も含む)によって、不本意ながらもまだ現役を続けさせられている。
そして大将軍が老いた今、第一王子は現在軍に所属する者たちの中で一番の実力者であり、兵たちからの信頼は厚い。実際今回王位継承戦で敗れたため彼女が国王になることができなくなったので、それならばと彼女を大将軍にしようという動きはある。
特にそれを扇動しているのはあろうことかそろそろ隠居したい大将軍本人であり、血筋と実力、そしてこれまでの実績や人柄、そして部下からの信頼度などから、彼女は現在次期大将軍に最も近いと言われている者でもある。
そんな軍で最も強く、そして部下たちからの信頼も厚い第一王子が、直接兵を指揮をするというのだ。その指揮下に入った者たちは当然先ほどまでよりも士気が向上し、その手に持つ武器をより一層強く握りしめた。
「行くぞ!!」
第一王子は自ら先頭に立ち、その背中で後ろにいる兵士たちを鼓舞し続ける。また彼女の指揮やその戦闘力により、今まで対応しきれていなかった攻撃にも対処できるようになってきていた。
「やはり試合より戦場のほうが戦いやすいな」
そもそも第一王子も第四王子と同じく、あまり玉座というものには興味がなかった。彼女はお互いに全力を出し合い、その上で正々堂々戦うことを好む戦士だ。そのため第四王子と違いわざと負けたわけではなかったのだが、それでも彼女のモチベーションは決して高いものではなかった。
彼女は国王として政務に励むよりも、軍に所属する戦士として敵と戦うことのほうが好みである。国王として絶大な権力を手に入れるより、戦士として国を脅かす敵を倒すことが彼女にとって最優先なのだ。
実は彼女も第四王子と同じように冒険者になろうかと思っていたこともあったのだ。しかし最終的には冒険者として自由でいることよりもより国民の安全を守ることができる軍に入ったのだが、だとしても国民のため国王になろうとまでは考えなかった。
「少しは妹の助けになっておいたほうがいいかもな」
あまり国王にはなりたくなかった彼女だが、それでも次期国王がまだ幼い第十八王子ということは心配になる。
「まあ困ったら助けてあげるくらいはしてやろう。それよりも、今はこの不埒者共を早急に片づけなければな」
敵の数が徐々に減っていき、それに比例して敵の勢いもだんだんと弱くなっていく。それとは対照的に獅子王国側の勢いはどんどん強くなってきており、第一王子以外の二人の将軍も各地で指揮を執り、そして王城からそれらすべてをまとめる大将軍によって統率された兵士たちは、その強さをいかんなく発揮し始めた。
「これで勝てるぞ!」
ある兵士がそんなフラグめいたことを言い放った瞬間、そのフラグを回収するように、敵軍にたくさんの増援が現れた。