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襲撃

今日は二話投稿です。

  王位継承戦が終わってから三日、優斗たち『インフィニティーズ』はレムルス獅子王国の王都から出発する準備が完了し、これからルクセンブルクに戻ろうとしていた。


「お主ら、もう行ってしまうのじゃな」


  第十八王子、いや次期国王が名残惜しそうな様子で言う。


「ええ王子。我々も向こうでやるべきことがありますから」

「そうか……。本当にこの国に残る気はないのか?お主らの実力なら次期国王である妾の親衛隊にしてもいいし、そうでなくともお主らの実力ならすぐにでも追加で貴族位を与えることもできるのだぞ」


  王位継承戦で『インフィニティーズ』の力はこの国の貴族や国民たち、そして現国王にまで知られている。彼女が次期国王になったことで用意できた爵位の数では四人に与えるには一つ足りないが、それでも『インフィニティーズ』が王都に残り次期国王の部下として活躍できれば、実力主義が強いこの国ではすぐにでも爵位をもらうことができる。

  もし万が一周囲の貴族たちや現国王のの反発が強かったとしても、彼女が次期国王になるまで働いてくれれば、国王の力が強いこの国なら男爵くらいにはすぐしてやれるはずであった。


「それは非常にありがたい申し出です。しかし我々にもやりたいことややらなければいけないことがまだまだあるため、残念ながらその申し出を受けることはできません」

「そうであったか。お主ら全員が残ってくれれば妾的にも、そしてこの国のことを考えても非常にプラスとなったのだがな。

  だが妾はこれでもこの国の王子であり、完全にお主らのおかげとは言え次期国王にまで上り詰めた者だ。約束はちゃんと守るし、お主らが去るというならそれをちゃんと見届けるぞ」


  彼女はそう言って十代前半の少女がするには不釣り合いな、それでいて次期国王がするにはふさわしい表情を見せた。


「ありがとうございます。我々三人は去りますが、彼女は残ります。一緒に頑張ってください」

「うむそうだったな。それと、男爵になる二人も後で彼女に教えてもらうとするぞ」

「任せといてや!ほんじゃあ三人とも、またどこかで会おうや」


  優斗たちを見送る次期国王の側には、『インフィニティーズ』の一員であるはずのユズも立っている。

  彼女が優斗たちと一緒に帰る側ではなく見送る側なのは、これから彼女がこの国で爵位を得るからだ。彼女は優斗たちがした契約通り子爵位が与えられ、レムルス獅子王国の貴族の一員として活動することになったのである。


「少し心配だが……いろいろと頼んだぞ」

「任せといてや。ここで活動しやすくなるためにも、王位継承戦では死ぬ気で頑張ったんやからな」

「そうだぞ。それに彼女はすでに貴族たちからも一目置かれておるのだ。まだ幼く、悔しいが次期国王としては不十分なところがあることも否めない妾としても、彼女のような強者が国にいてくれるのは心強い限りだ」

「それならいいのですが……」


  ユズはすでに貴族、いや平民も含めた獅子王国中で今大人気だ。その要因はもちろん王位継承戦での活躍で、彼女があの大会において誰もがMVPと思えるような活躍をしたからだ。


  強者を重んじる獅子王国、その中でも次期国王を決めるため数十年に一度の割合でしか開かれず、なおかつその優勝賞品は国で行われる中で、いやおそらく世界中で見ても一番といっていいかもしれないほど豪華な賞品だ。

  そして次期国王になるため出場する王子が自分やその支援者のコネや金を使い、それによって国内外から集められた強者が集う、国中どころか周辺国中が注目する大会でMVPの活躍をしたのだ。当然彼女の知名度は爆発的に上がるし、その人気もものすごいものになっている。


  そんな彼女が貴族になることに反対している者はほとんどおらず、むしろ諸手を挙げて歓迎している者が圧倒的多数を占めているのだ。


「次期国王になれたはいいが、まだ妾の味方は少なく後ろ盾だって強固ではない。それでも妾たちはこの国で頑張るのだ。お主らもパーティーの主力が抜けて大変かもしれぬが、それでも頑張るのじゃぞ」

「そうですね。俺たちも、とりあえずは白金級に昇格できるよう頑張ります」

「うむ。そうじゃ、それと妾には基本タメ口でよいぞ。お主らは妾にとっては恩人であるし、年齢だって妾よりも上だ。次期国王としているときはまずいが、こういったプライベートの場でぐらいは畏まる必要はない。いや、むしろ畏まらずにいてはくれないか?」

「ですがそれは……」

「おぬしらはこの国の国民ではない!だからプライベートくらい……良いではないか」


  次期国王は不安そうな顔を見せる。王族として生まれた彼女にとって、自分と対等に接することができるのは兄弟(一方的に見下している者もいたが)のみであり、心を許すことができたのは自分の母親と、小さいころから自分の面倒を見てくれていた老執事、そして少し年は離れているが幼馴染で、ずっと一緒に育ってきた女騎士の三人だけであった。


  彼女にとって優斗たち三人は一緒に王位継承戦を戦った戦友であり、なおかつこの国の国民ではないため自分に従う義務がない者だ。もちろん一国の王子、それも次期国王と、金級とは言えただの平民とではまったくその身分は違う。

  しかしそれでも今の彼女にとっては唯一自分と対等に口をきいても許すことができる相手であり、これまでいろいろと窮屈だった彼女は優斗たちに自分とそういう相手になってほしかった。


  優斗は少し考えるそぶりを見せたが、こういう知り合いしかいないような場ではそれでもいいかと思い、次期国王の要求に従った。


「わかりました。いや、わかった。それじゃあまた逢う日まで……お互いに頑張ろう!」

「うむ!当然だ!!」


  優斗と次期国王はそう言って固く握手をする。また彼女は他の二人とも握手をしていき、女騎士や執事、そしてユズと共に別れを惜しみあった。


「それじゃあな」

「うむ。また会お……」


  王子は別れの言葉を最後まで言うことはできなかった。彼女の後ろには黒装束を纏った者がおり、その手に握られた短剣は王子の胸を貫いていた。


「おっ、王子ー!!」


  女騎士の悲鳴がこだまする。また王子が刺された直後あたりから、人が多いため常に騒がしい王都がより一層騒がしくなった。


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