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報告会

「そういうわけで、今日のダンジョン関係の実験はこういう結果になったんだ」


  優斗は自分たちとは別の仕事をしていたほかの八人に対して、今日行ったこととその結果を報告してた。


「俺たち狩猟採集組はいつもとほとんど変わらなかったぜ。変わったのは昨日と一昨日には出会わなかったモンスターと出会ったくらいで、そいつらの強さだって全然脅威でも何でもなかったしな。

  本当は〈飛行フライ〉を使って上空から見てみたいところだけど、今の状況でそれをしちゃだめなんだろ?」

「ああ。今の状況でそれをするには危険が多すぎるからな」


  狩猟採集組の仕事の副なる目的として、この森の調査と言うものがある。

  優斗たちは今のところダンジョンから一日で探索できる範囲しか捜索しておらず、この森の全体像はまったくつかみきれていない。唯一北のほうに山脈があることだけはかろうじてわかるが、その山脈までだってダンジョンからはかなり離れていることがわかる。

 

  ものの全体像をつかむためにもっとも簡単で有効な手は、そのものを上から見ることである。

  優斗は現実世界ではずっと眼鏡かコンタクトはしていたのだが、この世界ではそれが必要ないくらいよく見える。そしてこの世界で目がいいのは優斗だけでなく、彼の仲間のほとんどがそうである。特に盗賊職のユズと弓術師フレイヤの目の良さは、優斗たちの中でも群を抜いていることがこの三日間でよくわかっている。

  空を飛べる魔法やスキルを持っていない二人のうちどちらかを、空を飛べるようにするマジックアイテムや〈飛行フライ〉を使える優斗たちが上空に運んで全体像を見せれば、少なくともこの森がどれくらいの広さなのか位はわかるだろう。

  しかし、今優斗は空を飛んで森を偵察することを全員に禁じている。


  その理由として、まず上空には上空の生物がすんでいるということがある。

  ただの鳥程度なら何の脅威にもならないが、場合によっては飛行できるモンスターなどと鉢合わせてしまう可能性があるのだ。その中でも、特にドラゴンなどといった強い種族と鉢合わせになると非常に厄介だ。

  この世界にはモンスターが普通にいたし、ダンジョンコアにもドラゴンを召還できる選択肢(今のDPでは召喚不可能だが)があった。つまりこの世界にもドラゴンやそれに匹敵する空を飛べる生物がいてもおかしくないのだ。そういった生物がもし自分たちよりも強かった場合、今敵対してしまうのは致命的である。

 

  二つ目の理由として、上空を飛んだ場合発見される可能性が高いと言うことだ。

  空を飛ぶ魔物もそうだが、それ以外にも森の中にいるモンスターや森の近くにある村や街の住人が見つける可能性もある。何の後ろ盾もなく、自分たちの力がこの世界でどれほど通用するのかわからないような今の状況で、他者を見つけるならまだしも他者に見つかるのは避けたい。

 

  こっちだけが向こうのことを知っているなら自分たちのタイミングでいつでも接触することができるが、向こうにこちらのことが知られてしまうと向こうのタイミングでの接触することになる可能性がある。この世界の常識を何も知らない状況で向こうからの接触はかなり危険だ。そのため、この世界の知的生物と接触するのはしかるべきタイミングでないといけない。


  この二つの理由から、優斗は空を飛んで上空から森を見ることを全員に禁止しているのである。

  一応シルヴィアなどは不可視化を使えるし、優斗たちは不可視化が使えるようになるマジックアイテムも持ち合わせている。しかし、不可視化などの手段が必ずしも通用するとは断言できないのもまた事実なのである。


「でもこの森のことは知らないとやばいだろ。慎重なのもいいけど、時には動くことも必要なんじゃないか?」

「その意見も一理あるが、万が一を考えるといろいろと危険なんだよ。まあいつかは動くしかないことも確かなんだけどな」


  優斗が慎重にならざるを得ないのも、すべてはこの世界の情報が不足しているせいである。

  現状、優斗たちがこの世界について得ている情報はダンジョン近くのことのみであり、それ以上のことはまるで知らない。全くの道に足を踏み入れると言うのは危険なことであり、また怖いことでもある。


  ダンジョン周辺の探索は食料やDPのためにも動き出さなければならなかったが、今はそれ以上踏み出さなくても生活はしていける。それにDPがたまってダンジョンの戦力も少しずつだが上がってきているのだ。この状況でもっと外に出ていろいろ知るために行動できるのは、勇気と決断力がある者か、何も考えていない無能だけだ。


「動くなら早いほうがいいのはわかっているはずだ!外の情報を知らねば、外部と接触した時に不利になってしまうぞ!」

「確かにアシュリーの言う通りではある。しかし!今の俺たちは外の情報がないだけでなく、ホームであるダンジョンもまだまだ未熟だ。この状況で外に出るのは非常に危険だと言わざるを得ない。今は何より力をつける段階でもあると思うが?」


  アシュリーと優斗の言い争いはヒートアップしていく。


「地力をつけるといってもたかが知れているはずだ!現に召喚されたモンスターたちは全部俺たちからすれば紙同然だった。あんな弱いのばかり増やしても意味ないだろ!?」

「だが警備にはなる。それに地力をつけると言うのは何も戦闘力だけじゃない。ダンジョンを複雑で攻略しにくいものにすることもまた、地力をつけることになるはずだ」


  優斗はダンジョンを複雑なものにして攻略されにくくすることで、ダンジョンを一種の心のよりどころにしようと考えていた。もし外で不幸な行き違いにより外の者たちと対立してしまい、その者たちが自分たちにも匹敵するような強い力を持っていた場合、最悪でもダンジョンに隠れていればいい。そういうものがあるかないかで、心の持ちようというのは大きく変わってくるのだ。


「だがそれでも早いうちから情報を得ることは大切なはずだ。俺たちもインフィニティではずっとそうしてきたはずだろ?」


  インフィニティでの優斗たちは、情報を集めることに関しては非常に積極的であった。今の時代ネットを見ればいろんな情報が載っているが、当然それがすべて正しいと言うわけではない。

  それに優斗たちはインフィニティ内でのトッププレイヤーだったのだ。つまり、優斗たちが新たな情報を発見することもしばしばあったのである。そのため、優斗たちはゲーム内での情報収集を盛んに行っていたのだ。

  それにこの世界に来てからの態度からもわかるように優斗は結構慎重派で、ゲームでも現実でも石橋を叩いて渡るタイプだったのである。

  優斗はRPGではボスキャラの情報を十分に収集したうえで万全のレベル上げをし、徹底的にボスキャラとの相性がいい装備やアイテムを用意してから挑むタイプだったのだ。ましてこれは現実の話だ。ゲームの時よりも慎重なくらいでちょうどいい、そう優斗は考えていたのである。


「……これはゲームとは違うんだがな。ふー、それならいっそどちらも並行してやればいいじゃないか?俺たちは転移魔法が使えて、そのうえ探索のスペシャリストであるユズがいるんだから、どちらも同時にやればいい。

  転移魔法を使えば一度行ったところには何度でも行けるようになる。そうやって探索範囲を少しずつ広げながら、その過程で入手したものを使ってDPを増やし、そのDPや戦闘訓練などで俺たちの力も強化していく。何か重大なことが起こるならともかく、今はひとまずそうしないか?」


  優斗が出した案は、アシュリーのように多少強引にでも性急に情報を得ようとするでもなく、かといって優斗のように地盤固めばかり優先させるでもない。いわば二人の意見の折衷案ともいえるものであった。


「わかった。ひとまずはそうしよう」

「じゃあこれで決まり、と言いたいところが、ほかのみんなはどうだ?この案に反対か賛成か、反対ならどんな案がいいとかあるか?」


  優斗の問いかけに対して賛成の意を示したのは、ミアとアコの二人以外の八人である。しかしミアとアコの二人は反対というよりは優斗とアシュリーが何を言っているかよくわからなかったみたいで、賛成も反対もできなかっただけのようであった。

  また賛成の意を示した八人の中にも、アコやミアのように二人が何を言っているのかよくわからなかったけど取り合ず賛成にしといた、もしくは最初から二人の決定に従うつもりであり、話半分にしか聞いていなかったという者も何人かいて、ちゃんと話を聞いていてその上で賛成の意を示したのはシルヴィアとユズの二人だけであった。


「じゃあ取り合ずこの案は採用として、話を聞いていなかった者と聞いていたけどわからなかった者には後で詳しく説明することにしよう。それで、話はそれたが次は警備組の成果を聞かせてくれないか?」


  警備組の代表であるシルヴィアが皆に今日の成果を報告する。シルヴィアの話では、昨日ダンジョンコアで召喚したモンスターたちもスキルで召喚したモンスターたちも、レベル的には全く強くなっている気がしないと言うものだった。

  訓練によって技術的なものは少し上がった(ほんのちょっとであり気のせいと言われてもおかしくないレベルである)ようだが、筋力が上がったりした様子もなければスキルや魔法を覚えた様子はないということだった。


「もしかしたらそういうのを上げるためには訓練と言うよりモンスター退治のほうが適切なのかもしれないな」

「わたくしもそう思いました。なので、明日からはその辺も視野に入れて活動したいとは思っております」

「頼む。それと、もしそいつらがスキルや魔法を覚えたら教えてくれ。その辺の法則も知っておきたい」


  インフィニティの世界では、レベルアップなどの条件を満たすと職業やスキルを基本任意でとれるようになっており、自分がどんな手段でどんなモンスターを倒して経験値を得たかとかはまるで関係なかった。しかしこの世界には職業やレベルと言う概念がない、もしくはあったとしてもそれを知ることができないと言う場合、どうやってその生物が強くなっていくのかが問題となってくる。


  例えば魔法使いが剣の訓練をしてモンスターを倒したりした場合、インフィニティではそれはプレイヤースキルとして本人に蓄積されるだけでそのキャラクターにはまるで影響がなかったが、この世界ではそれがその経験によって職業のようなものになる可能性がある。

  生物には必ず成長の限界がある。インフィニティではステータスとレベルの限界はなかったが、取れる職業の限界はあった。そして少なくとも召喚したダンジョンモンスターには成長限界がある。どうすればどのように強くなるのか、これを知ることで今いる、そしてこれからも召喚されていくであろうモンスターたちに無駄のない成長を促すことができるのである。


「わかりました。それとわたくしたちのレベルアップなどについてもですね。まあそれは狩猟採集組も調べるべきことなのですが」


  優斗たちにとってある意味最大の関心は、自分たちがこれ以上強くなれるかどうかだろう。インフィニティではもう職業もスキルも限界まで取っていたために、レベルアップによって伸びるのはステータスと使用可能になる魔法が増えるくらいであった。

  しかしこの世界ではどうか?もしかしたら新しい職業を取れたり、持っていない新しいスキルを覚えるかもしれない。インフィニティでは入手できなかったこの世界特有のスキルを手に入れられるかもしれないし、それとは反対にもう優斗たちは能力的に少しも成長できないのかもしれない。自分たちの成長限界がどこにあるのか、そしてどのように成長するのか、優斗たちが知りたいのはつまりそういうことである。


「まあそれはゆっくりでいいさ。どうせレベルアップするにせよかなりの経験値がいるだろうからな」


  優斗たちのレベルまで来ると、レベルを一つ上げるだけで膨大な経験値が必要になる。今のところ優斗たちが戦っている敵モンスターたちは、すべて彼らにとっては雑魚ばかりである。そうなると一つレベルを上げるために何千、何万体と戦わなければならないだろう。なのでレベルが上がるにしても、それなりの時間がかかると予想されるのだ。


「話もまとまったことやし、明日のためにもはよ寝んとな。警備兵は上の階、うちらは下の階で寝ればええんやろ?」

「そうだな。今日はもう寝るか」


  こうして三日目の夜が終わりを告げた。





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