決勝 1
今日は二話投稿です。
「ようやくここまで来たのだな」
決勝が始まるのを待つ第十八王子が、感慨深そうに無人の舞台を見つめる。
「そうですよ王子。今日勝てば、晴れて王子は次期国王です」
「うむ。ここまでくれば母上も王宮で肩身の狭い思いをせずに済むだろう。後は決勝に勝って、妾の夢も果たさせてもらおうぞ」
第十八王子の母親は元々平民である。その上高い能力や優れた容姿も持ち合わせていなかったため、争いを好まないその穏やかな性格も相まって王宮では常に肩身の狭い思いをしてきた。彼女にたくさん嫌がらせをしてきた第十三王子の母ほどではないにしろ、彼女を気に入らないという貴族も少なくなかった。
また彼女自身もずっと平民として暮らしてきたせいで、貴族や王族のマナーやしきたり、文化などが分からず、周囲の者たちとのコミュニケーションもあまり上手くいっていなかった。
第十八王子の目的はそんな母の立場をよくすること、そして自分が次期国王になることだ。実はこのうち、前者についてはすでに叶っていると言える。
王位継承戦で決勝まで来ることができれば、その王子が決勝で負けたとしても希望すればほぼ無条件で子爵位をもらい受けることができるのだ。彼女はまだ幼いため子爵位が正式に授与されるのは成人後だが、それでも将来貴族になることがほぼ確定している。
また彼女の母も自分の娘が決勝まできたこと、そして将来的に貴族となることが決まっていることで、優秀な娘を生んだという評価が下りこれまでのような肩身の狭い思いをあまりしなくなる。もちろん優勝すればその待遇ももっと良くなる。それこそ肩身の狭い思いをしなくてよくなるどころか、むしろいろいろな人に称賛されるだろう。
王子には国王になりたいという我欲と、それ以上に肩身の狭い思いをしている母親を助けたいという母親孝行の気持ちの二つが同時に存在していた。
このうち母親の立場をよくするという目的についてはある程度叶ったので、後は自分の夢である次期国王になるということを叶えるだけであった。
「王子、行きましょう。我々には心強い味方がいますから、きっと大丈夫ですよ」
そう言って女騎士は後ろにいる優斗たちのほうを見る。
「そうだな。しかし妾たちも、あやつらばかりに頼っていてはいかん。足手まといにならぬようにしながら、なるべく自分の身くらいは自分で守らねばな」
「ですね。私も、もう準決勝のような失態は犯しません。今度は命を懸けてでも王子を守らせていただきます」
「うむ。ではいくぞ!」
第十八王子を筆頭に、彼らは決勝の舞台に向かう。舞台にはすでに先に来ていた第九王子とその配下たちがおり、皆やる気満々の顔をしていた。
「まさかお前が来るとは思っていなかった。腹違いではあるが、同じ王族として褒めて遣わすぞ」
第九王子が見下した目で第十八王子を見て、傲慢にそう言い放った。
「ありがとうございます兄上」
第九王子とは反対に第十八王子は畏まった言い方をしながらも、その頭はまったく下げてはいなかった。
「ふんっ!相変わらず子供離れした態度をとるガキだ。まったく可愛げがないな。それにお前の前にいるのは腹違いとはいえ兄であり、またこの国の次期国王だぞ。頭ぐらい下げたらどうだ?」
「兄であることは認めておりますが、次期国王だとは認めておりません。それが認められるのはこの勝負に勝ってからのはずでは?まだ勝負は決まっておりませんよ」
「ほとんど決まっておるようなものだ。お前の集めた冒険者が強いことは認めるが、それでもあくまで金級冒険者だ。こちらにいるのは全員が白金級冒険者だから、単純に考えてこちらのほうが上だろ?しかもその人数も四人同士なのだから、数による差はないはずだ」
第九王子はあくまで尊大で、そしてもう自分が勝ったという態度で接している。
「確かにそうですが、数は妾たちのほうが一人多いのです。姉上と戦った時のように、数の差でひっくり返して見せますよ」
第九王子はそれを聞いて鼻で笑った。
「フッ、それは無理だ。なぜならお前はまだ子供でほとんど戦力にならず、そこにいる騎士だって俺よりも弱い。ならばこちらの勝ちは揺るがんさ。お前があの女に勝てたのは数の差が倍あったこと、そしてあの女の配下たちがあまり強くなかったからだ。そうでなければ勝てとらんよ」
「やってみなければわかりません!」
「わかるさ。それにこちらはあの第四王子ですら倒したのだ。それが今さらお前たちごときにやられると思うか?」
「それは……」
第九王子たちが第四王子たちを倒した試合を見ていた第十八王子は、その試合で見た第九王子配下の白金級冒険者たちの戦いぶりを思い出して、言葉に詰まってしまった。
「まあいい。せいぜいこれからの身の振り方を考えておくんだな。子爵家当主としてどういう風に僕、いや余に従っていくのかをな」
「ぐぬぬ……」
舌戦で負けた第十八王子であったが、だとしても本番の試合では負ける気はない。彼女としては開始と同時に第九王子を自らの手で倒してやりたいところであったが、そんなことをしても敵に返り討ちにあうのが分かっているし、何より自分の馬鹿な行動でこれまでの努力が水の泡になるのは耐えられなかった。
「始まったか」
試合開始のゴングが鳴り響く。しかし最初は様子見で誰も積極的には動かず、しばらくの間硬直した状態が続いた。