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閑話ーブルムンド王国に潜む闇

  現在の時間は深夜二時、日本とは違いテレビやネット、ゲームなどもなく、また明かりも魔法や魔道具を使うかしなければならないため、この世界のほとんどの人間はとっくに眠っている時間だ。しかしそれにもかかわらず、いまだに明かりを点け起きて考え事をしている男がブルムンンド王国の王都にいた。


「いったいどうしたものか」


  ブルムンド王国の王都は中心にある王城を中心にして三層に分かれており、まずは王城を囲むように侯爵や伯爵などの高位の貴族の邸宅が並ぶエリア、そしてその一つ外側には子爵や男爵などの下位貴族や、地位と権力、そして当然たくさんの金なども持った商人などがおり、そのさらに外側はそれら以外の庶民が暮らしている場所となっている。


  男がいるのは一番外側にある庶民が暮らしているようなエリアであり、その中でもとりわけ治安が悪く、王都の中でも貧民街と呼ばれている場所にある建物の一室だ。しかもその建物がある場所は貧民街の中でもとりわけ治安が悪く、何か後ろ暗いことがある者たちしか来ないような場所である。


  男は机の上にある書類に目を通しながら考え事をしており、自分の今後についてずっと頭を悩ませていた。


「うちの組織はこれからどうなっていくのだろうか……。場合によっては、組織を抜けることも考えなければならんか?」


  男はブルムンド王国内にたくさんある裏組織の中の一つに属していて、その組織では幹部を任されるほどの地位にあった。


  一言で裏組織と言っても大小様々であり、たった数人しかいないような小さなところもあれば、数百人、下手したら千人以上も構成員がいるような大きな組織もある。またその業務も様々で、暗殺を中心にしているようなところもあれば、密輸や禁止薬物の販売および製造を行ったり、違法奴隷を売るところやカジノの経営をしているような組織まであった。


  男が所属しているのはブルムンド王国内にある裏組織の中でもかなり大きいところであり、その規模は王国内で五本の指に入るといわれているほど大きな組織だ。その組織は王都を中心に幅広く活動しており、また傘下に入っている組織も複数ある。そしてかなりの数の貴族とも交流があり、その貴族たちを使い表の世界にも少なからず影響力を持つほどの組織である。


  しかしそんな大きな裏組織ではあったが、現在その組織は内部で大きく揉めていて、その力を大きく落とそうとしている。


  揉めている原因は後継者争いで、誰が死んだ先代のボスの後釜につくかという問題だ。こういう後継者争いは裏表にかかわらずどんな組織でも起こる問題だが、こういった裏組織でとなるとそれこそ血で血を洗う争いに発展することは非常に多い。そして今、彼の所属する組織ではまさに血で血を洗う後継者争いが行われており、ボスになりたいとはあまり思っていない彼も、幹部であるため半ばそれに巻き込まれる形での参戦となっていた。


  裏組織にいる以上いつでも暗殺のリスクは付きまとってくるが、それでも今回のように明確に来る可能性が高いと分かっているという場合はあまり夜寝ることことができず、護衛を雇ってはいても夜は念のため起きていて、その分朝や昼に寝るという夜型の生活になってしまっていた。


「くそっ!なぜ二人が急に死んだんだ!?それさえなければこの組織も、それに俺の立場も当分は安泰だったのに」


  現在後継者争いが激化しているのは当然理由があって、それは彼らのボス、そしてその後継者が急死してしまったからだ。彼らのボスは純粋な人族であり、その年齢はすでに八十歳を超えていたため、正直いつぽっくり逝ってもおかしくはなかった。

  そしてボスも自分がいつ死んでもいいように後継者を指名していて、その後継者は実力も頭脳もある優秀な人物で、組織内でも人望の厚い男だった。


  しかし不幸なことに二人とも急死してしまい、現在もボスの座は空白のままであった。不幸にも死んでしまったその後継者が非常に優秀すぎたため、彼の対抗馬となるような人物が現れていなかったのだ。組織の幹部たちも彼がボスの座に就くことに対してはいっさい異論がなく、彼がボスになることでこれから組織がさらに大きくなるんじゃないかとまで言われていたのだ。


  そんな中二人が死んでしまい、本命のいない後継者争いはどんどん激しさを増していったのだった。


「最近は面倒な組織ともことを起こしているというのに、いつまでもこんなことをしている場合ではないだろうが!!」


  彼らの組織は後継者争いが起こる前、つまりまだ先代もその後継者も残っているときに、ある裏組織とことを構えていた。

  その組織は最近できたにもかかわらず急速に力をつけてきており、裏の世界では有名であった。彼らの組織のある幹部が独断でそこを傘下にしようとしたが失敗してしまい、そこからまたいろいろこじれてしまって、最終的に組織対組織の全面戦争の形になってしまったのだ。


  その組織は男の所属する組織と比べてまだまだ小さいのだが、それでもその戦力は馬鹿にできない。そもそもその組織が急成長しているのはそこが持つ武力のためであり、まださほど大きくない組織とは言えその武力は男のいる組織を上回っている可能性すらあった。なんでも噂によると凶悪なモンスターを飼っており、そこのボスは金級冒険者、下手したら白金級冒険者にすら匹敵する武力の持ち主であると言うのだ。


  そんな組織とことを構えてからすぐに後継者争いが起こってしまい、いま男のいる組織は内外でものすごく大変な状態なのであった。


「そもそもなぜ二人は急に死んだんだ。ボスのほうはもう年だったからしょうがないとしても、その跡取りに関しては急すぎる死だった。検死でも毒などの異常はなかったし、刃物で切られたような跡もなかったから突然死で片付けたが、もしや……何者かに殺されたのか?」


  この世界では日本のような医学はほとんど発展しておらず、医者と言っても基本魔法や薬草を使って治すので、解剖したり手術したりということはしない。そのためがんなどの病気で死んだとしても詳しくはわからず、心臓麻痺やくも膜下出血などですぐ死んだときは基本突然死として片づけられることも珍しくなかった。また裏組織に所属する彼らが魔法によるちゃんとした検査を受けられるはずがなく、検死と言っても結構簡単なものであったのだ。


「だとしたら誰が?普通に考えれば他の組織の手の者だろう。もちろんうちの組織の者が手にかけた可能性がないわけではないが、ちょっとでも考える頭を持つ幹部ならそんな馬鹿なことしないだろうし、下っ端が独断専行して殺せるような相手でもない。

  あの二人に恨みを持つ人物なら数えきれないほどいるだろうが、その中でも特に今得をしているところはどこか……」


  男はまた思考に入り、そして一つの推理が出来上がった。


「まさか!いやありえない。奴らはそれほどの手練れを雇っているというのか……?」


  男はその推理が当たっていた時を想像して、恐怖のあまり体が震えてくる。


「だが奴らにとって今の状況はかなりプラスに働いている。こちらが仲違いをしている中で、確実にこちらの力を削いでいっている。それに向こうの行動は、まるでこちらの後継者争いに火を注ぐようでもあった」


  男は恐怖にかられながらも、その思考を止めることができない。


「手練れの暗殺者を雇ったのか持っているのか?もしくは別の手段で殺した?だとするとまさか……」

「それ以上はやめてもらいましょうか」


  その声に振り向いた瞬間、男はそれ以上思考することができなくなった。男の息の根を止めた者は机の上に広げられた資料を奪い、そして去っていった。


「想定していたよりもうまくいきましたね。彼にもそろそろ我が主を紹介するべきですかね?」


  その後、ブルムンド王国でとある大きな裏組織が壊滅したというニュースが貴族やほかの裏組織の中で流れるのだが、その内容は幹部たちによる後継者争いからくる自滅というものであり、幹部たちのいなくなった組織の構成員やそれらが所有していた資産などの行方は全く分からなかった


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