準決勝第二試合
「お主らを雇って大正解だった。観客はもちろんだが、妾自身も正直ここまで来られるとは思っておらんかった。まさか妾が決勝へ、それも第一王子の姉上を破っての決勝進出とはな」
第一王子対第十八王子の一戦は、最終的に『インフィニティーズ』の所属する第十八王子側の勝利に終わった。
あの後優斗が第十八王子を抱えて空を飛び、魔法で自分と王子を守りながら、残ったユズとアシュリーの二人と協力して獣化により獅子となった第一王子と戦った。
第一王子も一発逆転を狙うために何度か第十八王子を狙っていたのだが、それらはすべて優斗の魔法により防がれた。そしてユズとアシュリーは優斗が守っているため第十八王子を守ることは一切考えず、ひたすら第一王子を倒すことだけを考えて攻撃していった。
最終的に第一王子はユズとアシュリーの攻撃、そして優斗による魔法を対処することができず、ユズたちに多少(本当に少しだけ)ダメージを与えることには成功したものの、それ以外のことはできずに敗れ去っていった。
「確かにあの獣化はやばかったですね」
「うむ。獣化は獣人の中でも極一部の才能にあふれた者しか使えるようにならぬ、いわば選ばれし者だけに許された能力だ。それを使った姉上を破るのだから、お主たちは本当にすごいぞ」
第十八王子はいまだ興奮が抜けていないようで、先ほどからずっと興奮した様子でしゃべっている。それだけ彼女にとって決勝進出という成果は大きく、またある意味特等席とも言える場所から獣化した第一王子対クルスの抜けた『インフィニティーズ』の三人の戦いを見たこともあり、彼女は嬉しさやすごいものを見た時の興奮によりいまだ熱に浮かされているようであった。
「でもまだ終わりじゃありませんよ。そして何より、彼女が最強ではないそうですから」
「うむそうだった。まだ強い人が残っておった」
優斗は試合が終わってから今まで、ずっと王子に付き合って会話をしていた。お付きである女騎士がやられてしまった以上一緒に試合に出た者の中で彼女の会話に付き合うのはなぜか優斗であり、王子は優斗にたくさん話しかけていた。
優斗はずっと王子の興奮した状態に付き合ってきたが、そろそろ次の試合が始まるので冷静になってほしかった。なのでまだ強い者がいるためこれで終わりじゃないという言葉で興奮が少し収まった王子を見て、優斗はやっと落ち着くかと安堵の息を漏らした。
「それで第四王子対第九王子の戦いですが、王子はどちらが勝つとお思いで?」
「やはり第四王子だろう。本人はもちろん、その配下たちも強力だったからな。一回戦を見たところ第九王子もいい配下を持っておるようだが、それでも本人の実力はそこまで高くない。順当にいけば第四王子だと思うぞ」
「確かにそうかもしれません。しかし、人数で言えば第九王子のほうが多いですよ」
第四王子側は総勢三名、第九王子側は総勢五名であり、数の差で言えば第九王子側が有利であった。
「それもそうであるな。妾自身も姉上とは大きな、それこそ今から戦う二人よりも大きな力の差があったが、それでも雇った配下であるお主らの優秀さと数の差で勝利を収めた。第九王子も妾のようにかなりの使い手を複数人集めることができれば、もしかしたら妾たちのように後は数の差で勝てるかもしれん」
「まあどちらが勝ってもいいように、今から始まる試合をじっくり見ておきましょう」
第四王子と第九王子、及びその配下たちが舞台上に上がってくる。そしてそれから数分後始まりのゴングが鳴り響き、両陣営が激突した。
「なんと!?」
第十八王子が驚きの声を上げる。
「なるほど。こうなったか」
そうつぶやく優斗の視線の先には、この試合の勝者っと敗者の姿があった。
「まさか第九王子が勝つとは……あの配下たち、かなりやりおるぞ」
「白金級冒険者パーティーか。これはまた厄介なのを連れてこられたもんだ」
準決勝第二試合に勝ったのは第九王子、そしてそんな彼の配下は一回戦とはまったく違った面々であり、彼らは四人組の白金級冒険者パーティーでもあった。
「彼らは確か帝国をホームにしている冒険者たちのはず。それがなぜわざわざこんなところまで来たのだ?」
帝国とレムルス獅子王国は国境を接しておらず、二国間の距離はかなり離れている。帝国からここまで来るにはどんなルートを使っても最低二つ以上の国を経由しなければならないほどであり、わざわざ帝国から遠路はるばる獅子王国まで来る者は少なかった。
「それはやはり金でしょうな。それに確か、第九王子の母方の実家は帝国とも関係があるとか」
「帝国と関係だと?爺、どういうことか説明せよ」
「はっ!王子も知っている通り、第九王子の母方の実家は我が国のれっきとした伯爵でございます」
「うむ。それは当然知っておるぞ」
「はい。ですが、実はその伯爵家の現当主は代々続く獅子王国の貴族であると同時に、帝国の血も引いているのです」
「帝国の血を?」
「そうです。と言うのも第九王子の曾祖母は帝国の人間で、しかも彼女は皇族の血を引く者なのです」
「帝国の皇族だと!?」
王子はものすごく驚いた声を出す。そして、まさに開いた口が塞がらないという状態になった。
「つまり第九王子の実家は、その縁でずっと帝国と関係を持っていたということですか?」
王子がいまだびっくりしたままのため、優斗が代わりに執事に質問をする。
「はい。また伯爵家は飛行できるモンスターを何体も使役しているため、遠く離れた帝国とも交流をしやすかったのでしょう。
そういうこともあってあの家と帝国は仲がいいのです。おそらくはその縁を使ってあの冒険者パーティーを雇ったのでは?帝国の貴族や皇族なら自国の優秀な冒険者とも顔が利くでしょうから、第九王子が帝国の冒険者を配下として雇っても何ら不思議はありませんね」
「つまり次の相手は白金級冒険者パーティーというわけか……」
優斗はすでに王子たちが去った舞台を見て考えを巡らせる。今見た情報を整理して作戦を考え、次の戦いに備える。今優斗の頭の中にあるのはそれだけであり、どうやって勝つか脳内でシュミレーションしていた。