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準決勝 2

「くそっ!やはり数の差が大きいか。それに武器のほうも、一回戦に見た時よりグレードアップしているのか!?」


  第一王子対第十八王子の戦いが始まって数分。状況は完全に第十八王子側に傾いていた。


「武器を新調しておいてよかった。これならさほど問題なく勝てそうだ」

「やはり『インフィニティーズ』は強いな。これは完全に金級冒険者じゃなくて、白金級冒険者の持つ力だな」


  第一王子が『インフィニティーズ』の強さに驚く。一回戦を見て簡単な相手ではないことはわかっていたのだが、優斗たちがVRベリーレアも装備に加えたこともあって、彼女は客席で見ていた時以上に『インフィニティーズ』が手強く感じた。


「王子!どうなさいますか!?」

「このままでは我々の負けですぞ!」


  第一王子の配下たちも自分たちの不利を当然理解しており、何とかしてこの状況を打開しようともがいていた。


「大丈夫だ!これから私は獅子になる。お前たちはそのサポートを頼むぞ!」

「「はっ!」」


  第一王子の配下たちの目に希望がともる。


「これは邪魔だな」


  第一王子は身にまとっていた分厚い鎧を脱いで軽装になり、そして持っていた剣すらも手放した。


「なんだぁ?諦めた……わけじゃないよな」


  優斗は鎧を脱ぎ、そして手持ちの武器すらも手放した第一王子を見ていぶかしげな声を上げる。第一王子は分厚い鎧を身にまとっていたため、それを脱ぎ軽装になることで防御力を多少落としてでもスピードを高めようという考えはわかる。しかし戦士にとって最も大事である武器を手放すというのは理解できない行為であり、その姿を見て戸惑いを浮かべた。


「まずい!姉上は獅子になるつもりだ。お主ら!厄介なのが来るぞ!!」


  第十八王子が大声を上げて優斗たちに警戒を促す。彼女は非常に焦った様子であり、口調もすごい早口で聴力が優れている優斗たちがかろうじて聞き取れるほどで、離れたところにいる観客たちはおろか舞台上にいる第一王子の配下たち、そして最も彼女の近くにいる女騎士ですらも十分に聞き取れないほどの早さであった。


「獅子になる……?そりゃいったいどういうことだ?」


  優斗は第十八王子の言葉に首をかしげる……がそれも一瞬のことで、「まあいい。とにかく危険ならそれが出る前に終わらせてしまえばいいんだ」と言い攻撃魔法を放った。


「やらせん」


  しかし優斗の放った魔法は第一王子の配下に止められ、魔法が王子まで届くことはなかった。


「まだまだ」


  優斗はそう言って次々に攻撃魔法を放つ。そもそも彼は漫画やアニメでヒーローなどが変身したり必殺技を放とうとして準備しているときに、なぜ敵はその隙をついて攻撃しないんだと思っていたタイプだ。それに今魔法は第一王子の配下によって防がれてはいるが、防いでいる者はかわすことができないためある程度のダメージを負う。

  つまり優斗からすれば王子が強くなる前に倒す、ことはできなかったとしても、王子がパワーアップする前にダメージを与えることができればよし、それが無理でも今自分の魔法を防いでいる者がダメージを負えば結局自分たちに有利になるので、どちらにしろ今攻撃するのは有効だという計算であった。


「これでどうだ?」


  優斗はさらに強力な魔法を放ったのだが……


「グオォォォ」


  その魔法は唸り声をあげた獣によって防がれた。


「それが……」

「グガァァァ」


  優斗が言葉を言い終える前に、獣が凄まじい速度で優斗に対して向かって来た。


「ちっ!面倒な」


  優斗は飛行魔法で獣の突進を紙一重でかわす。


「グガァ」

「マジか!?」


  獣は優斗に空を飛んでかわされた後、そこからすぐ優斗に向かってジャンプしてきた。


  獣が行ったのは猛スピードでの突進からそれがかわされてすぐ急停止し、そして少し後ろの上空にいる敵めがけてのジャンプだ。スポーツをしている者ならわかるかもしれないが、全速力で走ってから急停止してさらに後ろに、しかもその上高いところにいる相手に向かって飛ぶという動きは、体に負担がかかるうえに急停止から後ろにいる相手に向かってジャンプするのにも時間がかかる。

  しかしこの獣はそれらすべての動きを一秒以内に終わらせてきた。しかもその獣の突進はそれこそ車並みに速く、決して人間が出せるような速度ではなかった。


  スピードが速ければ速いほどそこから急停止することも難しくなる。さらに優斗が飛んでいる高さは二、三メートルなんかではなく、五メートル以上の高さにいる。


  つまりその獣は車並みに速いスピードとそこから急停止してすぐ切り返せる脚力、そして五メートル以上の高さにも簡単に手が届くほどの跳躍力を持った怪物であった。


『パリーン!』


  優斗が張った障壁が獣によって壊される。しかしその間にまた少し距離を取った優斗が、空中にいる獣に向かって魔法を放つ。


「グガッ」

「なんだと!」


  獣は身動きをとれないはずの空中で、優斗の放った魔法を軽々とかわした。そのかわし方は飛行魔法でかわしたというよりもまるで空中に足場ができたようであり、獣はダメージを負わず地面に舞い戻った。


「あれはいったい……」

「お主ら!まずは姉上を倒すのだ。あの状態の姉上はものすごい力を誇るぞ」

「だからそのすごい力ってなんやねん!」


  敵の力が分かっているようで慌てる第十八王子だが、女騎士はともかく『インフィニティーズ』はなんのことだかさっぱりである。

  もちろん目の前の獣が変身した第一王子であり、彼女が獣に変身したことでさっきより強くなったことぐらいは理解している。しかしそれが具体的にどんな力なのか分からないのだから、その詳細を語らず敵に注意しろとしか言わない王子に文句を言いたくなるのも当然であった。


「あれは獣化だ!姉上は獣化を使ったのだ!!」

「「「「あれが獣化か……」」」」


  獣化という能力のこと自体は知っていた『インフィニティーズ』の面々は、獣に変身した第一王子を見て、それを興味深く観察した。


  獣化というのは文字通り獣になる能力であり、獣人がその元となっている動物に変身することで自分の能力を向上させるスキルである。彼らは獣に変身することで、変身前以上の筋力や魔力を手に入れ、そして変身する前には使えなかったようなスキルや魔法すらも使えるようになる。


  変身することによって得られる能力はその種族によって大きく異なり、また個人によっても少し違いが生じる。

  ただしその能力によってプラスにはなってもマイナスになることはなく、獣化を使える獣人たちは皆それを切り札としていた。


「姉上の能力は筋力向上だ!今の姉上のスピードとパワーは危険だぞ!」

「もう見たさ。つまりあれを近づけさせるなってことだろ」


  優斗は上空から魔法を放つ。どれほどのスピードとパワーを持っていたところで、その攻撃が当たらなければなんの意味もない。空中に足場を作った能力はスキルなのか魔道具によるものなのかはまだ不明だが、それでも空中で自由自在に使えるものではないはずだ。もしそうならあの場で引くことはせず、魔法をかわしてからこちらに反撃をしてくるだろう。そう考えた優斗は常に障壁で防げるよう準備しながら、目の前の獣、いや獅子に向かって魔法を放ち続けた。


「ちっ!やはり素早いな」


  優斗の放った魔法はすべてかわされる。優斗も敵のスピードを考慮して効果範囲の広い魔法や威力よりも速さを重視した魔法を放っているのだが、その努力も無駄に終わってしまった。


「グガァ!」

「そうきたか!」


  獅子は第一十八王子のもとに向かう。そして王子を倒されれば負けてしまう優斗は、王子を守るため獅子の移動を阻害する。


「その程度では止まらん」


  さっきまでとは違い唸り声ではなく言葉を発した第一王子、彼女は優斗の魔法による妨害を時にかわし時に真正面から打ち破りながら、すぐに第十八王子のもとまでたどり着いた。


「王子はやらせん!」

「お前程度では話にならん」


  王子をかばい第一王子の目の前に立った女騎士であったが、彼女は王子の攻撃によって一蹴されてしまう。


「これで終わりだ」


  第一王子の爪が第十八王子に刺さる……と当の本人の第十八王子や観客は確信したが、第一王子は爪を当てる直前で後ろに跳んだ。


「まだ邪魔をするか」


  見ると第一王子がいたところにはナイフが刺さっており、王子はそれをよけたのだと皆理解することができた。


「ここからはうちらも参加させてもらうで」


  ユズとアシュリーが第一王子に対して武器を向けている。


「我が部下たちはやられたか」

「せやな。こっちも一人やられたけども、そっちのお仲間は全員倒させてもらったで」

「どうする?降参するか?」


  アシュリーが第一王子にそう問いかけるが、王子は不敵な笑みを浮かべこう言い放った。


「そんなはずないであろう。ようやく面白くなってきたのだ。ここで降参などすると思うか?」


  その言葉を合図に、彼女たちの戦闘は始まった。


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