打ち合わせ
「ではあなた方が第一試合を行う、ということでよろしいでしょうか?」
「うむ。妾たちが第一試合を行うことにする」
現在闘技場にある一室では、今回の大会を取り仕切る運営委員と出場者の王子たちが今日の試合順についての打ち合わせをしていた。
そしてその結果、第十八王子対第一王子の試合はこの日の準決勝第一試合、第四王子対第九王子の試合が準決勝第二試合で行われることとなった。
「それでは打ち合わせはこれで終わりにさせていただきます。皆様のご健闘をお祈りします」
打ち合わせが終わった後、王子たちは順番に部屋から出ていく。さすがにこれから戦う相手と話すような者はおらず、四人とも黙ったまま自分の配下たちのほうに向かった。
第十八王子の執事と女騎士、そして『インフィニティーズ』が集まって今日の相手に関する情報を確認したりしているところに、打ち合わせを終えた王子が戻ってくる。
「王子、今日の試合は何時からになりましたか?」
「第一試合だから正午だな」
「なるほど。他の王子は文句を言ってきましたか?」
「何やら言いたそうな者もおったが、知っての通り今日の対戦順については妾に優先権がある。基本的に妾が第一試合にしたいと言えばそうなるし、反対に第二試合にしたいと言ってもすんなり通る。
よっぽどその順番が嫌な場合は交渉してくる者もおるらしいが、今回に関してはそういった交渉の類も一切なかったぞ」
この大会のルールとして、その日の最終試合を戦った者は次の日に自分たちがいつ戦うのかを選ぶことができる権利を有するというものがある。第十八王子はこれを適用することにより、打ち合わせで自分たちの試合を第一試合にすることができたのだ。
普通の大会なら昨日第一試合を行った者と第二試合を行った者の勝者が今日の第一試合を戦うものだが、この大会ではそれが必ずしも適用されるわけではない。というより、むしろ今回のように第四試合をした者が次の日に第一試合を望むということのほうが多い。
なぜなら今回のようなトーナメント戦においては、先に試合をしたほうが若干ではあるが有利になるからである。その理由は主に二つあり、休める時間の長さと敵の試合を見れる時間とその場合の精神状態があげられる。
休める時間の長さというのはシンプルだろう。単純に先に試合を終えたほうが次の試合になるまで時間ができる。これが次の試合が一週間後にあるというトーナメント戦の場合は問題にならないだろうが、今回のように開幕から優勝者が決まるまで毎日試合をする場合には影響が全くないとは言えない。当然次の試合までに休める時間が長いほうが有利であり、そういう点では初日の最後に試合をした第十八王子が一番不利である。
次に敵の試合を見られる時間とその場合の精神状態というのは、自分の試合が終わって、もしくは自分の試合が始まる前に次当たる相手の試合を見る時に、先に試合をしていたほうが試合を見る時間が長くなり、またその時に余裕をもって見られるということだ。
例えば今回のトーナメントの場合は、自分の一つ前の相手が試合をしているときに次の試合を行う者たちが控え室で準備をするというシステムだ。つまり第二試合を行う者は第一試合を全く見ることができず、逆に第一試合を行った者は第二試合を存分に見ることができるのだ。実際第十八王子側は第三試合の第一王子対第五王子の試合を自分たちの目では全く見れておらず、反対に第一王子側は第十八王子対第十三王子の一戦を余すところなく見ることができていた。
そして精神状態についてだが、次に当たる相手の試合を見る場合でもすでに試合が終わっているかどうかで、その時の集中力などが変わってくる。例えばまだ自分の試合が残っている場合では、まずその目の前の試合に勝たねば次の進むことができない。そのため頭の中は目の前の試合について考えるのが優先となり、その次当たるかもしれない相手を研究している余裕がそこまでないのだ。
よってトーナメント戦においては先に試合をするほうが確実に有利であり、皆誰しも先に試合を終えておきたいのである。
準決勝は第一試合と第二試合の間が一回戦の時よりも長く、第二試合を行う者も第一試合をすべて見ることができる。そのため相手の試合を見れる時間は変わらないのだが、その分休める時間が減るのでそこまでプラスに働くわけではない。
そして精神状態については変わらないため、結果的に皆第一試合になりたがる。
前日最後に試合をした王子が次の試合で先に試合をしない場合も過去に何度かあったが、それらはすべて一回戦での消耗が激しかったために試合を遅らせてもらったからであり、皆本音では第一試合にしたかったのだ。
今回の場合は昨日活躍した『インフィニティーズ』にあまり疲れがないということで、第十八王子が第一試合を希望したのだった。
「王子、そして騎士の方も、昨日と違い今日の試合は働いてもらうかもしれません。当然のことですが、敵と戦うために心の準備をしておいてください」
「当然だ。妾はお主らに比べれば弱いが、それでも妾がやられれば負けになる。どんなことをしてでもやられるつもりはないぞ」
「もちろんです。王子の身は私が守ります」
王子と女騎士は、昨日の戦いを通して『インフィニティーズ』が自分たちよりも数段優れた実力者であることを理解することができた。そもそも王子は青級にも届くかどうかすらも怪しいくらいであり、それよりは強い女騎士も銀級にぎりぎり届かないくらいの実力であった。
実際昨日の戦いでも相手の王子と並んで弱い部類に入り、白金級に匹敵する騎士はもちろん銀級冒険者の兄弟やあっさりやられた魔法使いよりも低い実力しかなかった。
元々金級冒険者ということで『インフィニティーズ』が自分たちよりも強いことは予想できていたが、それでも昨日自分たちの目で確認して予想以上に強いことが分かった。そのため二人は自分たちが足手まといであることは十分理解しており、大会では自分の身を、とりわけ王子がやられないようにすることしかできないということも分かっていた。
それを踏まえて作戦では『インフィニティーズ』が攻めて王子は自分の身を守り、女騎士は王子のそばで護衛し続けるということになった。
「では作戦通りいきましょう。それとこれは万が一のためのマジックアイテムです。念のため王子につけておいてもらいたいのですが」
そう言って優斗は魔力の籠ったネックレスを渡す。
「これをつければいいのか?」
「はい。もちろん念のため鑑定をしてくださっても構いません。王子のような身分の高い御方が、他人からもらったものを簡単につけるのが軽率だということは知っていますから」
「そうか。では、お言葉に甘えて鑑定させてもらう」
そう言って王子は執事にそのネックレスを渡す。渡された執事はそのネックレスを目を凝らしてよく見た。
「ふむふむなるほど。こういう効果ですか。王子、このネックレスに危険はありませんよ。それどころか、かなり有用なものであると断言できます」
「そうか。ならば問題なかろう。ありがたくつけさせてもらうぞ」
王子は執事に返されたネックレスを手に取り、それから自分でネックレスを首にかけた。
「では試合が始まるまでは雑談などして交流を深める、ということでどうですか?」
「うむ。異論ない」
こうして優斗たちは、試合が始まるまで雑談をしてお互いの理解を深め合った。