カスタム
今回は今までの倍くらいあります。
「そんじゃ今日は狩り組と実験組、後は警備組に分かれるか」
狩り組は外で活動してDPに変えるためのものを持ってくること、実験組はダンジョンコアにできることをいろいろ研究していくこと、そして警備組は召喚されたモンスターたちと一緒にダンジョンの警備をすることが役目である。
またそれ以外にも、狩り組はダンジョンのある森の調査、警備組はダンジョンモンスターや召喚モンスターを鍛えて、それらがどれくらい成長するかどうか試してみるという役目もある。彼らはアコも入れると全員で十二人いるため、四人ずつ三組に分かれることになった。
組み分けは狩り組にユズ、アシュリー、フレイヤ、ヒルダ、実験組は優斗、エリアス、アコ、ミア、警備組は千代、クレア、イリア、シルヴィアとなった。
さっそく全員が組に分かれて行動し、狩り組は森に、実験組はダンジョンコアの部屋に、警備組は普段みんなで過ごしている場所で警備と訓練に打ち込んでいた。
「そろそろ第二階層を出しておきたいな。三階層はDPの関係でやめておくが、第二階層くらいは出してみてもかまわないだろう」
「わたちもおおきくなれるかなー?」
「ダンジョンの拡張……いい刺激になるかな?」
優斗たちの二日間の狩猟採集のおかげで、無理すれば今から第三階層までは出せるが、それだと今あるDPがほとんど0になってしまう。
階層を増やしたり広げたりすることで地脈から得られるエネルギーが増えるので、ダンジョンを大きくするのは長い目で見ると得だが、今は何よりダンジョンの機能をもっと知っておきたいと優斗は考えていた。
もちろん優斗はアコからいろいろとダンジョンについては聞いている。しかし百聞は一見に如かずという言葉通り、自分の目でもダンジョンの機能について直接確認したいと思っていた。それに、アコの説明だけでは腑に落ちない点があることも事実であった。
「とりあえず今の第一階層と同じくらいの広さの第二階層を作るか」
優斗がダンジョンコアを操作すると、優斗たちが暮らす第一階層の奥に、下へと続く階段が現れた。
「確かコアの移動自体は簡単にできるんだったよな?」
「そうでしゅ。へややかいそうのいどうにはDPがひつようでしゅが、ダンジョンコアのいどうにかぎってはダンジョンマスターのにんいでいどうさせることができましゅ」
「じゃあまずダンジョンコアを第二階層に移動させるか。とりあえずこの隠し部屋は万が一の時にダンジョンコアが逃げる部屋として取っておこう。えーと、確かこうすれば移動できるんだったよな」
優斗はダンジョンコアを第二階層に送った。優斗たちはダンジョンコアと一緒に移動することはできないので、一日で使われなくなった旧ダンジョン部屋から出て、第一階層の階段を下って第二階層に向かった。
「うーん。聞いてた通りまるで変わらないな」
優斗たちがいる第二階層、そこは第一階層とまるで何一つ変わらない部屋であった。
「それならミヤが階層の模様替えをします!」
「アコもー!」
「二人ともやる気になっているところ悪いが、今のところそんなDPの余裕はないぞ」
第二階層を出すのにそれなりのDPを使ってしまったのだ。今日はそれ以外にも魔物のカスタムと言うのを試してみたりなど、ほかにすることはたくさんある。
また、階層の模様替えと言ってもいくつかパターンがあるが、それらはどれもなかなかの量のDPを使うことになると考えられる。
特に階層を丸々森や湖にしたりといったものになると、それこそただ階層を増やす以上のDPが必要になるのだ。今のDPの余裕からして、階層の模様替えをするとしてもDPを使った模様替えと言うのは絶対に容認できないことなのである。
「じゃあ何するんです?」
「魔物のカスタムだよ。今のDPなら三体くらいまでは試せそうだ」
優斗はダンジョンコアを操作して魔物のカスタムを行う。魔物のカスタムとは、ダンジョンコアから出てくるモンスターを既存のモンスターではなく、いろいろと改造することができると言う機能だ。
例えば、悪魔には飲食不要と言う特性がある。これは悪魔の長所であるのだが、この長所を消してその悪魔が飲食しないと生きていけないようにする代わりに、その悪魔を出すときのかかるDPが少なくなる。反対にゴブリンを飲食不要にした場合は召喚するためのDPが増えるといったシステムである。
魔物をカスタムするという行為だけでも少しDPを消費するため効率はあまり良いわけではないが、それでも強いモンスターを作ろうとする場合にはかなり有力な手ともいえる。
強さだけでなく不老などの設定も付けることができるため、いろいろなことに使えると思われる。すでに召喚されているものに対して後からカスタムすることはできないというルールがあるが、それでも将来たくさんのDPが入ったらかなり使えるシステムだ。
またカスタムにも限界はあり、種族によって強さの上限が設定されている。スケルトンをどうカスタムしてもドラゴンに勝てるようにはならないなど、カスタムは決して万能ではないと言うことも覚えておく必要があるだろう。
ちなみに優斗たちにはダンジョンコアによる不老設定が付け足されていて、エリアスやシルヴィアのようなもとから不老の存在以外も長生きできるようになっている。
「どんな魔物を作るのです?」
「やっぱり飲食不要なのは外せないしなー。今手元には1000DPある。これだとやっぱり下級の魔物中心だから、どうしてもゾンビとかスケルトン中心になるかな?」
ドラゴンなどの強い種族を召喚したい場合、カスタムなしの普通の召喚でも、一番弱い奴で1万DP以上はする。カスタムにより能力値をかなり引き下げて、そのうえ使用可能なスキルや魔法を減らし、成長限界をすごく早めに、場合によっては全く強くならないと言うところまでに設定すれば1000DPでもドラゴンなどを召喚できるが、さすがにそこまでしては召喚されるモンスターがかわいそうである。なので、優斗はスケルトンなどの弱いモンスターを強くカスタムする方向で考えているのだ。
「ゴブリンはだめなのです?」
「難しいな。飲食不要をつけるにはDPをかなり消費する必要がある。それにゴブリンは基本的に寿命が短い。出てきてもDPがかかる割にすぐ死んじまうぞ」
飲食不要と言うのはかなり有用な能力である。そのため、カスタムで飲食不要を付けようとしたらかなりのDPがかかるのである。また、ゴブリンの寿命は短い。これを長くするとなるとまたさらにDPがかかるようになるのだ。
そして弱い種族であるゴブリンは当然成長限界も早い。つまりカスタムして強くしたとしてもあまり意味がないのである。そういう意味では、ゴブリンより基礎能力が低いとはいえ食事睡眠不要と不老不死がついているアンデッドは非常に優秀だといえる。
もっともゴブリンの最大の長所は繁殖力であるため、餌が豊富にあるようなところでは生殖などによって増えないアンデッドよりも、放っておいても勝手にたくさん増えてくれるゴブリンなどのほうが有用な場合もあるのだが、いろいろと余裕のない今の優斗たちの状況からすると、ゴブリンと言うのは召喚したくないモンスターの一つに挙げられるほどいらないといえるだろう。
「じゃあやっぱりスケルトンです?」
「まあそうなる。1000DPあるとはいえ、それを全部使いたくはないからな。あくまでこれは実験なわけで、強いモンスターを作ると言うよりカスタムモンスターを作るというのが主題だから」
1000DPではどう頑張っても強いモンスターは作れない。それに今の優斗たちにはDPを無駄遣いできるような余裕もない。1000DPあるとはいえ、できればすべて使わずに半分くらいは残しておきたい。そしてどうせ召喚するなら使えるモンスターを召還したい。その結果、結局安く召喚できるスケルトンをカスタムして作るしかなかったのである。
「こうしてこうして、こうすればオッケーだな」
優斗はダンジョンコアを操作して、モンスターの中で特に弱い種族であり飲食不要で不老不死と言う特性だけのスケルトンに、ステータスを若干強化して氷魔法と剣術系のスキルを一つずつ使えるようにした。何らかの種族特性を付けたりするのはとりあえず後回しにして、まずはスケルトンを単純に強くしてみたのであった。
優斗たちが先日実験したところ、戦士系のスキルや職業を取っていなくてもインフィニティの時と同じように装備して使うことができた。そのため剣術系のスキルがなくとも剣を使うことができるのだが、剣術系のスキルがあれば当然剣を使う時に有利に働く。
優斗たちはすでに何体もダンジョンモンスターを召還しているが、そのモンスターたちにはステータスにレベル、職業といったものはなかった。あるのは種族とスキル、それと魔法だけであり、それ以外のインフィニティ時代にあったものは数くなくとも数字としては表れなかった。
もちろんこれはダンジョンモンスターだけの話であり、外のモンスターや人間たち(まだこの世界の人間を優斗たちは見たことがないが)はそれがある可能性はある。今のところ優斗たちが出会ったモンスターにはレベルやステータスのデータがなかったが、それはこの森にいるモンスターだけの話かもしれないし、まだこの世界に来て三日目の優斗たちが知らないモンスターはこの森の中だけでも確実にいるだろう。しかし、少なくとも今のところ優斗たちがみた生物にはそういった概念がないようであった。
「見た目は普通のスケルトンとまるで変わらないな。ちょっと俺に攻撃してみてくれないか?」
「……」
スケルトンは首を振った。スケルトンは基本的に言葉をしゃべることができないため、コミュニケーションがとりづらいのである。
「主を攻撃するのは嫌だとか無理だとかそういうことか?」
「……」
スケルトンは黙って首を縦に振った。
「無理なのか嫌なのかどっちなんだ?いやこれは嫌のほうだな。なんせ俺が命令しているんだから無理と言うことはないはずだ。そうだろ?」
「……」
スケルトンはまた首を縦に振った。
「ダンジョンモンスターの忠誠心はまた後で調べてみる必要があるか……だがこれは命令だ。いわば模擬戦のように思ってくれて構わん。それに、どうせお前の攻撃では俺に全然ダメージを与えられないと思うぞ」
優斗は魔法職とはいえ、当然レベルにふさわしいだけの体力や防御力を持っている。それに優斗たちトップクラスのキャラクターともなれば、様々な攻撃への耐性をスキルやアイテムで得ている。
優斗は魔法職であるため、魔法防御力が高いが物理防御力は低い。しかし、それでも〈斬撃耐性3〉や〈刺突耐性3〉などの防御スキルを取っているのだ。召喚されたスケルトンのレベルはせいぜい10レベルに届かないくらいである。体力や耐性などを考慮すれば、スケルトンからどんな攻撃が来てもまともなダメージを負うとは考えられないし、ダメージを受けたとしても体力の自然回復ですぐ回復できるレベルなのである。
そのため多分このスケルトンがどんなにあがいたとしても、優斗に勝つことどころか追い詰めることも絶対に無理である。
「……」
「ん?やってみてくれるのか?」
「……」
スケルトンは首を縦に振る。
「よし来い」
スケルトンは優斗に渡された銅の剣を使って優斗に斬りかかった。
「やっぱり効かないな。次はスキルを使って攻撃してみてくれないか?」
「……」
スケルトンはスキルを使って攻撃する。しかし、相変わらず優斗には全然効いていない。
「全然効かないな。こんなに効かないもんなのか?俺は確か無効化のスキルは取っていないはずだぞ」
キャラクターによっては、種族的特徴として、もしくは得た職業によって、敵の攻撃を無効化できるスキルを持っている者がいる。もちろんその無効化というのには限界があり、無効化能力は優斗たちトップクラスの戦いではまるで意味をなさない。そのため、優斗はわざわざ無効化スキルを取っていなかった。
無効化能力は一か百かという能力であり、それが通用するのは雑魚のみであった。それならばどんな攻撃にもある程度は効くダメージ量減少などの能力のほうを取るのは当然であり、優斗のように遊び心ゼロで作った戦闘特化型のキャラクターには、種族的特徴で強制的に得られるというキャラ以外で無効化能力を持っている者は一人もいなかった。
つまり優斗にはどんなに雑魚の攻撃であってもほんのわずかには効くのだ。もちろんそんな攻撃で負ったダメージなどすぐに回復するのだが、それでも全く効かないというのはおかしいのである。
「優斗はたしか魔法のかかった攻撃しか効かなくなかったですか?」
「そういえばそうだったかも」
優斗には、というより魔法職をある程度極めた者たちには魔法のまったくかかっていない攻撃はまるで意味をなさない。これはある程度魔法職を極めた者には強制的につく能力であり、魔法職最強である優斗も当然その能力を保持していた。
もちろんこの能力も強敵にはまるで通用しない能力であり、そもそもインフィニティではほとんどの武器に微弱でも魔法がかかっているため、強敵どころか雑魚に対してもまるで意味を持たない。
あまりに価値のなさすぎる能力のため優斗自身もその存在を忘れていたのだが、優斗がスケルトンに渡した武器は魔法のかかっていないCの、本当にただの銅剣であった。これでは優斗にダメージを与えられるわけがない。それにスケルトンの使えるスキルもそういう攻撃ができるものではないため、ダメージを与えるには氷魔法を使って攻撃しないといけなかったのである。
「ならこのスキルを切っておくから、最初に普通に剣で攻撃して、次にスキルを使って剣で攻撃、それが終わったら氷魔法を俺に放ってみてくれ」
「……」
スケルトンは首を縦に振って攻撃を開始した。優斗にとって弱すぎるその攻撃がすべて終わったころには、もう優斗の体力は自然回復により元の満タンにまで戻っていた。
「やっぱりスキルを使うと違うな。このスケルトンも進化できる設定にはしていないけど、今度作るやつは進化先も作っておくか」
優斗が今までダンジョンコアによって作ったモンスターたちは全員種族進化できる設定にはなっていない。そのためどれだけ強くなってもずっとスケルトンのままだし、そもそも成長限界により全然強くなれない。種族進化までできるようにするとまたたくさんのDPがかかるのである。もっとも、種族進化できる設定にするのと最初から進化先の種族で召喚するのとでは、当然後者のほうが必要なDPは多いのだが。
「とりあえずは数合わせに何体か作っとけばそれでいいや。そろそろ狩り組も帰ってくることだし、みんなで晩御飯としゃれこみますか」
「「「おー!」」」
優斗たち実験組は新たに完成したスケルトンとともに、上にいる警備組たちと合流した。