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商家の息子を救え!オガー島 襲撃作戦!! part.4

 アイアンアイアイは呼ぶのも書くのも読むのも大変なため、『猿山鉄郎』と名付けられた。


「いやぁ、名前を付けて貰えるなんて初めてのことですよ。アイはこう見えて、長く生きているんですがね」

 

 猿山哲郎が笑いながら言った。鉄仮面は粉々に壊れてしまったため、もう付けることができない。

 笑ってはいるものの、ちぢれた毛がぼろぼろと生えていて、ぎょろぎょろとした目つきはとても気持ちが悪い。

 


 普通の人間が見れば嫌な顔をして避けていくところだろう。しかし、ファウもシャーベリアンも普通の人間や生物ではない。

 

「あんさんたち、アイの顔を見ても嫌な顔をしないんですな。普通の連中は嫌がってどこかにいってしまいやすよ」

「なんだ。どっか行って欲しいのか?魔界じゃお前みたいなのは珍しくもなんともないぜ」

 


 魔界では忌み嫌われる容姿を持つことをステータスとしている魔族やモンスターも数多くいる。

 多くは見掛け倒しだが、中には見た目と実力を兼ね揃えた猛者もいるのだ。

 


 「アイなんかはどうでしょ?魔界じゃ戦える方でしょか?」

 「うーん、まぁ楽しく毎日が送れるんじゃねぇか。気を抜くと死ぬぜ」

 「そりゃ楽しみですわな」

 


 他愛のない会話が続いている。さて、そうしているうちにオガー島の近くへとやってきた。

 オガー族の島、オガー島だ。島だけあって、海に浮かんでおり、乗り込むためには海を渡らねばならない。

 


 「泳いでわたるにはしんどいな……」

 


 ファウは水泳が出来ないわけではないが、さすがに普通の服を着たまま、海を泳ぎ渡ることができないだろう。

 ついでにシャーベリアンと猿山哲郎もつれている。話によれば、二人は泳げないそうだ。

 


「泳げなくてもいいからさ、お前らは足には自信ある?」

「私は犬ですよ?犬といえば脚に自信があるのが普通でしょう!」

「あの鉄仮面は重量にして40kgあるんでさ。全身に付けてる重しを外せば……脚力には自信がありますぜ」

「それじゃあさ、これから私が海を割るから、その間に島まで走るんだ」

 


 えっ?と二人……いや、二匹の顔に驚きの色が浮かんだ。

 ファウが話すには、腕を振るった時の衝撃波で海を真っ二つに割るのだという。普通の人間ではとてもできない芸当であり、普通の人間に見られたら常人ではないことを疑われてしまうところである。

 

 常人でないと疑われること自体は、ファウにとって何の問題でもない。問題でもないが、魔界の規則では人間界では、破壊行為や迷惑行為を行うことを禁止しているのだ。

 

 海を割るほどの衝撃波を起こすのは通常では人間界の常識の『破壊行為』に当たるため、バレたら罰則が適用されるだろう。

 

 しかし、この場に置いてそれを見て居る者は誰もいない……はずである。

 シャーベリアンも猿山鉄郎も人間ではないし、どちらかというと魔界側に近い生物である。

 


「しかし、ファウさん。それをやったら、オガー島のオガー族達が騒ぎ出すのではありませんか?」

「出てきたヤツは出会いがしらに叩きのめせばいいだろ」

 


 シャーベリアンは苦笑を浮かべて黙ってしまった。暴力沙汰は苦手なので、困ってしまったのだろう。

 


「まっ、気にすんなよ。お前はどさくさに紛れて商家の息子でも探してこいよ」

「ハハッ、そうでした。私は犬なので鼻が利くんですよ。人間の臭いならすぐに分かる」



 さっとファウは海へ向けて腕を振るった。

 軽く振ったつもりでも魔王の娘であるファウの腕力なら、そこから強い衝撃波が生じるのだ。

 あっという間に海が割れて道ができた。海底はドロドロしているので滑りやすい。気をつけて進まなければならない。

 


「結局走れませんね、こりゃ」

「海底なんか歩く機会はねぇからな。知らなかったんだ」



 ファウとシャーベリアン、猿山鉄郎はオガー島へと着いた。

 一見するとのどかな自然そのままの島に見えるが、辺りからは殺気がびんびんに放たれている。



「いやに静かですなァ……アイだったら、すぐに駆け寄ってきますがね」

「そうでもないようです。正面の木の裏側に2人、左右の砂の中……地中に1人ずつ居ますよ」

「お前、役に立つじゃねぇか」

「それはもう、犬ですから。それでは私はこれくらいで……捕まっている人間を探してきますよ」

「おう、頼んだぜ」


 ファウが正面の木へ殺到し、猿山鉄郎が右手の籠手をぽい……と投げ捨てた。

 正面の木はファウの一撃で蹴り折られた。木を折り倒しながら、なおもファウの勢いはとまらず、後ろの襲撃者も捉えたはずであった。

 


 「…………おっ!?」

 


 その蹴りが止められた。さっとファウが脚を引いた。

 


「私のハーメッツァーキックを受け止めるヤツがいるなんてな」

「ハ、ハメッツァ?……なにいってるのキミ?」

 


 ファウの蹴りを止めた襲撃者は驚きの声を上げている。見たところ12歳くらいだろうか。オガー族の特徴である小さな角が頭に生えている。

 


「ハーメッツァーキックだよ。私の必殺技さ」

「そ、そーなんだ……」

 


 相手の姿形や声は幼いが、ファウの蹴りを止めたことには着目しなければなるまい。

 魔界でもファウの暴力を止められる魔物は少ない。ほとんどの場合は、威力に耐えられずに吹き飛ばされている。

 


 「お前、何者だ?」ファウは問いかけた。

 「僕はヌエール、海が割れたから様子を見て来いって、テルルさまに言われて、見に来たんだけど……もしかしてお客さんですか?もしくは侵入者?」

 


 もちろん後者である。しかし、ファウはそんな問答には興味がない。

 


「人間のお客さんがそろそろお帰りの時間なんだよ。それで迎えに来たんだ。とっととテルルってのを出してよ。ぶっとばしてやっからさ」

「ええっ!?なに無茶苦茶いってるのこの人!?」

 


 ヌエールが声を細くして叫んだ。助けを求めるように連れてきたお供の姿を探してみると、既にお供は猿山鉄郎に倒されていた。

 猿山鉄郎が相手をしたオガー族は2匹、砂の中に潜むことができる砂童(サッパ)の兄弟で名前をサンとドージュという。

 

 ドージュは猿山鉄郎の投げた籠手……もとい猿山鉄郎の重力増強を受けて大きな鉄の塊と化した籠手を頭に受けて絶命した。

 サンは地中を移動して猿山鉄郎をかく乱しようとしたが、ドージュの即死についつい逆上してしまった。

 


「よくもドージュを!!」

 


 うっかり飛び出した先が猿山鉄郎の正面であったため、そのままボディブローを決められて地に堕ちた。

 


「お供もおねんねみたいだぜ。ほらほらテルルを早く出せ。おい、サル、コイツ……なんてったっけ?」

「ヌエールって聞こえましたけど?」

「なんでもいいからコイツを取り押さえろ。コイツをエサにしてテルルやその他ザコをおびき出してやる」

「へいへいわかりゃしたぜ。ファウのアネゴ~」

 


 ヌエールはファウのハーメッツァーキックを止めた猛者である。そのままでは羽交い絞めにして取り押さえられないので、当て身を数発入れた後で手と足を厳重に縛り上げて、ついでに倒れている木に括りつけて拘束した。

 結局、羽交い絞めにしてないって?チビでも抱えるのが面倒なのだそうだ。木に括りつければ木を担ぐだけで済む。それに……

 


「なんだ!?おまえら!!……あっ、ヌエールが捕まってる!?このやろう!!」

 


 ヌエールを見たオガー族のザコが向かってきた。そこでヌエールを括りつけた木を地面に突き立ててやった。これで猿山鉄郎もファウも心置きなく戦えるというワケなのだ。

 


「暴れるときは派手にやるんだぜ。そうすりゃ騒ぎを聞きつけたザコが次から次に出て来るからな」

 


 ファウが話すとおり、森の奥からオガー族がわらわらと出てきている。

 それを殴り、蹴り、叩きつけて、振り回す。あっという間に騒ぎは収まってしまっていた。

 


 「なんだよ。もう終わりかよ。サル、お前はどう?」

 「ちょっと疲れましたわ。ファウ姉さん、やっぱ強いなぁ」

 


 森から沸いてくるオガー族を見ていて、ある程度、どこの方角から沸いているかは判断をつけている。

 このまま乗り込むのも良いが、猿山鉄郎が疲れているとあっては、少し休憩を挟むのも良いかもしれない。

 


「サル、ちょっと休もうぜ」

「ありゃりゃ、ファウ姉さん……優しいな。お言葉に甘えさせて貰いまひょ」

 


 残ったコミックミートを二人で食べあった。

 少しだけ木に括りつけているヌエールにも押し付けてやった。



「うめぇか?うめぇだろ」

「お、おいひぃです……」



 体は動かなくても口だけは動くのだ。もぐもぐとコミックミートを噛んでいるヌエールの口にはやはり鋭く光るキバがあった。

 魔界でもここまでのものを持つ魔族や魔物はそうそういない。

 しかもヌエールは子供である。オガー族が人間やファウのような魔族と同じように歳をとるとは限らないが、その子供の姿でファウの蹴り(ハーメッツァーキック)を止めたり、鋭いキバを持つのは普通ではない。

 


 オガー族は嫌いだが、コイツを魔界に持ち帰って立派な手下としてこき使うのも悪くないなとファウは思った。

 ――思ったが、そう思っていて、それを実行に移している人物が他にいることを皆様方は忘れてはならない。

 


「ちょっとー!帰りが遅いと思ったら、なにやってるワケ?」


 不意に高い大声が響いてきたのだった。


「あんだよ?」

「テ、テルルさまぁ~」

 森の奥から一人の少女が姿を現した。

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